表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
114/210

113_真里姉と夏の夜空(終編)


 動揺から立ち直った真人は、苦笑を浮かべながらもその背中と両手で私を背負い、立ち上がってくれた。


 いつもお姫様抱っこはしてもらっているけれど、こうしておんぶされるのは初めてだね。


 触れる真人の背中は暖かく、そして大きかった。


 いつの間にこんなに大きくなっていたんだろう……。


 その背に頬を寄せると、力強い鼓動(こどう)が聴こえてきた。


 こうして()を刻む真人の心音に(ひた)っていると、それだけで私を(さいな)んでいた()()が色()せていくような気がする……そっか、過去が今に追い付くことはないものね。


 過去に囚われてしまうのは、今の自分が過去を手繰(たぐ)り寄せているからだ。


 その過去は人によって後悔だったり、栄光だったりするのだと思う。


 私の場合は…………憎しみ、かな。


 でも、()()()毅然(きぜん)としていれば、過去は過去のままだ。


 実際にちゃんと出来るかは分からないけれど、少なくとも私には真人がいて、真希がいる。


 私一人では無理でも、二人と一緒なら、家族に頼りながらなら、乗り越えられるんじゃないか……私はそう思えるようになっていた。



 長椅子に腰掛けた真人の膝の上に乗せられ、穏やかな気持ちで私が体を預けていると、真希が両手に沢山の食べ物を(たずさ)えやってきた。


「選び切れなかったから一通り持ってきたよ! 好きな物を食べてね、お姉ちゃん!!」

 

 縁日で見かける屋台の定番が、長椅子にずらりと並べられる。


 焼きそば、お好み焼き、たこ焼き、今川焼き、焼き鳥、焼きとうもろこし、チョコバナナ……うん、今の私にはちょっと重いかな?


 けれどわくわくした様子で私が何を選ぶか待っている真希を前に、何も食べないというのも気が引ける。


 どうしようかと悩んでいると、端に置いてある物に目が留まった。


 それは小さい頃、近所のお祭りで見かけるとよく買ってもらった、りんご飴。


 りんご飴は、小さなりんごを串に刺し真っ赤な飴で覆った物だ。


 美味しいかというとそれ程でもないのだけれど、目にすると不思議と食べたくなる。


 屋台が出る日しか食べられないという特別感に、お祭りの楽しい雰囲気がそう思わせるのかもしれないね。


 真希に取ってもらったりんご飴を舐め、飴が薄くなってきたところで(かじ)ると、飴の甘さを打ち消すようにりんごの酸味が口いっぱいに広がった。


「ん〜〜〜っ、酸っぱい」


「あれだけ飴を舐めた後じゃな。せめてもっと飴と一緒に齧らねえと」


 焼きそばを食べながら、真人が笑う。


「一口でそんなに食べられないよ」


「じゃあ真兄が齧ってからお姉ちゃんに食べさせればいいんじゃない?」


「ぶほっ」


 真希の一言で、真人が咀嚼(そしゃく)していた焼きそばを勢いよく噴き出した。


 私にかからないよう、咄嗟に横を向いてくれたのは嬉しかったけれど、そっちの方向は……。


「ま〜さ〜にぃ〜?」


 中途半端に咀嚼された焼きそばを顔面にかけられ、拳を震わせ真希が(にら)む。


「いや、今のはお前が」


「問答無用だよ!」


 私が座っているせいで身動きの取れない真人を、真希が一方的に攻撃にする。


 といっても真希がぽかぽか殴っている様子は、真人にじゃれているようにしか見えないんだけれどね。


 いつものやりとりと、その中に私もいることが嬉しくて、気付けば私は声をあげて笑っていた。



 そんな風に過ごしていたら、いつの間にか日が落ち、やがて花火が打ち上がり始めた。


 花火大会の場所から離れているせいか、花火自体は大きく見えないけれど、見下ろすように眺めるのは新鮮で、響いてくる音は体を伝い臨場感(りんじょうかん)を高めてくれる。


 私はそれで十分楽しめていたのだけれど、30分を過ぎたあたりから明らかに花火の大きさが変わり、大輪の花を幾つも咲かせるようになった。


 それは遠くにいる私達が見ても驚く程の大きさで、近くで見ている人にとっては、まるで花火が夜空を覆っているように感じるんじゃないかな?


 けれどこんなに大きな花火が打ち上がるなら、もっと話題になってもいいように思う。


 車の中で見たニュースは地域向けのもので、全国規模のものではなかったはず。


 そんな疑問を思いながらも花火を楽しんでいると、最後に一際大きな花火が打ち上げられた。


 その花火は丸く広がるだけでなく、中に二つの蛇が絡み合う杖のような形も描いていた。


 うん、あれはどう見てもカドゥケウス社のロゴだね。


「「「……」」」


 私だけでなく真人も、そして真希も絶句(ぜっく)


 この庭園にカドゥケウス社の総力を垣間(かいま)見たなんて言ったけれど、まだまだ認識が甘かったみたい。


 ちなみに後日、真希がどこから調べてきたのか、あの日カドゥケウス社が支払ったであろう費用を教えてくれた。


 聞かなければよかった……。


 いつもお読み頂いている皆様、どうもありがとうございます。

 今回新たに7件の感想を、16人の方から有り難い評価を、そしてお気に入りに登録頂けました。

 本当にありがとうございます。皆様のおかげで、引き続き四章を描くことができます。


 なお誤字脱字のご指摘はいつでも歓迎ですので、気になる点がありましたら、よろしくお願い致します。


 前話において、感想と同時に3名の方からより良くするためのご指摘を頂きました。参考にさせて頂き、修正しています。can@赤ペン職人さん、プラットフォーム さん、paiさん、ありがとうございました!!


 朝晩すっかり寒くなってまいりましたが、お体に気をつけて、引き続きのんびりと、お付き合い下さいませ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 今回のお話も、なのですが。 記憶に残り続ける言葉、台詞ばかりでして。とてもよい時間を過ごせました。 [一言] 最後の花火。 それを目撃した瞬間のお三方のお顔、ばっちりと想像できました……!…
2020/10/31 14:53 退会済み
管理
[良い点] 楽しい花火大会になりました❤️ [気になる点] 値段を聞くまでは(  ̄ー ̄) [一言] これも良い思い出です(o⌒∇⌒o)
[一言] 更新お疲れ様です☆(o・ω・o)ゝ 113話も読み返しました加筆もされてて前よりわかりやすくなってました^^ 後書きに名前が載ってしまった(;^_^A 嬉し恥ずかしです(笑) テンプレの噴出…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