第7話「妹の入団祝いは異世界居酒屋で!でも『スマホ』が通じません!?」
《白銀の角笛団》に無事受け入れられたみきぽん。
そして今回は、お待ちかねの異世界居酒屋――入団祝いの宴会です!
賑やかな酒場《豊穣の麦穂亭》に広がる笑い声と、美味しいごちそう。
でもそのひとときの中で、まきぽんはふと、この世界に潜む“違和感”を感じてしまう……?
笑いあり、歌あり、そしてちょっと引っかかる発言もあり!?
どうぞ今夜のドタバタ宴会を、一緒に楽しんでいってください!
王都リアンナハの喧噪を背に、私たちは石畳を踏みしめながら、王都で一番賑やかな酒場、《豊穣の麦穂亭》へと足を運んだ。
ここは冒険者たちが集う社交の場――。
昼は討伐依頼のやり取りや情報交換で賑わい、夜になれば女将の手料理と名物の麦酒の香りに包まれて、いつも活気と笑い声が絶えない。
みきぽんの手には――ズッシリと銀貨が詰まった皮袋。
これはファル・グラスを撃退したお礼にと、市場の長老が私たちにくれた報酬だ。
そして、これからみきぽんの正式なギルド加入を祝うための宴会が始まる。
モーニングスターをぶん回して一撃で小鬼たちをやっつけた姿は、リゼやエリアスを説得するのにこれ以上ない証明となった。
「わぁ……おねーたん! ここ、にぎやかでち!」
「そうだね。ちょっと圧倒されちゃうくらい……」
酒場の扉を開けた瞬間、熱気と肉の焼ける香ばしい匂いがブワッと押し寄せてきた。
入口近くの席では、屈強な男たちが肩を組み、大声で「ガハハッ!」と笑いながらジョッキをあおっていた。
床には彼らが食べ散らかしたであろう、パンくずや食べかすが散乱している。
(酔っ払いのおじさんたち、みっともないなぁ……)
私は眉をしかめた。
だがその瞬間。
すっと前に出たリゼが、静かに、しかし鋭く目を細めた。
「……!」
男たちはその気迫に気づき、さっと青ざめる。
そして胸に拳を当てて、ほとんど反射的に直立した。
「こ、これは団長……! 失礼いたしました!」
「常に《黒翼戦士団》の誇りを持て。風紀を乱すな」
凍りついた空気に、誰もが背筋を伸ばす。
さっきまで騒がしかったのが嘘みたいに、酒場全体がシン……と静まり返った。
(やっぱり……リゼさん、ただものじゃない。
これが団長のオーラなんだ……!)
リゼは、王立軍の中でも精鋭揃いと名高い《黒翼戦士団》の団長をしている。
私が息を呑んでいると、リゼはちらりとみきぽんを見やって、ほんの少しだけ柔らかい声を出した。
「……今日は特別だ。存分に楽しめ」
その一言を合図に、酒場の賑わいが再び戻ってきた。
* * *
私たちの一行は、奥の丸いテーブルに座った。
席についた私は、ついクセでローブからスマホを取り出してしまった。
みんなもやるよね、隙ができるとスマホ見ちゃうやつw
――ピカァッ!
「わっ……!?」
強制的に画面が光り出し、配信アプリが起動する。
……忘れてた、今はこのスマホ、起動させると勝手にライブ配信を始めちゃうんだった。
早速寄せられたコメントが、ホログラムのように私の周りに浮かび上がる。
【うおおお! 酒場から配信!?】
【今日はギルメンも一緒じゃん!】
【異世界居酒屋アニメ始まったーーー!】
コメントは次々と流れていく。
こんなにリスナーが集まっちゃったら……スマホ閉じるに閉じられないじゃん。
「えっと……、んじゃ今日は酒場から配信しようかな?」
「お、おい、まきぽん……誰と話してるんだ?」
バルガンが目を丸くする。
そうか、このコメントは私にしか見えていないのね。
「これね、実は……」
私はスマホと、みきぽんの魔法(物理)について説明した。
「ほう……その奇妙な石板は、魔力で動いてるのか?」
「私にも見せて〜」
リゼとノエルが不思議そうに覗き込んでくる。
【うおおおお、リゼ姐さん、リゼ姐さーーーん!】
【ノエルちゃんの笑顔、マジ癒しっす】
女性陣が映ると、より一層コメントが加速する。
――ていうか、石板?
みんなスマホを知らないの……?
「……なるほど、みきぽんの破壊力の源は、リスナーの応援だったのですね」
エリアスには話が通じるみたいで、ちょっとほっとした。
「そうなの、仕組みとかはわかんないけど……」
てかこれって、電波届いてるの?
電池も全然減らないし、配信アプリ以外は使えないみたいだし……
疑問が多すぎる。
エリアスはしばし考えていた。
「ふむ……すると、まきぽんがこの世界に転移した意味は……」
「え?」
眼鏡の奥に宿る光に、一瞬ゾクリとした。
待って、――エリアスは私が転移したことを知ってる??
