62_真里姉と新スキルと新装備の検証
ルレットさん達と別れた私は、冒険者ギルドを訪れていた。
ちなみに、冒険者ギルドに着くまでの間、私は1人じゃなかったよ?
店の外に出ると、グレアムさんの代わりに別の団員さんが待機していたからね。
うん、守ってくれるのは分かるし、ありがたいんだけれど、もっとしたい事をしてくれていいのに。
心の中で呟いたつもりが声になって出ていたらしく、言葉を返された時はびっくりしてしまった。
「安心してください! 我々にこれ以上したい事なんてありませんから!!」
キリッと良い笑顔で言われたら、もうね、何も言えないよね。
そう言っている間にも、例の指先で出す合図を住人の方と送り合っているし。
遠く旅立った私の平穏、君は今どこで何をしているのかな?
私はそのうち、何らかの悟りでも開けそうな気がしてきたよ……。
で、冒険者ギルドに着いた私は、アレンさんにお願いして併設されている訓練用の広場を借りた。
その際、団員さんが広場への出入り口で待機していると言ってくれたので、ようやく私は1人になれた。
「ふうぅぅっ…………よしっ!」
肺に溜まっていた息を長く吐き出して、私は気持ちを切り替えるべく気合を入れた。
「まずはネロとクーガーを喚んで、っと」
いつもならここで【供儡】や【纏操】を使うところだけれど、今回は【モイラの加護糸】を使ってみる。
MPゲージに変化は無いけれど、数値を見ると確かに最大値が減っていた。
2割くらい減ったかな?
この感じだと、対象の数が増えるだけ、MPの最大値が減少する割合が増えるんだろうね。
そして【モイラの加護糸】で命を吹き込まれたネロとクーガーはというと、
「ニャアッ」
「グオゥッ」
元気に鳴いて、2人楽しそうに戯れあっていた。
これまでも自由に動いてくれていたけれど、やっぱり物理的な糸が無いと違うのか、これまで以上に活き活きとしているように見える。
私としても糸が見えない事で、心のどこかで思っていた操っているという意識が消えて、2人が生きている事を何の違和感も無く受け入れる事が出来た。
「この光景を見る事が出来ただけでも、【モイラの加護糸】を取った甲斐があるよ」
しばらく2人が遊ぶ姿を堪能した私は、もう一つのスキルを試してみる事にした。
「【二操流】は【料理】みたいに、覚える事で後は使用する際、意識しないで使えるようになるんだね」
早速、左手に【大蜘蛛の粘糸】を、右手に【魔銀の糸】を持ってみる。
「おお! ちゃんとどっちも装備出来ている」
スキルの説明に書いてあるのだから当たり前だろうけれど、実感するのとではやっぱり違う。
試しに、訓練用に立てられた丸太に向かって【大蜘蛛の粘糸】を伸ばし、粘性を発動するとしっかりとくっ付いた。
そして【魔銀の糸】を絡ませ伸縮性を発動すると、スパッと丸太が両断される。
「これは思ったより使い勝手が良いかも。どっちの装備特性も問題なく発動するし」
片方で相手の動きを止めて、もう片方で仕留める……うん、カッコいいかも。
ただ、それが道化師というか、マリオネーターの戦い方なの? と言われると、目を逸らして口笛でも吹くしかないんだけれど。
口笛、吹けないけどさ。
「……まあ、戦い方の幅が広がったのは良い事だよね?」
いつの間にか、私の前で仲良く座って見てくれていたネロとクーガーに言うと、こくこくと頷いてくれた。
なんて良い子達。
「では【龍糸】を装備して……あれ? あれあれ??」
戸惑う私の様子に、ネロとクーガーが揃って首をこてりと傾ける。
「おかしい、なんで装備出来ないんだろう」
画面で何度【龍糸】をタップしても、反応が無い。
うがーっとなりそうになった時、【龍糸】のアイテム説明が目に入った。
正確には、アイテム説明が途中で見切れている事が目に入った。
「まさかね……」
落ち着いて【龍糸】のアイテム説明を読む。
【龍糸】
東洋の龍が持つ龍髪を撚って作られた極めて強靭にして極細の糸。
あらゆる損傷や異常を受け付けず、決して壊れない。
一方摩擦の力が強いため、防具として使う場合は相応の素材でなければ、
組み合わせる方の素材を破壊する恐れがある。
加工には熟練の技が必要となる。
武具として用いれば、糸の細さと摩擦の力、さらに龍の持つ魔力が合わさり、
あらゆる物を切断する恐るべき威力を発揮する。
絡め取られた対象には切断する効果が及ぶため、【捕縛】には使用できない。
(装備特性)不壊、防御力無視、万物干渉、
VIT+5、AGI+10、DEX+20、INT +5、MID+10
(装備条件)装備特性を除いたSTR150以上
……装備条件かあ、そんな項目、あったんだね。
「っていうかSTR150以上!?」
思わず叫んだ私の声にびっくりしたネロが、クーガーの後ろに隠れてしまった。
STR150以上って、私の今のSTR、1なんだけれど……。
これ、いつになったら装備できるのよ。
というか、私がこれを装備できる日、来ないのでは?
