妹の消息
私がお仕えしている姫様は、亡きお母上の面影を継いだものの、ご気性は、その、何と申しますか、黒い物は黒、白い物は白とはっきり区別しないとおさまらない、よく言えば利発で快活ですが、人のご機嫌をうかがうということが不得手で、時として不興を買ってしまうというところがおありなのが心配の種です。
そろそろお見合いの話も出てくるお年頃になり、私も何度となく言い聞かせているのですが、実の母でもない召使いの身の上ゆえ、なかなか強く諭すこともできずにおりました。
姫様は幼い頃からお父上、ご領主様の居城とは別邸宅にてお過ごしですので、日々のご様子は私から、折々に手紙でお伝えしてまいりましたが、最近になって、ご領主様がよくこちらにおいでになるようになりました。これはご婚礼が近いのでは、と拝察しているのですが、いまのところは私には特段お話も特別なお言いつけもございません。
ひとつだけ変わったことは、消息をお姫様ご自身もお書きになるように、とのご指示がございました。
「そなたの報告が信用できないということでは全くないから、誤解のないように。そろそろ姫も、手紙の1つくらい書けないのでは、姫としての素養と品格の問題だからね。
分かっているだろうが、そなたからの報告は姫が読めないように、姫からの消息もあなたは見てはならない。きちんと封をして届けさせなさい」
【1通目の手紙】
紛失:おそらく早馬の伝令に託したものの、その伝令が未だ消息不明
【2通目の手紙】
判読不能:伝令が大雨の中、川の渡渉に失敗して溺れそうになり濡れてしまったため、、内容文面が判読不能に
【3通目の手紙】
父上
神の恩寵が父上のもとにありますように、亡き母上の御霊が安らかでありますように。
そして兄上達のもとに真の和解が訪れますように。
父上に私の様子をお届けするのも、これで3回目となります。初めは不躾な消息を書き綴ってしまったこと、改めてお詫び申し上げます。とはいえ、私は父上に対して常に正直で誠実でいたいという一心であることをご理解くださり、心より感謝と安堵をしております。
一昨日の諸聖人の祝日のことですが、夜中の礼拝の後、下僕や召使い達には休みを与え、私は一人で館に残っていたところ、昼前に従兄弟殿が訪問され、二人で領地内を散歩いたしました。
父上からのお言いつけ通り、兄上達の仲ことを聞かれても、私にも詳しい原因がわからず、悲しんでいるとだけ答えました。すると従兄弟殿は父上の様子を聞かれましたので、とても悩んでいらっしゃるようです、とだけお答えいたしました。母の墓前にお花をお供えした後、最後に従兄弟殿は、兄達が決別してしまった場合、私がどちらの味方になるつもりなのかと問うてきました。私は分からない、ただ父上に従う、とだけお答えしました。
父上、不思議なものですね。本当に、この間父上にお会いしたとき、おっしゃった通りの質問を受けました。
散歩の間、乳母がずっと横に付き添っておりましたので、同じ会話を耳にしていたはずです。彼女の報告のほうが早くそちらに届くかもしれませんが、ひとつだけ、おそらく私だけが気づいたことがございます。
従兄弟殿は、左腕に怪我をなさっているようです。ブラウスの内側からうっすらと血がにじんでいるようでした。散歩の間ずっと左腕を心臓より上の胸のあたりにあてていらっしゃいましたから、まだ止血できていないくらい新しい傷かと思われます。従兄弟殿は隠しているご様子でしたので、私もあえて気がつかないふりをいたしました。
これは私の思い過ごしかもしれないのですが、従兄弟殿が私に好意があるような気がしました。突然立ち止まって、私の容姿を褒めたり、意中の人がいるのかと問いかけたりするのです。私はお褒めの言葉に儀礼的に感謝を申し上げ、まだ誰かに好意を持つという感情がわかりません、とお答えしましたが、私の態度は正しかったでしょうか?
もうまもなく、伝令が出発するとのことで、ここで筆を置きます。
今度お会いできる日まで、父上とお兄様方がお健やかにお過ごしになられますように。天国のお母様の魂が平安でありますように。
【4通目の手紙】
一部のみ:伝令が夜盗に襲われ、手紙の入った荷物の一部が火に焼かれてしまったため。
・・・ですが、安心なさってください。乳母が気を利かせて、私が不在だと告げると、しばらく居間で待っていたようでしたが、お帰りになりました。お父上が心配されていたように、最近は少し態度が強引になってきております。乳母から警護の者を派遣してくださるようにというお願いが届いておりますでしょうか? 私も少し不安を感じております。警護の件、何とぞ私からもお願い申し上げます。
もう1つは、お父上に喜んでいただけるご報告ができることを嬉しく存じます。先日の・・・・・




