78_真里姉と彼とのお・は・な・し
お読み頂き、そして応援頂いている皆様のおかげで、2020年4月14日時点で累計PVが100万を超えました。
投稿した時には想像もできず、またも私の頭は処理が追いついておりません……。
本当に、ありがとうございます。
背中と手足が、硬くて冷たい何かに触れている。
けれど頭の後ろだけ、柔らかくて温かい、何かに乗っているようだった。
それはどこか懐かしい感触で、きっと私が一番子供らしかった頃の記憶に繋がっていて。
『母さん……』
そう心の中で呟くと、ふわりと優しく髪を撫でられた気がした。
あまりの心地良さに、そのまま意識を手放してしまいたいと思ったけれど、不意に彼の言葉が蘇り、私の意識は覚醒した。
目覚めると、そこには心配そうにこちらを見詰めるレイティアさんの姿が。
「大丈夫ですか、マリアさん」
「レイティアさん……どうしてここに?」
起き上がろうとする私を、レイティアさんの手がそっと押し留める。
「まだ起き上がらない方がいいですよ。かなり強い衝撃を受けたようですから。母屋にいた私にまで聴こえる程、大きな音がしたんですよ? 慌てて来てみたらマリアさんが倒れていたので、心臓が止まるかと思いました」
その手にはさほど力が入っているようには感じられないのに、私は不思議と抗う事が出来なかった。
再び頭の後ろに、あの感触が戻ってくる。
そっか、膝枕して貰っていたんだね……だから私は、昔を思い出して……。
現実ではもう二度と訪れる事の無いその感触に、しんみりしそうになっていると、視界の端に正座させられている3人の大きな子供達の姿が映り、しんみりとした空気は一瞬で消し飛んだ。
うん、なんだろうね? この物凄いガッカリ感は……。
「それで、皆さんが付いていながら、どうしてこんな事になったんです? そして彼は一体何なのですか?」
レイティアさんの笑顔度が増し、それに比例して怒る母のオーラも増している気がする。
ちなみに増していく倍率は笑顔度1に対し、オーラが4くらい。
つまり、とても怖い。
少しだけ首を動かし彼の方を見ると、椅子に座るというより、椅子に置かれた感じで、動く気配は無かった。
そんな中、またも説明責任を任されたのはマレウスさん。
「イベントのポイントで交換出来る対象に、マリアの家族を作ってやれるスキルがあったんだよ、ネロや空牙のようにな。俺達3人がイベントのランキングで上位になれたのは、マリアと同じパーティーだったからだ。だから3人で協力して、ちょっとしたプレゼントを贈るつもりだったんだが……」
責任を感じているせいか、ちょっとばつが悪そうだけれど、私の不注意もあるからなあ。
だって【厄災の荒御魂】のアイテムとしての説明には、『人々の怨念が凝縮』とか、『持ち主に災いをもたらす』とか、物騒な事ばかり書かれていたしね。
なおも叱りつけようとするレイティアさんを、私はその手を取り、軽く握った。
「もういいですよ、レイティアさん。ありがとうございます」
「マリアさん……」
起き上がって状態を確認してみるけれど……うん、大丈夫そう。
あれ? でもそうすると、なんか変じゃない?
「なんでHPは減っていないのに、気絶というか、意識を失ったんでしょう。強い衝撃を受けたから、というのは分かるんですが」
「それは原則、パーティーメンバーからの攻撃ではダメージを受けないからよ。でも一部の状態異常は別。以前ネロがマレウスを感電させたでしょう? あれと同じね」
なるほど、そう言われてみればそんな事もありましたね。
確か、初めてマレウスさんとカンナさんに会った時かな?
色々あり過ぎて、なんだか遠い過去の事のように思えた。
「では、彼が今動いていないのは?」
「マリアさんが意識を失ったことでぇ、スキルの発動が止まったからですねぇ」
すかさず答えてくれるルレットさんは、やっぱり頼りになりますね。
最近、ちょっと子供化が過ぎていましたけれど。
……しかしこれ、どうしたらいいのかな?
