第20話「衝撃の真実!チート設定を打ち破れ!魔法も物理も通じない敵に、魔法少女(物理)が挑みます!?」
リヒトを倒して一息ついたのも束の間、まきぽん達の帰路に立ち塞がるのは……魔法も物理も効かない敵 ?
そんなの、どうやって倒せばいいの!?
絶望的な状況を前に、仲間たちはどう立ち向かうのか……。
そして最後には、ついに敵の正体が明かされます。
そこに隠された、驚愕の真実とは……!?
地底湖の水面がざわめき、さざなみが立つ。
静かで神秘的だった景色は、一瞬にして不穏なものに変わった。
「……カエサナイ……」
耳ではなく、心に直接響くような声だった。
聞くだけで悪寒が背筋を這い上がる、女とも男ともつかぬ怨嗟の声。
「なに……!? まだ『闇』が残っていたというのか……!」
瑛士さんの表情が険しくなる。
彼が再び眼鏡をかけると、さっきまでの気弱な青年の瞳は、一瞬にして頼もしいドルイドの眼差しへと変わった。
「急いで! 皆の元に戻りましょう」
「はい!」
黒い瘴気が湖の底から溢れ出す。
空気が重く、ねっとりとした恐怖に絡め取られる。
「みきぽん! みきぽん、どこ!?」
私は走って結界に戻ると、真っ先にみきぽんの姿を探した。
彼女は無事、私が出かける前と同じように焚き火の傍で眠りこけていた。
「みきぽん……よかった!」
私は息を切らしながら駆け寄り、思わず力いっぱい抱きしめた。
「むにゃむにゃ……おねーたん、どちたの?」
寝ぼけながら彼女は、いつもの口調で呑気に言った。
……この子って、本当に大物かも。
「お、おい、なんだこれは!?」
濃い瘴気に耐えながら、バルガンは苦しげに膝をつき、ノエルは顔をしかめて胸を押さえていた。
(……これ、さっきの夢——!)
瘴気の中心に、ひとつの“影”が立っていた。
女神像のようにしなやかな輪郭を持ちながらも、背中からは禍々しい漆黒の翼が生えていた。
俯いた顔は、長い黒髪に隠されて見えない。
……けれど私の、生物としての本能が警鐘を鳴らしている。
これは、出会ってはいけない存在。
今までの敵とは比べものにならない、“何か”が目を覚ましてしまったのだ——。
「水の妖魔……メリュジーヌか……!?」
リゼは苦悶の表情を浮かべながらも、勇敢に剣を構える。
メリュジーヌ——
それは古い伝承に語られる、湖や泉に棲む妖女だ。
上半身は美しい女の姿をしているが、蛇や竜の下半身を持ち、嫉妬や怨嗟の念を糧に、人を水底へと引きずり込むと言われている。
(さっきの夢に出てきたのは、こいつ……?)
そして——
オォォォォォ……!
洞窟全体が震えるほどの、耳を裂く咆哮が轟いた。
「きゃっ!?」
ノエルは思わず耳を塞ぐ。
闇色の長い髪が水面に漂い、瘴気が空気を汚染していく。
抗い難い威圧感を放つ、その姿はまるで……
『闇』に堕ちた女神……。
「な、なんだありゃあ!」
兵士のひとりが蒼白になり、剣を取り落とした。
メリュジーヌの髪から滴った水滴が、ジュっと水面で蒸発すると、そこからウネウネと黒く蛇のような魔物が湧き出てきたのだ。
「……カエサナイ……」
メリュジーヌの怨嗟の声に操られるかのように、蛇は私達目掛けて鎌首をもたげた。
「——来るぞっ!!」
(まずい……このままじゃ……!)
「と、とにかく、明かり!」
私はとっさにスマホを取り出し、ライトの代わりに点けた。
でも、光が満ちた瞬間——
【おいおいおい!!】
【やっと再開されたか、待ってたんだぞ!】
【エリアス! 配信切らせて二人きりになるとか、どういうことだーー!!】
配信コメントのホログラムが、一瞬にして頭上を埋め尽くす。
あぁぁぁぁ!
