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びんかんはだは小さい幸せで満足する  作者: 樹
第四章 異世界
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63話 牢獄の姉妹

63話目投稿します。


一瞬の油断から思いも寄らぬ危機に陥ってしまったフィル。

目覚めた先に待つものは…

微睡む意識の中、開いた目に映る視界は暗く辺りの様子もまだ見えない。

人攫いの襲撃に抵抗したものの、結局は己の油断によって掴まる事となってしまった。

意識の無い間に運び込まれたであろうこの場所、人攫いの言葉を信じるならば、王都にあるどこかである事に間違いはないのだろうが、光の差し込む隙間もなく、周囲にランプのような光源もないこの空間からは、それを確かめる術などない。


「…あの、だいじょうぶ…ですか?」

真綿を通すような感覚で何者かの声が耳に聞こえる。

私が意識を失う原因となったであろう睡眠薬の影響か、頭の中には靄がかかったような感じだ。


幾分慣れて来た視界の隅、私と同じように攫われたであろう、声色から察すると恐らく私より幼い感じの少女が震える声で心配そうにこちらを伺う。

『ぁ…ぅ…』

返事をしようと試みたのだが…声が出ない。

喉元に手を当てると、指触れたのは首輪のようなモノ

「ぁ、無理に喋らないで…その、大丈夫、ですから。」

改めてこの部屋の様子を探ると、声を掛けて来た少女の他、彼女に寄り添うような気配が一つ。

恐る恐るといった具合でこちらに近づく二人の気配。

手を伸ばせば触れられるほどの距離まで近づいた所で漸く見える顔はやはり私より幼いように見えた。

「あなたがここに運ばれた時に言ってました…」

この首輪は喉の自由を奪うと同時に着けたものの魔力を霧散させるもの、という事だ。


『ぃる…』

自分を指さして、名乗る素振りを見せるが、やはり声は出し辛い。

こちらの意図を解ってくれたようで少女は名前を教えてくれた。

「わたしはリル、リル=バーンズ。こっちは妹のメルです。あなたは…えっと…そうだ。」

そういって自分の手をこちらに差し出した。

「文字は書けますか?」

頷き、彼女の少し冷たく感じた掌に、自分の名前をなぞる。

「ふ…ぃる…フィル、さん?」

ちゃんと伝わったようで良かった。頷く私を見て嬉しそうに微笑む。

こんな状況でも笑顔で居られる事に凄いと思ったが、恐らく妹を安心させるためにも気丈に振る舞っているのだろう、というのが見て取れる。


「…わたしたちはここから西の地域から連れてこられました。」

リルの話によれば、妹と二人で住んでいた町から少し離れた森に薬草採取を行っていたところを襲われたそうだ。

ここに連れてこられて10日程になるという。

少ないものの、食事はちゃんと貰えてるようだが…まだまだ成長著しい年齢からすれば満足できるほどではないのだろう。

そもそも牢獄生活で満足できるなら奴隷生活なんて苦労はない。


部屋の隅まで見える程度に慣れた視界、ふと見ると妹のメルの首にも、恐らく私の首に着けられた首輪と同様のもの、が見て取れる。

指でメルと、自分に着けられた首輪を示すと、

「えぇ。メルはわたしたちの町では歳の割りに強い魔力を持ってました。」

姉は妹の頭を撫でながら教えてくれた。


強い魔力を持った者を狙っている?

もし人攫いがある程度、標的の選別をしているとしたら…

確か、私を襲った女は、魔力を使える上物、と私に言い放っていた。

私の場合、ある程度強い意思を持ってないと普段の魔力量なんて人並以下だ。

恐らくは第一の選別対称としては見た目や年齢が大きいところだとは思うが、魔力を有しているなら付加価値が上がる…といったところか。


頭を巡る推測は、ある意味、目の前の姉妹には酷な結果を招く。

この姉妹、少なくとも妹はいわゆる「上物」という扱いが成されるだろう。

姉の方は皆無というわけではないが、人攫いやその界隈が言うところの水準には足りてないのだろう。

となればこの姉妹がいずれは引き離されるのは目に見えている。

(何とかしてあげたい…けど…)

苦虫を噛むような顔で思案している私を見て、リルが半ば諦めたような笑みを向ける。

「分かってるんです…きっとわたしたちは同じところには行けない。」

妹を抱きしめる姉の肩もまた震えている。

「でも、生きていれば…きっと。」

浮かべる笑みは、先ほど感じた諦めのような想いの奥に、強い希望が籠められたのだ。


生きていればきっとまた会える。

そうだ。

私だってそうだ。

自分にもどこか似た想いを感じ、気が付けば私はこの姉妹を抱きしめていた。

(あなた達を不幸になんてさせない…)

妹の前では気丈であれ、としていた姉も、次第に大きくなる不安に我慢していたのだ。

腕の中で震える姉妹の尊さを護れる力が欲しいと強く思うのだった。




抱きしめた腕の中で次第に落ち着いていく姉妹は、少しだけの安心を得たようで二人揃って可愛い笑顔を私に向けてくれた。

(さて、と…)

改めて今の状況を確認しようと立ち上がろうとした瞬間。

『ぅ…』

ズキン!と足首に痛みが走る。

途端、膝をついて足首に手を当てると、そこには包帯が巻かれていて、すでに乾いてはいるものの、その一部は浅黒く染まっているのが解る。

「あなたも足を斬られてました…」

リルはそう言いながら自分の足にも巻かれている包帯をこちらに見せる。同様にメルも。

(逃げられないように…ってことね…)

最低限、下手に出血死などにならない程度に治療はしているが、ちゃんとした治癒術を施さないと走る事は難しいだろう。


立ち上がるのは一旦諦め、周囲を見回す。

鉄の格子と、その先の通路の奥は階段?…だろうか?、幾分慣れたとはいえ、暗闇の先を確認するのは難しい。


首に巻かれた異物は、私の声と()()魔力の散らせる仕掛け。

今のところは魔力に詳しいというか、扱いに長けている者は居なかったようで、それが幸いした。

手を首輪に添える。


ピシッ!という音を発て首輪に小さな傷が入る。

『ふぅ…上手くいった。』

「えっ?」

『まぁ、流石に驚く、よね?』

目の前で起こった事が良く分かっていない様子の姉妹を落ち着かせ、口元に人差し指を当てる。

頷く姉妹に頷きで応えた私は急ぎ、目覚める前に転がっていた辺りに横たわる。


通路の奥、人の気配を感じ、背中越しに様子を伺う事にする。

バタン!という音の後、やはり通路の奥にあったのは階段だったようで、人の降りてくる足音。

やがて

「お嬢ちゃんがた。メシの時間だぜぇ?…なんだ、新入りはまだ寝てんのか。」

荒々しい音を発てて何か、恐らく食料と思われる物がこちら側に投げ入れられた。

はっきりと姿を見るような事は控えるが、背を向けたままの視界に揺れる灯は松明かランプか…

そして声色から察するに、私を襲撃した連中とは違う男だという事は解った。


(今度こそしっかり策を練るんだ…)

策略を得意としていた顔が頭を過る。

(私に対しては遊んでるような策なのが気に入らないけど…叔父様…少し力を貸してください…)

今は届くはずもない願いを頭に浮かべるのだった。

感想、要望、質問なんでも感謝します!


決して長くはない旅の中で学んだ知恵はこの先に訪れる事柄に吉と出るか凶と出るか?

か細く震える姉妹と、己の行く末を切り開く策を練るのだ。


次回もお楽しみに!

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