旅 2
仰いで言った。
「というわけでムーよ、せっかくだったけど、一切の虚飾を消してくれないか」
『諾』
とたん、VRが消滅。当初のクリスタル空間にもどった。
下を見る。切り裂かれた地球、上部マントル、下部マントル、外核、内核――!
その地獄火炎のようなマントル赤熱光――!
その天国火炎のようなコア白熱光――!
その極限、中心点まで、約6400km――!
物理学の定番問題、“地球トンネル”。地球のこちら側と、中心を挟んで地球のあちら側、地球規模のトンネルを掘ったとして、小石をそっと落としてみる。自由落下は単振動の公式に当てはめて、中心到達時間は、約20分。つまり、たったそれだけで、ゲームは終わる。
一度、震えるマリーにキスをして――
地球ダイブ、しようとした。
「待ちなさい」止められる。
振り返ると、これも細かく震えたエマだった。彼女は気丈にも伝える。
「無敵のオリハにも、弱点がある……」
一度つばを飲みこんで、
「加速度よ。体の“中身”が保たない……」
「キミが道路の真ん中に突っ立って、車がぶつかってくるのは問題ない。自身は動かないまま、車の方を瞬間的に停止させ、あるいは破壊して、肉体を完璧に守ってくれる。だけど逆、キミの方が車に乗って、建物の壁に衝突したとき、よ。瞬間的に停止したら、コーティングの中でキミは潰れる。そうならないよう、オリハは車と建物を破壊しながら減速させ、体へのダメージを極力防ごうとする」
「だけどここは、オリハの内部。キミは今、むき身の体」
「今回の場合、自由落下で20分後、キミは、約7900m/s、第1宇宙速度で、地球という名の鉄球に衝突することになる」
「さらに。地球の自転も忘れないで。ゴールよりか先に、“壁面”に身が削られるかも……」
僕はエマの腕を取り軽く抱くと、これもキスした。
「了解だ。ありがとう」
そして振り仰ぐ。
「落下は変わらない。それが僕の決めたスタイルだからだ。だけど、方向とブレーキのコントロール権はよこしてくれ」
笑っていいのかわからない。ムーは譲歩した。
『諾。ただし、公平に、競争相手にも与える』
「諾、だ」
ショーグンの方を見やる。かなり向こうで、裸で、胎児のように丸くなり、目をつむっている。圧縮された夢の中で冒険を繰り広げているのだろう。
マリリンを見た。
エマニュエルを見た。
百人を見た。
ブランを見た。
彼女らが見守る中、僕は今、ダイブする――