そうだ、配信切ってたんだった〜!!
【まきぽん、大丈夫だったか!?】
【てめーエリアス! まきぽんになんかしたらただじゃおかねーからな!!】
スマホで魔力に変換されたコメントは一斉に鋭い光の矢となって、エリアスをぐるりと取り囲む。
「……っ!? いや、私は……!」
さすがのエリアスもタジタジになり、杖を構えて後ずさった。
「待って、みんな違うの!」
【うっせー! このムッツリメガネ!】
光の矢のひとつが、エリアスの臀部をチクリと直撃した。
「いって!!」
……あ、今の悲鳴、『エリアス』のロールプレイ忘れてる……
完全に『瑛士さん』の地の声だわ……w
「んあ? なんでエリアスが攻撃されてんだ?」
「チクチクでち!」
「ちょっと待って、ほんとに違うんだってば! みんな落ち着いてーー!!」
必死で両手を振る私。
「あらあら、二人きりでどこかに消えたと思ったら……そういう事だったの〜?」
ノエルにはコメントが見えていないはずなのに、何かを勘違いしたように微笑んだ。
……てか、見られてたんだ!
「エリアスも隅におけないわね〜、うふふっ」
それを聞いて、バルガンが腹を抱えて笑った。
「ダーッハッハッ! そうかそうか、痴話喧嘩もほどほどにな!」
「そうじゃないんだってば!」
「違います! 誤解です、私はそんな——ぐっ、ちょっとやめなさい!」
コメントの矢を避けようとするエリアスは、珍しく声を荒げている。
「お前ら……そ れ ど こ ろ じゃ な い だ ろ !!」
リゼの一言に、みんなハッとわれに返る。
彼女の剣の切先——そこではメリュジーヌが両手を広げ、黒い蛇を今にもけしかけようとしていた。
【なんじゃこりゃぁッ!?】
【え、何コイツ、貞〇?】
【うわ無理無理! 俺、ホラー苦手なんだけど!】
「弓矢隊、放て!」
リゼが剣を振るい、弓兵たちが一斉に矢を射る。
まずは遠距離からの攻撃……
だが——
矢は、敵に届く直前で空気に弾かれたように逸れ、虚しく水面に落ちていった。
「……見えない壁だと!?」
兵士は再度矢を射ったが、同じように弾かれる。
無力感から兵士はがくりと膝をつき、弓を取り落とす。
「だめだ……! 俺たちの攻撃じゃ、かすりもしねえ……!」
「小癪な……なら、これはどうだ!」
黒翼団の魔道士が、渾身の雷撃魔法を放った。
激しい稲妻が水面を走り、メリュジーヌに襲いかかる。
しかし敵に触れる寸前、不意に波紋のようなゆらめきが現れ、雷撃はその中に吸い込まれた。
「魔法が……無効化された!?」
物理で攻めれば、硬質な壁が立ちはだかり、
魔法を放てば、揺らめく水面のような障壁が呑み込む。
「私もやってみる!」
「おねーたん、がんばえ!」
【まきぽん、燃やせ燃やせーー!】
【絶対いける! 俺たちの力、見せてやろうぜ!】
みきぽんとリスナーたちの声援に背中を押され、私は杖を構えた。
みんなの力が乗ったファイア・ボルトなら、ワンチャン……?
「みんな、ありがと! ファイア・ボルトーーーっ!」
深紅の火球は、豪速球のように打ち出された。
「うそ……」
確かに打った手応えはあった。
でも、そんな会心の一撃さえも虚空に呑まれてしまう。
「そんな……!」
「俺がやってやるっ!」
バルガンは待ちかねたとばかりにバシャバシャと湖水に飛び込むと、力任せに戦斧を振りかぶった。
だが、必殺の鉄塊が振り下ろされる刹那……
ガキィィィン!