まだ怒りの収まらないレイティアさん、正座させられたままの3人、放置される彼。
おかしい、レイティアさんとお茶をする前までは姿を見せていた平穏は、どこへ行ったのか。
もしかして私の錯覚?
平穏の穏は、隠れる方の平隠だった? 意味通じなくなるけれど。
うん、今度平穏とは一度ゆっくりお話が必要だね。
ただ見付かるかなあ、平穏……。
はっ! いけない、また遠い目をしてしまうところだった。
3人にはレイティアさんが付いてくれている。
それなら……。
私は立ち上がると、彼の側へと近付いていった。
「「「「マリア(ちゃん)(さん)!」」」」
叱る側と叱られる側だったにも拘らず、しっかり声が揃っているところがなんだか可笑しい。
心配してくれてありがとう。
でも彼とは、【厄災の荒御魂】を託された私が向き合う必要があると思うんだよね。
【モイラの加護糸】を発動し、彼に再び命を吹き込む。
すると、最初に見た時と同じように、指先がピクリと動いた後、その顔が持ち上がった。
「おはよう。さっきは急に触れてごめんね?」
少しだけ距離を置き、彼の眼と高さが同じになるように私は上半身を屈め、話し掛けた。
彼の眼はネロや空牙とは違い瞳が無く、ただひたすらに黒く、一切の光を拒絶しているかのようだった。
それが私達が彼等にした事の罪深さに思えて、なんだろう、胸が締め付けられる……。
「なっ、貴様はさっきの冒険者!」
彼は椅子を倒しながら勢い良く立ち上がると、警戒、じゃないね、敵意を剥き出しにして私を見下ろしてきた。
座っていた時でさえ背が高そうだと思ってはいたけれど、実際に目にすると、もっと高かった。
190cmくらいあるんじゃないかな……。
べっ、別に羨ましくなんてないよ?
「オレは貴様ら冒険者を絶対に許さんぞ!」
10cmくらい私にくれないかなあとか、そんな事思っていないからね?
……でも150cmあったら、小学生ではなく、中学生くらいには見られるようになるかな。
「オレに宿る怨嗟の声が貴様ら冒険者を!!」
それは嬉しいかも、と一瞬思ったけれど、冷静な私が実年齢を考えろとツッコミを入れてきた。
すいません、嘘を吐きました。
羨ましいです、身長あと20cmは欲しいです。
「おい貴様、聞いているのか!!!」
「ごめん聞いてなかった。どうかしたの?」
「…………」
あっ、絶句して目を見開いている表情は、ちょっと可愛いかもしれない。
顔立ちが整っているから、その落差が良いというか。
向き合うと言いながらスルーしてしまったけれど、取り敢えず話が出来そうな感じになってくれたね。
真人がやんちゃしていた時も、大事なのは感情を全部受け止める事じゃなくて、感情を吐き出して生まれた心の隙間に、真摯に語り掛ける事だったから。
全部受け止めていたら、心が保たなくなるしね。
「君は私が憎いんだね。憎くて、どうしたいのかな?」
「貴様ら冒険者のような悪を根絶やしにして、この世界から一掃する!!」
「悪は根絶やしかあ。じゃあその時って、かなり痛い?」
「当然だ! 想像を絶するような痛みを与え続け、最後は惨たらしく殺してやる!!」
凄惨な笑みを浮かべて脅しをかけてくるけれど、はいはい、怖い怖い。
「痛いのは現実でもう十分味わっているから、出来れば遠慮したいかな。ということで、他にはない?」
「他などあるか! さっきから貴様、オレを馬鹿にしているのか!!」
「馬鹿になんてしていないよ? 君の希望を聞いて、それで私が応えられるものがあるのか、ちゃんと聞いて、ちゃんと考えている。そうは見えない?」
真面目に向き合っているのに、酷いなあ。
ちなみにマレウスさん、こっそり『肝っ玉母ちゃんみたいだ』って呟いているけれど、どういう意味かな?
今は詳しくは聞かないけれど、忘れませんからね?