「……ああ、すみません。
さあ、今日は新たな仲間を迎える夜です。存分に祝いましょう」
エリアスの言葉を合図に、みんなはそれぞれジョッキやグラスを掲げた。
「よーし、《白銀の角笛団》の大活躍と、新しいちびっ子団員にかんぱーーーい!」
「「「「かんぱーーい!」」」」
バルガンは豪快な掛け声と共に、ジョッキのエールを飲み干した。
みんなはエールやブドウ酒を飲んでるけど、未成年の私とみきぽんは、果物の果汁を蜂蜜と水で割ったものを飲んでいる。
【俺もカンパーイ!】
【みきぽんちゃんおめでとう!!】
酒場そのものが、賑やかなライブ配信会場へと化した。
* * *
「ほら、今日も腕によりをかけて作ったよ!たーんと食べておくれ!」
恰幅のいい女将が威勢よく皿を並べるたびに、みきぽんの目はキラッキラに輝いた。
猪肉のロースト、羊肉のシチュー、焼きたての黒パンに、蜂蜜で煮込んだニンジンとカブのグリル......
テーブルの上は瞬く間にごちそうで溢れかえった。
【うおおおお、うまそーー!】
【なんだなんだ、今日は飯テロ回か!?】
「おにくーっ!」
小さな手が肉の皿に伸びた瞬間――。
「待て待て待てい!」
バルガンが皿を取り上げる。
「まずは野菜だ! 大きくなりたければ、野菜からだぞ!」
「なんででち!? みきぽん、おにくたべたいでちー!」
ぷくーっとほっぺをふくらませるみきぽんに、酒場中がドッと笑いに包まれた。
「ダーッハッハッ! よしよし、野菜を食べたら肉も山ほど食わせてやる!」
「……ほんとでちか?」
「おう、約束だ!」
仕方なくニンジンをかじるみきぽんの顔は、ちょっと不満そうで、でも妙に可愛らしい。
* * *
「では、今宵にぴったりの歌で彩りを添えましょうか……」
ノエルが優雅に立ち上がり、竪琴を爪弾いた。
柔らかな旋律が酒場を包み込み、彼女の澄んだ声が重なる。
星々は汝の道を照らし
風は汝の名を運ぶ
闇に立ち向かう者よ
その心こそ、真の剣
火は汝の血潮を燃やし
大地は汝の足を支え
戦場に散ることなく
仲間と共に帰れ――
歌は冒険者たちの勇気を讃えるものだった。
それまで賑やかに騒いでいた者たちも、次第に耳を傾けはじめ、やがて手拍子が波のように広がっていった。
「すごいでち……ノエルたん、きれいでち……!」
みきぽんはリズムに合わせて体をゆらゆらと揺らしていたかと思うと、スプーンをマイクのように持って、たどたどしい声で歌い始めた。
その愛らしい姿に、また酒場には笑顔があふれる。
* * *
「しかしみきぽん、本当にすごい力だったな。
こんな小さな体で、あの鉄球を振り回すなんて……」
リゼにそう言われて、みきぽんはキョトンと不思議そうな顔をした。
「なにをいってるでちか?
みきぽんは”まほーしょーじょ”なので、あれは“まほー”でちよ?」
「いや、あれはどう見ても物理攻撃……」
「まほーでちよ?(キッパリ)」
(……うっ、澄み切った瞳で、心からあれは”魔法”だと信じている……)
【魔法(物理)】
【拳で語る魔法少女……強い……】
爆笑の渦に包まれた酒場で、私もつい、笑顔になった。
竪琴の音、笑い声、エールの香り。
ロウソクのゆらめく灯りに照らされた酒場で、私は胸がじんわりと満たされていくのを感じていた。
(……楽しい。こんなに温かい夜があるなんて……)
それと同時に、肩の力がふっと抜けていくのがわかった。
さっきは、妹を守れるか不安でいっぱいだった。
でも今は、みきぽんが笑っていて、みんなもあたたかくて――
「ああ、大丈夫だ」って、やっと心から思えた。
そう感じた瞬間、みきぽんが私の袖を引っ張り、小さな声で囁いた。
「おねーたん……みなたん、やさしいでちね」
「うん……ほんとにね」
笑い声が広がる酒場の片隅で、私は小さな妹とグラスを合わせた。
異世界の夜は、こうして優しく更けていった――。
※今週は毎日更新予定です!
次回もお楽しみに♪
最後までお読みいただきありがとうございます!
みきぽんの入団祝い、にぎやかで温かい夜になりましたね。
お肉をめぐる攻防やノエルの歌、みきぽんの「まほー(物理)」発言に酒場中が爆笑……これぞ異世界居酒屋コメディ!
でも、ただ楽しいだけじゃ終わらないのがこの物語――。
次回はふとした会話から「この世界の秘密」に触れることに……?
「え、ログアウトって……何?」
ぞわっと背筋が冷える展開を、どうぞお楽しみに!
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