63_真里姉と大規模アップデートへの対応
訓練用の広場を出た私は、ルレットさんから緊急の呼び出しを受け、再びあの店に戻った。
そこには数時間前に別れたばかりの3人の他に、グレアムさんもいた。
「来たかマリア。ちょっと今回の大規模アップデートの内容がヤバいから、グレアムにも来てもらった」
マレウスさんがそう言うと、立ち上がったグレアムさんが丁寧にお辞儀をしてくれた。
「お邪魔しております、マリアさん」
「グレアムさん、今日はお迎えありがとうございました」
こちらからもお礼を返すと、時間が惜しいとばかりに、マレウスさんが外部サイトへ繋げた画面を拡大表示した。
そこに映っているのは、私も見た第2陣の募集のお知らせと、大規模アップデートの内容。
「概要は把握していると思うが、認識の共有と見落としが無いか確認するため、特に影響が出そうなところを読んでいくぞ?」
全員異論は無く、マレウスさんが画面に映された項目を指しながら、読みあげていく。
「まず1つ目は、国の実装だ。アップデート後にログインすると、所属する国を選択する事になり、それぞれのポータルも変更される。そして選べる国だが、5つある」
そこでカンナさんが、国の実装項目の説明欄を開き後を継いだ。
「内訳はこうよ。
『王都』を有する王政国家、カルディア。
『聖都』を有する宗教国家、アルビオン。
『帝都』を有する軍事国家、レギオス。
『魔都』を有する無法国家、ゼノア。
『海都』を有する商業国家、リベルタ。
ちなみ、ワタシ達が居るエデンは『王都』カルディアの所属ね」
「またカルマの実装の説明もありましたけどぉ、内容はイベントで聞いた通りなので割愛しますねぇ。ただぁ、カルマは国毎に独立して数値が設定されるようですねぇ」
ああ、ザグレウスさんが『他国でやり直すのも』と言っていたのは、この事だったんだね。
たとえこの前のイベントでカルマ落ちしても、他国で始めたらカルマは0からのスタートになるんだろうな。
「で、これについての本題だ。マリア、お前はどの国を選ぶ?」
「そうですね……」
正直、国を選べと言われてもスケールが大きくてピンとこない。
でも、ちょっと惹かれたのはリベルタ。
『海都』というくらいだから、海があって海産物も豊富にありそうだしね。
それに現実でも行った事のない海に、憧れみたいなものはあるけれど、私の答えは決まっている。
「カルディアを選びますよ。私にとって大事な人達が居る国ですから」
そう答えると、4人はやっぱりな、という顔をしていた。
むむっ、聞いておいてなんですかその反応は。
「では私もカルディアを選びますよぉ」
「俺もだ」
「ワタシも」
「我々の行く先は常に教祖様と共に!」
「いやあの、なんだかみなさん、私基準で選んでませんか?」
っていうかグレアムさん、これまで辛うじて隠す素振りを見せていたのに、とうとう隠す気もしなくなりましたね?
なんなんですか教祖って!?
