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びんかんはだは小さい幸せで満足する  作者: 樹
第四章 異世界
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78話 二人きり

78話目投稿します。


この世界で起こっていた出来事を聞き、再び始まる新たな旅立ちは、懐かしい思い出と、叶える約束と、2人の想いを辿る。

眩い視界に最初に入ってきた景色と、私の体を掴んで離さなかったカイルの腕。

しばしの間、肩を震わせるカイルの首筋に腕を回して抱きしめると、その温もりが私の肌に伝わり、私もまた肩の震えを止める事が出来なかった。


火山の最後の噴火と共に行方不明となった私は、更に東へと捜索範囲を拡げても一向に見つかる気配もなく、当然、私にだけかまけていられる程の余裕もなく王都からの遠征部隊は帰還、オスタングの軍部も復興作業に暇がなく捜索は打ち切られる流れとなった。

携わった多くは、すでに私の命はないのでは?と漏らす者も居たが、そこはノームの存在が意見の否定材料となる。

特にカイルとシロの関係がそれに近く、私の生存の可能性を高め、公として打ち切られた探索は私の身近な者たちの数名が復興作業の合間で行っていたらしい。


「お前は最後に、行ってくる、って言ったからな。」


あの時、私がカイルに告げた言葉を仕事に出かける時の、或いはちょっとそこまでと買い物に出かける時の挨拶同様に受け取ったのだ。

当然の様に戻って来るものだと。


『今年は川遊びも山遊びもできなかったね。』


戻ったあの日、故郷には初雪が降ったという。

寒空の下でずっと私の体を抱きしめていたらしいのだが、いっそ家まで運んでくれれば良かったのに、と後々の愚痴と些細な喧嘩はまた別の話だ。

少なくともあの瞬間、私の視界にあった彼の表情を見ればそんな事は言えなかったし、私もそれが嬉しかった。


「今はそれ以上に楽しい日々だって俺は思ってる。」


故郷で数日を過ごし、再び旅立つ日。

父と母にとってはそれが私の日常なのだ、と言った。

いつでも帰ってくればいいんだ、と。

アナタの帰る家はここなのだ、と。

家の扉を潜った先で抱きしめた両親は少しだけ小さくなった気がするのは、私の体も心も今までの旅で得たものがあるからだろうか?


『色んな人に会えた。約束も。』


こことは違う世界でも歩いた道。

今は2人で進む道は、行き先に迷う事も無い。

本格的な冬を迎える前に越える山。

そう言えばシロと初めて会ったのもこの山だった。

聞けばしばらく空けていた古巣の様子を見に行くと一旦の別れとなったそうだが、王都での再会を約束しているらしい。


「今まで結局どこに居たんだ?」


遠いところ、とだけ告げた。

多くはないが出会った人たち、交わした約束。

今私たちが向かう目的地の道は見えていても、約束を叶える道はまだ霧の中。

それを伝えた私の中に積もっている感情。

今は糸口も見えない渦は、私の涙を誘うには容易い。


『色んな事があったんだよ。』


キュリオシティに辿り着き訪れた宿。

一度目は馬車の旅。初めて故郷を離れて訪れた別の町。

二度目は旅は一人。見知らぬ世界で訪れた。

三度目は二人旅になった。

用意された夕食は、何度食べてもやはり美味しかった。


「初めての時も思ったけどうんまいよなぁ。」


2人並んで部屋に戻る。

取った部屋は一つ。

三度訪れた宿の部屋、窓から見える町の景色も今までと少しだけ違う。

大きなベッド。二人用の寝床を設えた二人用の部屋だ。

極々自然な流れで一つのベッドに入る。


『小さい時は何度も一緒に寝てたのに、ね』


伸ばされた手が頬に触れる。

その手に重ねた私の手の平に伝わるのは、カイルの温もりと、僅かな震え。

きっと私もカイルと同じぐらい震えてるに違いない。

その胸の中に顔を埋めた。

緊張で硬くなった体を精一杯抱きしめる。


「…俺も余裕なんてないぜ?」


分かってる。

私も同じだ、と。

私たちの今の望みと、想いと、費やした日々は同じだ。

そして、何より…

ずっと一緒に居たんだ。


『私が今ここに居るのは、カイルがここに居てくれるからなんだよ?』




「わりぃ…もう無理だ。」


一言だけ発したカイルの顔が、私の首筋に押し付けられ、一瞬離れた後、その瞳に私の顔が映っているのが見えた。

背中に回そうと伸ばした私の両手首が掴まれ、頭上に上げられる。

(この流れ…誰でも同じなのかな…?)

以前味わった時と同じ体勢に、別の意味で興味が湧いてくるが、今回は、嫌な気は無い。

私の手首を抑える手は温かくも、震えているから…。

何より今は…私が望んでいるんだ。

カイルの温もりが欲しい。


『…もう、離さないで…』


緩んだ手から解き放たれた腕を精一杯伸ばして、カイルの背中に回して、思い切り引き寄せた。

互いの体が溶けて一つになるくらい強く。

二度と離れないように繋ぎ止める為に。

何があっても、何が起こっても、何を犠牲にしても、この温もりだけは忘れないように…


「フィル……その、何だ……愛してる。」

『知ってる。』

「ずりぃ返事だな?」

『知ってるよね?』

「あぁ。」


『カイルに会えて良かった。』




灯りの消えた部屋に差し込む青白い月明かりも、今宵はどこか温かく感じる。

けれど、その温もりは月明かりだけじゃない。

隣で寝息を立てている幼馴染。

ぐっすり眠っているくせに振りほどいても離れそうにない手から伝わる温もりもまた、今では何よりも掛け替えのないモノだ。


『…オヤスミ』


静かな寝息を立てる唇にほんの一瞬、唇を重ね、その胸板に体を預けて目を閉じた。

感想、要望、質問なんでも感謝します!


通じ合う想い。

再会の顔ぶれ。

手にした知識は次なる旅に何を示すのか?


次回もお楽しみに!

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