そして彼を見ると、どうやら私では相手にならないと思ったのか、まるで助けを求めるように周囲に目を向けていた。
むっ、失敬な子だね。
こんなに真面目に話を聞いてあげているのに。
彼が目を止めたのは、レイティアさんだった。
「オレを形作るモノが言っている。お前はあの街の人間だったはずだ。何故冒険者と一緒にいる! 何故恨まない! 何故復讐しない!!」
その声は非難するというより、理解不能の事態を前にした、ヒステリーを起こす子供のようだった。
「確かに、冒険者の方に思う事が無い訳ではありません」
「ならっ!」
「けど、私を救ってくれたのも冒険者の方……いえ、マリアさんです。ライルを除けば、あの街で誰よりも直接的に私を、私達を助けてくれたのがマリアさんなんです。そんな恩人ともいえるマリアさんを、冒険者というだけで一括りにして見る事が、どうして出来るでしょうか」
「だっ、だがっ!」
レイティアさんに、まるで縋りつくかのように言葉を続ける彼だったけれど、
「そんな事よりマリアさん、そろそろ日課の時間ですよ?」
そんな事扱いで、レイティアさんがぶった切る。
さすがライルのお母さん、子供の扱い方は手慣れているね。
では私も遠慮なく乗っかろう。
「もうそんな時間でしたか。ではちょっと行ってきます。レイティアさんはどうします?」
「私はこの3人にもう少しだけ、お話していきますね」
にこりと笑うレイティアさんに、震え上がる3人。
えっと、頑張って下さいね?
心の中で応援の言葉を呟いたけれど、それが誰に向けられたものだったのか、私にも良く分からなかった。
と、それよりもこっちだね。
「それで、君はどうするの? 自由に行動は出来るけれど、スキルの制限があるから、あまり私から離れられないよ? 私の姿を見るのも、声を聴くのも嫌なら、スキルの発動を解除してあげられるけれど」
「…………監視だ」
「えっ?」
「貴様の行いを監視し、貴様が悪だと証明してやる」
「悪の証明かあ。大変そうだけれど、頑張ってね」
「なっ! 貴様はそうやってまたオレを馬鹿に!!」
歩き出す私の後ろで彼はまだ何か騒いでいるけれど、無視無視。
そんな事より、貴様ねえ……ふーん。
彼は気付いているかな?
最初は『貴様ら冒険者』とか、冒険者の一部として私を見ていたのに、貴様と言いながら、今は私個人を見ている事に。
その細やかな変化に、彼には見えないところで、私はふふっと笑みを浮かべるのだった。
いつもお読み頂いている皆様、どうもありがとうございます。
連日皆様にお読み頂き、応援頂いているおかげで、こうして新しいお話をお届けする事が出来ました。
さて今話は彼とのお・は・な・しとなりました。
裏で大きな子供3人もお・は・な・しを食らっていた気もしますが、
まあ、それはいいですね。
今回、新たに15件という多くのご感想を、131人の方から有り難い評価を頂き、679人の方から嬉しくもお気に入りに登録頂けました。
頂いた感想は、全て返信させて頂いております。
(本話アップ作業前に頂いたご感想には、これからお返事致します)
そして今回、とても多くの誤字脱字、表記揺れ、漢字の使い方の誤りについて、誤字報告機能からご指摘頂けました。
正直、物凄く嬉しいです。
言葉は悪いかもしれませんが、それだけこの物語を良くてやろう、そう思って頂けたからこその、行動だと思うからです。
これからも気になった点につきまして、ご指摘の程、よろしくお願い致します。
よろしければブクマ、感想、レビューお待ちしています。
また評価につきましては、
「小説家になろう 勝手にランキング。〜 のんびりお楽しみ頂けたら幸いです。」の↑に出ている
☆をクリックして頂き、★に変えて頂けると嬉しいです!
緊急事態宣言が広がり、なかなか先の見えない現状ですが、皆様の周りはいかがでしょうか?
不穏な情勢下、そんな暗い現実を一時でも忘れられる時間が提供出来たなら、幸いです。
今後とものんびりと、どうぞお付き合い下さいませ。




