77話 帰還
77話目投稿します。
異世界の技術の粋を成した結末は終に訪れる。
その世界に別れを告げ開かれる門の先に待つものは…
「準備はいいですか?」
翳したランタンから溢れ出る光は緑色に輝き、その眩しさに瞼を閉じる。
「できてなくてもやっちゃいますけどね?、メル。」
「はーい!」
元気よく飛び跳ねる姿に少々気圧されるものの、確かにここにずっと居続けるわけにもいかないのは確かだ。
『どうすればいいの?』
「フィルさん、貴女の還るべき場所を思い浮かべてください。」
『還る場所…』
そう言われて出る迷いは、あの世界で思っていた以上にできてしまった関わりか。
「そこは違います、フィルさん。」
ノザンリィでクレンや町の人々が新しい旅立ちを助けてくれた。
キュリオシティではリーブが見えなかった道筋に印を作ってくれた。
王都への道で襲い掛かって来た連中、名前も知らないし恩があるわけじゃないけれど、あの時、私は必ず帰ると決めた。
魔導院で、目の前の姉妹と出会い、短いながらも楽しい日々を過ごした。
ニコラからは影や闇魔法についての知識を貰った。
楽観的だけどその歩み、真意は何事にも代えがたい彼の才能だ。
グリムは…あの御方もきっとただでは済んでいない。
圧倒的で絶大な魔力を見せつけた彼でも、門の、この空間を生み出す糧としては荷が重かった。
そもそも人の領分を越えている。
鞄の中に入ったままの魔導器の存在を思い出す。
何よりあの時の私は彼の名を『ラグリア』と呼んだ。
何故あの御方があの世界に居たのか、今は解らない。
それを知る為に、今私が還るべき場所は…
裏手の丘、お気に入りの椅子代わりの岩。
代理夫妻と共に手入れする農園。
境界の山から見える故郷の姿。
広大な丘陵に響き渡る程の冒険者の活気。
夜の町を彩る街灯と幻想的な町並みを見下ろす窓辺。
学術研究所の書庫には読み切れない程の蔵書。
今ならあそこで働く人たちの役に立てるかもしれない。
昇降機は今も忙しく動いているだろうか。
王城に居るラグリアは今どんな事に頭を悩ませ、仕事を執っているのだろうか?
本宅のレオネシアは次に私に着せる服の用意に忙しくしているのだろうか?
オーレンは同行できなかった事に悔しがり剣術の練習でもしているのだろうか?
パーシィは相変わらず噂話に聞き耳を立てているのだろうか?
ロニーも相変わらず教授にこき使われて愚痴を吐いているのだろうか?
姉のマリーは東領の復興に忙しく駆け回っているのだろうか?
ルアたちの集落に火山の被害はなかっただろうか?
ロディルは東領復興のための資源運搬に忙しく走り回だているだろうか?
ノームはきっと東領の地底の整備で楽しそうに穴掘りをしているだろう。
エル姉はきっと今もお酒を呑んで豪快に鼾をかいているに違いない。
シロはベリズとの戦いで随分と消耗していた。今頃は愚痴りながら療養しているはずだ。
アインは次の悪巧みを考えている姿が目に浮かぶ。
イヴは私に会えない寂しさに泣いていなければいいが。
父と母は元気に暮らしているだろうけど、今度こそ時間を作って手紙を送ろう。
『カイル…』
結局、一番会いたいのはアンタだったみたいだ。
「見えましたか?」
閉じていた目を開けると、優しく微笑むリルの顔。
『うん。解ったよ。私の還る場所。』
少々照れ臭く、自然とハハッと小さい笑いが漏れた。
改めてその手に持ったランタンを高く掲げると、周囲の景色が消え、眼前には石造りの大きな門が現れた。
門の中には何も無い。
「フィルおねぇちゃん。行くよ?」
姿が見えなくなったが、メルの声が耳に届く。
同時に門の内側に黒い…影…闇魔法の塊が現れた。
「フィルさん!」
背中を押され、私は足を踏み出した。
門に飛び込む私の背中に…リルの声が届いた。
「ありがとう…またいつか…」
『待ってて!』
通り抜ける直前、振り向きざまにリルに向けて、短く叫んだ。
私の視界に映ったリルの顔は、涙を浮かべた笑顔だった。
門を通り抜けた、と思っていた私は、以前、イヴと共に包まれた影の中にいるような感覚に囚われる。
「フィルおねぇちゃん…メルも、おねぇちゃんに…たくさんたくさんありがと!って言いたい。」
『うん。私も…ありがとう。また、必ず会いにくるから…待ってて、ね?』
「知ってるよ、またね!フィルおねぇちゃん!」
暗闇のはずなのに、目を開けていられないのは何故か…
あぁ…違う。
これは、
私の意識が途切れたんだ。
「おーい!フィールー!」
名前を呼ばれて振り向いた視界の中、こちらに走ってくる男の子の姿。
(キミは、誰?)
少年は私の名前を呼んだ気がしたのだか、私の前で止まる様子もなく、通り過ぎていく。
「早くでてこいよー!」
振り向いた先に見えた風景は、懐かしい家と、二階の窓際に佇む少女。
(あれ…私だ)
景色が揺らぐ。
「今日は川に魚取りに行くぞ!一緒に!」
再び背後からの声。
振り向くと、少々…いや、大分面倒臭そうな少女の顔と、満面の笑顔の少年。
(何か、無理やり連れて行かれた事、あったな…)
「ご、ごめんなさい!!」
正座して泣いている少年。
隣には、肩を震わせて俯いたままの少女。
(確かこれは…初めて2人だけで森の奥に入った時…しこたま怒られた。)
「も、もうちょっとだから、頑張れ!」
背中に少女を背負い、肩で息を切らせている少年。
(父と母が留守にしてるとき、私、熱出したんだっけ…何故か夜中なのに駆けつけて来たんだよね。)
「俺が、ずっとお前と一緒に居るよ!」
泣いている少女に叫ぶ少年。
「だから、もう泣くな!」
(そう…だね。)
『ごめん…私、馬鹿だね。』
瞼の向こう、まだ開けていない眼に陽の光が眩しい。
あまりの眩しさを遮る為に腕を動かそうとするが、何かに掴まれた腕はピクリとも動きそうにない。
已む無く開けた視界に飛び込んだ景色は、私のお気に入りの景色。
小高い丘から町を臨む景色。
身動きの取れない体を確認すると、私の体が何かに包まれているのが解った。
『ん…』
と漏れた声に、ソレの耳がピクリと動き、ソレは目を開く。
『…ただいま』
感想、要望、質問なんでも感謝します!
沢山の想いを胸に秘め、託された未来を紡ぐために降り立つ世界。
待ちわびた者に届ける想いを手に、また新たな旅立ちが訪れる。
次回もお楽しみに!




