第9話「妹の初任務、いきなり国王案件!?女王様からのご指名クエスト、受けて立ちます!」
前回は『妹』のみきぽんの正式入団を祝う大宴会!
酒場でわいわい大盛り上がりの中、まさかのスマホ配信バレ事件もあって、ギルド仲間もリスナーもみんなで大はしゃぎでした。
そんな楽しい夜が明けて……今回はなんと、女王陛下とご対面です!
新人冒険者のまきぽん、いきなり国のトップと謁見しちゃって大丈夫なの!?
不安とドキドキいっぱいのまま、初めての『女王からのクエスト』を受けることに——!?
では、どうぞ……!
「……ん……」
柔らかな朝の光が差し込んできて、私はゆっくりとまぶたを開いた。
そこにはギルドハウスの木製の天井があった。
(……やっぱり、夢じゃなかったんだ)
昨夜の宴も、賑やかな市場も、そしてバロールとの死闘も——。
全部、現実。
もしかしたら、目が覚めたら自分の部屋かも……
なんて、ちょっと期待してたけど……甘かったかな。
だけど。
すぐ横から聞こえてくる寝息に、ホッと胸を撫で下ろす。
小さな身体を丸めて、私の布団に潜り込んでいる女の子。
(みきぽん、いてくれた……夢でも幻でもないんだよね)
そう思った瞬間、自然と口元がほころんでいた。
「もにゅ……おねーたん……ぷりん……」
寝言をつぶやきながら、みきぽんがもぞもぞ動いた。
「ふふ、食べ物の夢見てる……」
私は吹き出してしまった。
大きな伸びをすると、みきぽんは起き上がった。
髪は寝癖でポワポワに跳ねていて、ツインテールもめちゃくちゃだ。
「仕方ないなぁ……ほら、ここ座って」
私は木製の櫛を取り出し、背後から髪を丁寧にとかしてあげた。
「おねーたん……?」
まだ眠そうな目で私を見上げながらも、大人しくちょこんと座っている。
長い髪を二つに分け、高い位置でツインテールに結ってあげると——。
「はい、できたよ」
「わーい! あいあとでち♡」(注・ありがと)
嬉しそうに抱きついてくるみきぽんに、胸がきゅんとした。
この子に出逢えて、本当によかった——。
* * *
食堂に降りると、エプロン姿のバルガンの豪快な声が響いた。
「おう! 寝坊助ども、朝飯はもうできてるぞ!」
長机の上には、湯気の立つポリッジ(オート麦の粥)、焼きたての黒パン、野菜がたっぷり入ったスープが並んでいた。
「またやさい……」
「野菜を食わんと、大きくなれねーぞ!」
口を尖らせて不服そうなみきぽんの頭を、バルガンはポンポンと叩いた。
(あーあ、また始まった……w)
その光景を見て、ノエルは
「大丈夫よ〜、お姉さんがあまーい蜂蜜をかけてあげるからね」
と笑い、リゼは
「おい……甘やかしすぎだ」
と呆れている。
そんな微笑ましいやりとりで、今日もギルドは朝からにぎやかだった。
その空気に一区切りつけるかのように、奥の扉からエリアスが現れた。
まだ朝早いというのに、すでにもう濃紺のローブに身を包み、仕事モードに入っているようだ。
「まきぽん」
「えっ、なに?」
思わず背筋が伸びてしまいそうな、真面目な声色だった。
「女王陛下が、あなたにお目通りを望んでおられます」
「——えっ!? じょ、女王陛下!?」
思わず声が裏返る。
ノエルは驚いて竪琴を落としそうになり、リゼは表情を引き締めた。
「本日の午後、みきぽんを連れて王城へ来てください——皆さんも一緒に」
「ん、俺もか?」
「あら、何かしらね〜?」
バルガンとノエルにも、緊張が走る。
王宮使えのエリアスやリゼと違って、王城は、私たちのような一般冒険者がおいそれと入れる場所ではない。
「おしろ……? おひめたま、いるでち?」
「いや、いるのは女王様だから……って、そこじゃなくて!」
パンを頬張りながら首をかしげるみきぽんに、私はツッコミを入れた。
みきぽんのあどけなさは、緊張を一気にほぐしてくれる。
でも——。
女王陛下が直々に……なんのために?
答えの出ない疑問を抱えたまま、私たちの新しい試練が始まろうとしていた。
* * *
リアンナハの王城は、白い石で築かれた堅牢な城壁に囲まれ、その中心にそびえる塔はまるで天を貫く槍のようだった。
幾重にも用意された厳重な門や扉を通り、赤い絨毯が敷かれた大広間に足を踏み入れると、私は思わず息をのんだ。
「す、すご……マジでこれ、ゲームのムービーそのまま……!」
思わず小声でつぶやくと、リゼに横目で
「静かに」
と睨まれて、慌てて口を押さえた。
「おねーたん、しーっでち!」
「おうおう、みきぽんの方がお姉ちゃんみたいだぞ」
「みんな静かに〜、陛下がいらっしゃるわ」
「女王陛下、ご入場!」
儀仗兵の声が響いた途端、広間に並んでいた兵士たちが一斉に胸に拳を当てる。
リゼも同じように静かに構え、黒翼戦士団の団長らしい気品を放っていた。
(え、えっ……これって私もやらなきゃいけないの!?)
思わず混乱した私は、日本人らしく慌てて深々と頭を下げてしまう。
「……!」
横目でちらりと見たみきぽんも、慌ててまねをして、ぺこりと小さな体でお辞儀。
(……あ、やば。絶対おかしかったよね、これ……!)
