62話 罠
62話目投稿します。
簡単に逃げられぬ襲撃に、とっておきの奥の手と策を弄するフィル。
無事に王都に辿り着けるか否や?
茂みをかき分けるように調べながら近づく気配は3つ。
余程の運がなければここもいずれ見付かってしまうだろう。
(森を抜けて街道を走ればまだ助かる可能性はあるけど…)
王都の方へ視線を動かしてみるが、森の切れ目はまだ見えない。
(…戦うとしたらどうだろう?)
3つの気配はそれぞれ、話しかけてきた女、見るからに力自慢といった男と、もう一人は目深にかぶったフードで顔は見えなかったが陰湿そうな目は見えた。
対峙するとすれば…女か、フードの男だろうか?
いずれにせよ、このまま走ったとしても追いつかれるのは間違い無い。
(そんなに体力に自信もないし、ね)
できるだけ息を潜めて深呼吸を一度。
整えた呼吸を止め、低い姿勢のまま一人目の標的に掛けた。
『…動かないで!』
狙い通りに背後を取れた標的、女の首筋にナイフの刃を当て、その動きを止めた。
気を緩めれば手が震える。
人の命は…奪ったことはない…
『…私を襲う理由を。』
触れた刃の先から、女の喉の動きを感じる。
「はん!、人攫いが人を襲うのに理由が必要かい?」
皮一枚切れた喉からナイフにわずかに伝う赤い雫は、彼女の胸元に赤い点の模様を描く。
『…このまま、見逃してくれるなら怪我はさせない…』
「フフフ、威勢のいいお嬢さんね?、で〜もっ!」
逆に押し付けられた喉は先程より強く肉を裂く感触を手に伝え、驚く私の拘束はいとも簡単に外されてしまった。
「アンタ、強がっちゃいるけど、足りない物があるねぇ?」
少し間合いを取ってから喉を拭い、手の甲についた血を舐めとり、不気味な笑みを浮かべる。
「人を殺したこと、ないんだろ?」
見透かされた問いに応える余裕もなく、足元の注意だけでも気を緩めないよう引き締める。
二人の男の気配はまだ若干の距離がある事が私が逃げ切る可能性か、迷っていられる時間は無い。
(ここで捕まったらどうなる?)
私にとっての最悪は、元の世界に戻る前に命を落とすような事。
人攫いに捕まる事はまだその域じゃない。
ならば、確かめておく事が一つ。
『…ふぅ、あぁー…もぅ。解ったよ。』
身構えて固くなっていた体から力を抜いて、四肢をプラプラと振る。
『ねぇ、おねぇさん。最後に聞かせて欲しいんだけど?』
諦めたように見えたのだろう、女も僅かに警戒を緩めて応える。
「聞分けがいい子は嫌いじゃないよ?言ってごらんよ。」
『アンタたちに攫われたとして、私は何処に連れて行かれるのかしら?』
私の質問はある程度予想が付いていたようで、割と素直に返ってきた答えは…
「そうさねぇ、とりあえずはお嬢ちゃんの目的地には行けるだろうさ?、その後は私らも知らないけどね。」
親指で示したのは森の向こう、王都の方角だ。
「お嬢ちゃんは私から見ても上物だ。しおらしくしてりゃ良い買い手に当たるだろうさね。」
ケラケラと笑いながら言う台詞。
少々鼻に付く。
とは思うものの、正直このままだと奴隷とか物語の中だけと思ってたような生活が待ってるのは間違い無い。
『…まったく、奴隷制度なんて時代遅れも甚だしい。』
怒気を顕わにする私を怪訝そうに伺いつつ女は口を開く。
「アンタ、諦めたんじゃないのかい?」
『…冗談でしよ?、クソ喰らえ、ってやつよ!』
(ほんと、ぶっつけ本番は火山に飛び込むだけで満足よ…ねぇ?、ベリズ。)
私の中に、確かに感じられる大きな存在。
呼び掛けても返事は戻って来ない。
眠りについたその魂に宿る灯火は、確かに私の中にあるのだ。