「そりゃそうだ。俺たち4人、お前が来る前に、お前が決めた国を選ぶって予め決めていたからな」
「尤もぉ、マリアさんがカルディア以外を選ぶなんてぇ、あり得ないと思っていましたしねぇ」
「ルレットちゃんの言う通りね。それにマリアちゃんと一緒にいると飽きないし、この前のイベントのおかげで、ワタシ達もカルディアでのカルマがそれなりなのよ。このアドバンテージは美味しいわ」
「我々はたとえ何があっても!」
「はいはい、あんたはちょっと落ち着きなさい」
カンナさんが、興奮するグレアムさんの口に強引にグラスの水を流し込む。
激しく咽せているけれど、うん、放置でいいかな。
「国の実装に伴いクラン、取引掲示板、馬の貸し出し、MPポーションも実装されるようだが、こっちはまだ可愛いもんだな」
「ある意味国の実装以上に影響が大きいのがぁ、【携帯食】使用のレベル制限ですねぇ」
やっぱり、そうなるよね。
【携帯食】は安く買えて、手軽に満腹度を回復できる便利な手段だった。
味は不味いけれど多くの冒険者が利用していて、【料理】スキルを取得する人が少ない理由にもなっていた。
「レベル20を超えると、【携帯食】ではほとんど満腹度が回復しなくなる。実装というより、仕様変更って感じだな。これは間違いなく荒れる。まず現状じゃ、【料理】スキルを取得しているやつが絶対的に足りてねえからな」
「取引掲示板の実装でぇ、お金になる事は広まりそうですけどぉ、直ぐに覚えられるものでもありませんしねぇ」
「そうすると住人の食堂に殺到するわね。けどMebiusの世界には、生活している人達がいる。つまり、需要と供給の概念があるのよね。私達冒険者が殺到したら、その人達に迷惑がかかると思うの。それが続くようだと、カルマにどう影響するか分かったものじゃないわ」
「住人の方に迷惑がかかるのは嫌ですけれど、大変な事になりますね」
餓死する人があまり出ない事を、願うばかりだよ。
餓死した経験のある私には、あの辛さが良く分かるからね。
「おい、お前何を他人事のように言っているんだ?」
「え? だって私は自分で料理出来ますし……あっ、心配しなくてもマレウスさんやルレットさん、カンナさんにグレアムさん達の分は作るつもりですよ?」
言った瞬間、
「「「「全然分かってない!」」」」
と全員に言われてしまった。
「なんでですか!?」
「これがどれだけの特需か分かってねえだろ。そして実質、お前の独占可能状態なんだぞ?」
「生産に携わっていてぇ、ここで稼がないプレイヤーはまずいませんねぇ」
「ワタシ、今から連盟員に通達して食材をとりに行かせるわ」
「ではモンスターとの戦闘は我々が力を貸しましょう」
「あらイケメン発言、助かるわ」
「おい、外で食材をとるのはいいが、街で買うのはやめさせろよ? 住人に悪影響が出かねん」
「私はぁ、【料理】を覚えている連盟員を集めておきますねぇ」
怒涛の勢いで、物事が決まっていく……。
そしてこれまでの遣り取りの中に私の名前が出ていない事を、以前の私なら『みんな頑張るなあ、何か手伝える事あるかなあ』と、のんびり構えていたと思う。
けれどね、私も成長したんだよ。
成長させられたんだよ。
そんな煮詰めた砂糖に浸したドーナツのような、甘い流れになるはずもなく。
「……えっと、それじゃあ私は?」
「「「「アプデまでひたすら【料理】!!!!」」」」
ですよねぇ……。
これはあれだね、バネッサさんの店で作らされたポテトチップス地獄の再来だね。
あの時は数時間だったけれど、今度は数日ですか…………。
あはは…あははははっ……もうやだあ!
お家に帰りたい……。
けれどそんな願いも虚しく、ドナドナされた私は、3人が借りた調理場で、終わる事のない料理地獄に突入させられたのだった……。
いつもお読み頂いている皆様、最近は多くのアクセスがあり、本当にどうもありがとうございます。
連休最後の夜は、いかがお過ごしでしょう?
平日を乗り切る力が充電できたらと思います。
今話にて、ようやく章タイトル、王都へ至るまでの準備といいますか、
下地が揃いました。
思った以上に長くなってしまいましたが、楽しんで頂けたら幸いです。
今回、新たに2人の方から鋭いご感想を、5人の方から素晴らしい評価を頂き、20人の方からお気に入りに登録頂けました。
お礼ばかりにはなりますが、やはり嬉しいことですので、本当にありがとうございます。
次の話を早速、夜にでも書こう気持ちが湧いてきますね。
もしよろしければ、感想、レビュー、ブクマ、評価お待ちしております。
ご支援頂けると、これからも続けていく活力になります。
連休最後の夜、食後のお供にでもなったなら、幸いです。
引き続きのんびりと、どうぞお付き合いくださいませ。