広間の奥の荘厳な扉が開き、従者を引き連れながら一人の女性が入ってきた。
真紅のマントをまとい、白金の髪を背に長く垂らした少女。
まだ若いはずなのに、その眼差しはどこまでも澄んでいて、揺らめく炎のような力強さを秘めている。
『神聖なる炎のフィオナ・ブリーデ』——この国を治める若き女王だ。
「皆の者——よくぞ参りました、面をあげなさい」
彼女の声は澄み渡る鈴の音のようで、広間の空気を一瞬で崇高なものに変えていった。
顔を上げると、壇上に立った女王フィオナは、薄く唇をゆるめて微笑んでいた。
その眼差しは「仕方ない子たちね」という温もりを帯びていて、叱責ではなくむしろ慈しみのように感じられた。
黄金に輝く玉座と、その背後には、永遠の炎を湛えた燭台が燃え続けていた。
その神秘的な雰囲気に圧倒され、膝が震えそうになる。
(……あ、やっぱりただの女の子じゃない。この方は、この国を守る『女王』なんだ)
冗談じゃなく、本当に『選ばれた存在』って感じがする。
「まきぽん。あなたと、その隣の小さき者が……市場を救った、と聞いています」
「は、はいっ!」
「おねーたんとみきぽん、がんばったでち!」
小さな胸を張るみきぽんを見て、女王の背後に控えたエリアスが微笑みながら頷いた。
「ふふ……愛らしい子ですね」
女王はかすかに微笑み、しかしすぐにその瞳を真剣な光に変える。
「今日皆を招いたのは、他でもありません」
皆が陛下の発言に静かに耳を傾ける。
「今、王都の北の洞窟に『闇』が広がりつつあります。
人々を襲う魔物がそこから溢れ出し、民を脅かしているのです」
「……闇、ですか」
私は掠れた声でつぶやいた。
声を発するのにも勇気がいる雰囲気だ。
「兵士の一団を遣わせましたが……数名の兵が消息を絶ちました」
(……えっ!)
「無事に戻ってきた者も……『闇』に心を蝕まれ、言葉を発することができなくなった——
そう聞いています」
(……それ、かなりヤバいやつじゃ……?)
……誰も言葉を発さない。
唾を飲む音すら憚られるほど、張り詰めた沈黙。
「大変難しい任務であることは、承知しています。
しかし……この国を……民を守るためには、あなたたち冒険者たちの力が必要なのです」
女王は沈痛な面持ちになったが、一息置いて厳かに告げた。
「私はここに、神聖なる炎のフィオナ・ブリーデの名において——
《白銀の角笛団》並びに《黒翼戦士団》に洞窟の魔物の討伐を命じます」
その瞬間、広間にぴんと張りつめた空気が走る。
兵士たちは一斉に直立し、女王の背後の炎が大きく揺らめいて影を伸ばす。
ノエルは息を呑み、バルガンですら背筋を伸ばしていた。
「はっ!仰せのままに!」
最初に胸に拳を当てて、力強く答えたのはリゼだった。
彼女にとって、女王の命は絶対だ。
どんなに危険でも、拒否するという選択肢は——最初からない。
「まきぽん、あなたと……その妹も、共に向かってもらえますか?」
——え、女王陛下直々にご指名!?
いやいやいや! 私、まだレベルも低いし、そもそもこの世界に来たばかりで——。
「あの、ええと……」
そんな私の気も知らずに、みきぽんは
——まるで『遠足に行きたいおともだち、手をあげてー?』
と呼びかけられた幼稚園児のように——
にっこり笑って、元気よく手を挙げた。
「あーいでち! みきぽん、おねーたんといっしょに、がんばるでち!」
「いや即答!?」
私は慌ててみきぽんにだけ聞こえるように小声で囁いた。
「……ちょ、ちょっと待って、みきぽん!?
そんなに軽く引き受けちゃダメでしょ、みんな死んじゃうかもしれないんだよ!?」
「だいじょぶでち、どっかーん! でやっつけまち!」
この世界がゲームの中じゃない以上、もし『何か』があった時にどうなるのか予想もできない。
この子はそれがわかっているのだろうか。
「ふっ……幼いけれど、肝が据わってるな」
リゼがぽつりとつぶやく。
「あい! おーせのままにー、でち☆」
女王フィオナは小さくうなずき、再び玉座の炎を背にして告げた。
「では——《白銀の角笛団》よ。
王国の未来のために、どうかこの務めを果たしてほしい」
それはただの依頼じゃない。
命を懸けた“使命”を告げる声だった。
「「「「はっ!」」」」
ギルドのみんなの決意が広場に響き渡る。
(……やるしかないんだ、よね)
胸の奥で、不安と決意がせめぎ合う。
* * *
こうして私たちは——初めての“女王からのクエスト”を受けることになった。
けれど、その先に待ち受けているのが想像もしなかった“運命の扉”だなんて——
このときの私は、まだ知らなかった……。
※今週は毎日更新予定です!
次回もお楽しみに♪
ここまで読んでくださってありがとうございます!
第9話ではついに、若く美しいリアンナハの女王、フィオナ陛下が登場しました
彼らが恐れる「洞窟の闇」の正体とは一体……?
次回はいよいよ、《白銀の角笛団》初のクエストに挑戦!
道中ではコミカルな掛け合いも健在です。そして最奥部で待つのは、衝撃の結末……?
評価やブクマの一つひとつが、次の執筆の力になります。少しでも楽しんでいただけたら、応援いただけると嬉しいです!