(…借りるよ。)
指先に…意識を、魔力を集中させる。
私の魔力だけだったなら、集中したところですぐに霧散してしまうはずのソレは、人の身で受け継ぐには膨大過ぎる魔力。
一瞬であっても身に余るが、逆に私には都合が良い。
『悪いんだけど手加減なんて器用な真似、出来ないからね?』
翳した指先から放たれた魔力の塊は、女の立つ横の木に当たり、風穴を開ける。
大きな音と共に抉れた箇所から傾き倒れる木を避けながら、より一層の喜びを顕わにした女が声を張り上げる。
「はははっ!、いいねぇ!、大人しくしてても上物だってのに、魔法まで使えるとはね!」
引き下がるつもりも無いようだ。
(…これで大人しく引き下がってくれれば助かったんだけどな…)
何度かの攻防を繰り返し、再び訪れる間合いを測る刹那の時。
腰を落として構え、こちらの様子を伺う女。
私も、周囲の警戒と同時に、僅かながらの策を練る。
残る二人の気配も近い。
(あれだけの音が上がれば居場所もバレるよね。)
額に滲む汗を拭い、
『…っ、流石に疲れるね…』
元の世界に戻れたなら、少しだけ魔法の練習しよう、と心に決めた。
必ず帰る。
二人の男が合流したのはほぼ同時だった。
「らしくねぇ。時間とられやがって…」
力自慢そうな男が不満を漏らし、フードの男がなだめる。
「魔法使われちゃしかたねぇさ。」
まぁ合流すれば自然とあちらに余裕ができるわけだが…
まさか絵に描いたように予想通りで助かる。
生業はともかくとして、仲はいいのだろうな?、と
今は余計な考えだ。
「さぁお嬢ちゃん、アンタにゃ悪いが…」
言葉を遮るように、私は右手を彼らにむけて翳した。
『アンタたちには悪いけど、私はここで捕まってあげるわけにはいかないのよ。』
一箇所に固まった3人の周囲に魔力を放ち、爆風を巻き起こす。
「どわっ!?」
女との攻防の最中、密かに仕込んでいた罠。
ただでさえ魔力を維持するのを苦手とする私にとって、その消耗具合は酷く大きかったが、功を奏したようで助かった。
3人の惑う隙を逃さず身を翻し、言葉通り煙に巻いて森の先へと走り抜けた。
チクリと首筋に何かを感じたものの、この場を離れる事、森を抜けて街道を目指す事を優先に…
『ふぅ…』
意外と諦めが良いな、などと思いながら森を抜け出せたところで足を止め、大きく深呼吸して乱れた呼吸を整える。
『ひとまず行商の馬車にでも付き添ったほうが良さそうね。』
ちょうど良いところに歩みを停めている馬車があり、遠目に見ると近くの小川で馬に水を飲ませているようだ。
「おや、お嬢さん。疲れたお顔でどうされましたかな?」
馬車の傍に座っていた商人に歩みより声を掛ける。
『あの、すいません。王都に行かれるよう、でしたら…ごいっしょ、し…』
突然、急激な睡魔に襲われ…倒れた。
唐突に自分に降りかかった危険。
そこから逃げ遂せた事で安堵した私は油断してしまった。
倒れた私に近づく商人の表情を見た瞬間にそれに気づいた。
『…っっ…』
森を抜けたところに停まっていた馬車は都合が良すぎたのだ。
薄れゆく意識の中で下卑た商人の声が微かに聞こえた。
「えぇ。ご一緒しますとも。ゆっくりお眠りください、暴れられても面倒ですのでねぇ?。ひっひひっひっ…」
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辿り着いた王都、されどその行路は思わぬ物となった。
目覚めるフィルに襲い掛かる王都の闇はその華やかさを際立たせる程に深い。
次回もお楽しみに!