料理も上手くなりたいからDEXは上げたいし、現実の私を考えると、筋力お化けに転向するのは遠慮したい。
「これはあれかな? 真希が言う、詰んだってやつかな……ははっ、ははははは…………」
乾いた笑いが漏れるのを、止められない。
だって、40万ポイントだよ?
それだけ注ぎ込んで、まさか装備出来ないというオチが待っているとは、思わないよ。
勿論、最後まで確認しなかった私が悪いんだけどさ。
クーガーが、落ち込む私にそっと寄り添って顔を舐めてくれた。
本当に、家の子は優しい子ね。
「ありがとうクーガー……そうだ、クーガーに報告というか、提案があるんだけれど」
「グオッ」
「マレウスさんがね、クーガーって名前をよくよく調べてみたら、猫科の大型肉食獣の名前も意味している事に気付いたんだって」
「グオゥッ!?」
あ、凄いちゃんと驚いている。
ついでにネロは、自分と同じじゃないかと言わんばかりに、嬉しそうにクーガーを叩いていた。
ネロは大型じゃないし、そこはクーガーの気持ちを考えると喜ぶところじゃないからね?
「それでみんなで考えたのだけれど、カンナさんが響きを同じにして、名前を変えたらってアドバイスしてくれたんだ」
「……」
きっと人間なら、ゴクリと唾を飲み込む音が聴こえたと思う。
「その新しい名前は、空牙。呼び方は同じだし、どうかな?」
恐る恐るクーガーを見ると、ぶるっとその大きな体を震わせ、立ち上がり、咆哮した。
これは喜んでいるみたいだね。
さすがカンナさん、実に漢ら……カッコ良い名前を考えてくれたよ。
その日は興奮し楽しそうに駆ける空牙と、それを喜ぶネロと一緒に、遅くまで訓練用の広場で3人、楽しく過ごした。
疲れを覚える頃には、嫌な事なんて綺麗に忘れる事が出来ていた。
…
……
………
…………ごめんなさい、嘘をつきました。
忘れる事なんて出来ますか!
私は公式サイトに装備条件なんて項目があるのか、半ば逆恨みのように探した。
そしてマニュアルの中に書かれているのを見つけ、崩れ落ちた。
救いは、無かったよ。
けれど公式サイトを探す中で、思いがけず、ある事を知った。
それは第2陣の募集のお知らせと、近日中に大規模アップデートが行われるというものだった。
第2陣の募集は知っていたけれど、あ、そういえばプロモーションに出る事をみんなに言い忘れていた。
……まあ、いっか。
ただでさえ平穏が消え失せているのに、これ以上の騒ぎが起こるなんて、きっと無いはずだから。
…………無いよね?
と、それより問題なのは大規模アップデートの方。
アップデート内容を見た時、思わず遠い目をしてしまった。
ゲーム初心者の私にも分かるくらい、それは荒れる要素を数多く含んでいたのだった。
(マリア:マリオネーターLv20)
STR 1
VIT 5
AGI 8
DEX 80
INT 5
MID 23
カルマ(王都) 100,000
(供儡対象)
ネロ(猫のぬいぐるみ)
空牙(白熊の絡繰ぬいぐるみ)
いつもお読み頂いている皆様、どうもありがとうございます。
桜も咲き始めたようですが、情勢不安はなかなか収まらないですね。
皆様もどうか、ご自愛くださいませ。
今回の話にてマリアの平穏な日常は遠い彼方に消えたわけですが、
次話にて、さらに拍車がかかります。
ずっと拍車がかかっている? その通り、おかしいですね。。。
今回、新たに1人の方から温かいご感想を、5人の方から素晴らしい評価を頂き、32人の方からお気に入りに登録頂けました。また誤字報告も1件頂き、とても助かりました。
連休中、多くの作品を読める時間が生まれ易い中で、こうして評価頂けた事、本当に嬉しく思います。
どうもありがとうございます。
次話を書く気持ちが湧いてきます。
もしよろしければ、感想、レビュー、ブクマ、評価お待ちしております。
ご支援頂けると、これからも続けていく活力になります。
連休まんなかの夜のお供になったなら、幸いです。
引き続きのんびりと、どうぞお付き合いくださいませ。