透明な硝子の壁に叩きつけられたかのような音が響く。
火花だけが散り、斧は弾かれて宙を舞った。
「くそっ、これでもダメかっ!」
バルガンは痺れた手をさすっている。
「魔法も、物理も全部弾かれるなんて……!」
【なにこれ、負けイベント……?】
【やば、完全に詰んでね? これ……】
絶望が広がる。
仲間の誰一人として、あの障壁を突破できない。
そもそも、この漂う瘴気をなんとかしないと、息が詰まりそうだ。
——そのとき。
「みきぽんに、まかせるでちーー!」
甘いプリンの香りと同時に、光のリボンがぱっと弾けて彼女の身体を包み込む。
ツインテールのリボンがふわりと舞い、ドレスの裾が花びらみたいに広がった。
胸元の宝石がきらめき、最後にステッキが手の中へ飛び込んでくる。
「スーパー魔法少女・マジカル☆みきぽん!」
ポーズを決めると、謎の効果音や星のきらめきと共に、背景が一瞬だけゆめかわ空間と化した。
【うおおおお! 待ってました魔法少女!】
【あれ……今ってニチアサだっけ?】
「モーニングスターで……おしおきでち☆!」
ステッキを両手で握り、彼女はくるくると舞うように回転した。
鉄球が唸りを上げ、轟音と共に空気を切り裂く。
「ひっさつ! マジカル……くるくる☆モーニングスター!」
【みきぽんちゃん、いっけええええ!】
【これなら通る!?】
「どっかーーーーーん!!」
炸裂する衝撃は、まるで小さな嵐だった。
鉄球は障壁に弾かれた、だが……
「おお……」
モーニングスターが巻き起こした竜巻のような暴風は、辺りを覆う瘴気を一気に吹き飛ばした。
「やった……視界が晴れたわ!」
濃厚な瘴気は消え去り、その下に覆い隠されていた魔物の正体が明らかになった。
だが——
「……なっ!?」
姿を現した『それ』を見て、エリアスは絶句した。
水を滴らせた長い黒髪、烏の濡れ羽色をした艶やかな翼。
白い肌は妖しい輝きを放ち……
しかし、瞳は狂気に満ちた真紅に染まっていた。
エリアスは、何かに思い当たったかのように呟いた。
「そうか……あらゆる攻撃を無効にする……つまり、《ステータス:神性》」
「……神、ですって!?」
その瞬間、リゼが青ざめる。
「……神ならば、至聖にして不可侵。
人の子による攻撃など、届くはずもない……」
神性——それは、この世界における“絶対”の象徴。
「そうです、今、我々が対峙している——」
彼は信じられないとでもいうように首を振りながら、残酷な事実を告げた。
「彼女は、女神……モリガン……」
その名を耳にしただけで、誰もが息を呑み、凍りついた。
モリガン、死と戦の女神。
そしてそれは《黒翼騎士団》の信仰の象徴——。
中でも一番ショックを受けていたのは、リゼだった。
「モリガン……さま、だと……」
——カラン……と乾いた音が洞窟に響き渡る。
彼女はモリガンを見つめたまま、何よりも大切にしていた剣を取り落としてしまったのだ。
誰が見てもわかるほど、狼狽して顔色を失っている。
「……カエサナイ……ゼッタイ二……」
モリガンは瞳に憎悪の光を宿すと、禍々しい声と共に翼を広げた。
人の理を超えた禁忌の女神が今、降臨する——。
読んでくださってありがとうございます!
ついに登場した、ゲーム的に理不尽な『チート設定』持ちのボス。
普通なら絶望して終わりですが、そこに魔法少女(物理)がどう挑むか……!?
次回、さらに衝撃の展開が待っています!
まだの方はぜひブクマ登録して、次回もお楽しみに♪




