第8話「ログアウトできない世界!?ドルイドの言葉が意味深すぎるんですが」
異世界居酒屋で大盛り上がり!――のはずが……
みきぽんのギルド正式入団祝いは、冒険者の社交場《角笛亭》でドタバタ大宴会!
肉をめぐるバルガンの教育的指導(?)や、ノエルの歌に合わせたみきぽんの乱入ソングまで、笑顔と笑い声が止まらない!
……でも、宴の終盤。
「ログアウト」という言葉に仲間が首をかしげた時、まきぽんの背筋に冷たいものが走る。
ここはゲームじゃない? 私だけが異世界から来た……?
そしてエリアスの言葉――「必然」――の意味とは。
楽しい居酒屋回から一転、物語は核心へ。
“居場所”と“帰れない世界”が交錯する第8話、どうぞお楽しみください!
月が登るにつれて、笑いと歌に包まれた酒場は少しずつ落ち着きを取り戻していった。
テーブルには空になった皿とジョッキが積み上がり、酔いつぶれた冒険者が床で寝転がる姿もちらほら。
「ふぅ……楽しかったぁ」
私は背もたれに体を預け、大きく息をつくと、リスナーに挨拶して配信を終了することにした。
「それじゃみんな、次の配信も楽しみに待っててね! まったね〜」
【まったね〜!】
【まきぽん、おっつー! 今日も最高だったぜ!】
いつものやり取りを終わらせて、スマホを切る。
でもみきぽんは、デザートのリンゴを頬張りながら、まだ元気いっぱいのようだ。
「おねーたん! みきぽん、まだまだうたいたいでち!」
「今日はもう遅いからね、また今度だよ」
そんなとき。
「……さてと、俺はそろそろ帰るかな」
バルガンが大きなあくびをして腰を上げた。
(あ、そっか。バルガンっていつも早めにログアウトするんだった)
私は何気なく声をかけた。
「バルガン、そろそろログアウトする時間?」
「……んっ?」
バルガンは不思議そうに首をかしげた。
「ろぐ……あうと? なんだ、そりゃ」
「え……?」
私は一瞬、耳を疑った。
「ログアウトって……ほら、ゲームを終わらせるときに……」
「げえむ?」
バルガンは豪快に笑い飛ばす。
「ダーッハッハッ……まきぽん、何を言ってるんだ?
俺たちのギルドハウス以外に、どこに帰るっていうんだ!」
――背筋に冷たいものが走った。
(……どういうこと? ここって、やっぱりゲームの世界じゃ……ないの?)
胸の奥で疑念が黒い渦を巻く。
確かに私は『ティルナノ』で遊んでた。そこで配信してた。
でも、ここのみんなは「スマホ」も「ログアウト」も知らない。
(じゃあ……私はいったい、どこに来ちゃったの……?)
みきぽんが心配そうに私の袖を引っ張った。
「おねーたん……?」
「……ううん、なんでもないよ」
私は慌てて笑顔を作る。けど、胸のざわめきは止まらなかった。
不安そうに辺りを見渡していた私に、エリアスが穏やかに語りかけてくる。
「どうやら、みきぽんは皆に受け入れられたようですね」
「はい! みんな優しくしてくれて……」
私は少し胸をなでおろす。
だが、エリアスの瞳はどこか遠くを見つめているようで――。
「まきぽん、まだ転移したことに違和感を覚えているかもしれませんが……
あなたがここに来たことは、“必然”なのかもしれません」
……やっぱり、彼は私が異世界から転移してきたことに気づいていたんだ。
「あの、“必然”って……どういうこと?」
エリアスは一瞬だけ、寂しげに微笑む。
「いずれ、わかる時が来ますよ。
……今はただ、仲間たちと過ごしたこの夜を大切に覚えていてください」
それだけ告げると、彼はゆっくりと立ち上がり、酒場を後にした。
(……必然。私が、ここに来ることが?)
エリアスの言葉は胸の中に小さな棘のように刺さって、いつまでも抜けなかった。
――やっぱり、この世界は私の知ってるゲームの中じゃない。
そんな疑念が、私の中で確信に変わり始めていた。
* * *
「おねーたん……みきぽん、ねむいでち……」
気づけば、小さな体がうつらうつらと船を漕いでいた。
「……そうだね、そろそろ帰ろっか」
「かえる……どこへでち?」
「ギルドハウス――今日からは、みきぽんのお家だよ!」
その一言に、みきぽんの顔がパーッと明るくなった。
「おうち……! みきぽんにも、おうちできたでち!」
――そうだった。この子には今まで「帰る場所」がなかったんだ。
孤独の中で待ち続けて、ようやく手に入れた大切な居場所。
「おうち! おうち!」
みきぽんは両手を広げて、心から嬉しそうに飛び跳ねる。
その姿があまりにも健気で、胸がぎゅっと締め付けられる。
(そうだよね……帰る場所がないって、辛かったよね……)
「いこ♪」
「……うんっ!」
もう寂しくなんかない。
――これからは、一緒に帰る家があるんだから。
月明かりに照らされながら、私たちは手をつないで歩き出した。
異世界の夜風は、どこまでも優しかった。
※今週は毎日更新予定です!
次回もお楽しみに♪
読了ありがとうございました!
宴の後、リスナーとの温かいやりとりから一転……
「ログアウトって何だ?」――この一言で、まきぽんの“常識”がひっくり返りました。
そしてエリアスの意味深すぎる一言、
「あなたがここに来たのは必然なのかもしれません」――。
彼はいったい、どこまで知っているのでしょうか?
次回からはいよいよ本格的な冒険がスタート!
仲間たちと共に王都を旅立ち、初めての討伐クエストへ向かいます。
絆を深めながら進む道の先で、待ち受けるのは……!?
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