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びんかんはだは小さい幸せで満足する  作者: 樹
第二章 新たな暮らし
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36話 イヴの喰事

36話目投稿します。


まだ幼いその体は、世のあらゆるモノを受け入れ、溶けていく。

無垢な器を満たすのは、影だけではない。きっと

スタットロード家本宅。

その居間には豪華でありながらもどこか懐かしさを感じる家具が置かれており、寛ぎの場としてはこれ以上のものはないかと思うほど気楽だ。

質素なものほど自分には合っていると思ってはいたものの、こういったモノを取りそろえる事に私財を費やすのも安らぎを求める上では大事なのだな、と考えを改めさせられる。

しかしながら今、この安らぎの空間であるはずの一室は少しばかりの張りつめた空気を漂わせている。


『イヴちゃん。もう平気?』

室内にはここ最近で増えた者も含めるこの家の主たる者が集まっている。

叔父、叔母、従姉弟、カイル、シロ、私。

後ろ手には古くからこの屋敷に勤めている執事とメイド長。

そして、私が声をかけた相手。イヴだ。

「うん。もう平気だよ、お姉ちゃん。」

おや?と、イヴの喋り方に違和感を覚える。

昨日の一見以前は、何というか無邪気な感じがしたのだが、今はその言葉に重みのような物を感じる。

「イヴ、キミが眠っている間にある程度のあらましは聞いたよ。」

叔父が話の切っ掛けを促す。

「心配したのよ?…といっても私よりよっぽど大変だった人も居たわけ だ け ど ?」

叔母の視線の先で、オーレンが固まる。

流石に大慌て、大騒ぎするような雰囲気じゃないのが分かっている彼は大人しく固まるしかないのだ。

「ごめんなさい…」

しゅんとなっているイヴも可愛い…などと考えてる場合ではないのだが。

『イヴ、話してほしいの。昨日の夜、イヴは何をしてたの?』

問いかけた答えにイヴが迷う。

どう言えばいいのか、伝えればいいのか困っている、そんな気がした。

「喰ったんじゃよ。」

助け船の声を挙げたのはシロだ。

ハッとシロの方を見てから向き直ったイヴもコクコクと頷く。

「お城にはいっぱいあって、イヴ、苦しくなって、そしたらお姉ちゃんが来てくれて。」

「イヴよ、少し落ち着け。」

シロがイヴを宥めている。何というか不思議な光景に思える。

「わしも今まで確信があったわけではなかったのでな…」

とシロがイヴに起こった事、イヴが何をしていたのかを代弁する。


「知ってる者、何となく感じている者もいるじゃろうが、こやつは普通の人ではない。」

シロの言葉に一番驚いていたのは、カイルだ。

(…あ―…まぁ、それが普通なんだけど…)

私としては、叔母様はともかくとしてオーレンが一番驚くものだと思っていたのだが。

「落ち着かんか、馬鹿者め。」

従者が主を窘めている。

「わしにもこやつの全てが分かるわけではないのじゃが、少なくとも昨夜の事を伝える事はできる。」

不穏な気配を感じ、伺うように覗き見た回廊に、虚ろな目で姿を現したイヴ。

漂うような足取りで彷徨うイヴを追いかけるように集まってくる影は、その足を伝い、白いローブの中に消えて行ったという。

「しばらく様子を伺っていたのじゃが…これがまた後を絶たたずでな。」

次第に苦しそうな様子になったイヴを心配したシロは、少し離れたところから影を散らしていたという。

「アレを散らす事はできても消す事はできん。」

『シロもちゃんとイヴの事に気を使ってくれるんだねぇ?』

と茶化してみるが。

「フン。わしとてこの世界の住人。万が一にも世界の地図?と言ったか…あれが描き変わるような事はそうそう目にしたいものではないのでな。」

その円らな瞳が少々遠くを見るように細められた。

そう、シロは私たちの想像もつかない昔から生きて来て、私たちの知らない事も知っているのだ。

遥か昔に地図から消えてしまったその場所に、シロの大切なモノがあったのかもしれない。いや、多分あったのだ。

(いつか、シロの大切だったものが何なのか、聞ける日が来るかな?来るといいな…)

どう見ても小動物にしか見えないシロは器用に咳払いをして続ける。

「まぁともかくじゃ。影がこやつに一斉に取り込まれる事は危ぶまれたのでな…おかげでわしはあの回廊を駆けまわる事になったわけじゃが…。」

そこに私が駆け付けた、という事らしい。

「シロちゃんが影を細かくしてくれたから、イヴもゆっくり喰べれたんだね。ありがとう、シロ!」

とてとてとシロに駆け寄ってその体を抱きかかえる。

ぎゅぅと絞められるシロは、「やめんか」とは言うものの、嬉しそうだ。


「喰べる…というのもいい得て妙、と言ったところだろうか。」

実際の事の顛末をシロの口から聞けたところで、少しばかり影についての推測を行う事になる。

『…つまり、私たちが普通に食事を摂るのと同じ、と考えればいいのでしょうか?』

私たちが食事をするにしても、際限なく食べれるわけではない。

腹が満腹になれば普通は食事をやめるし、それ以上に食べれば当然苦しい。

食べた物は時間をかけて消化され、空腹になればまた食事をする。その繰り返しだ。

イヴの「喰べる」という言葉を鑑みれば、一度に大量の影を消化するのは体が耐えきれなくなる。というのは明らかだ。

「とは言っても、恐らく昨日程の事は早々起らぬよ。」

一瞬、叔父とシロが何等かの目配せをしたのを私は見逃さなかった。

「まぁ、シロ様もそう言われる事だし、イヴの事は皆も気を付けるとして…」

パンっと手を合わせ、


「では、今後の話をしようか。」

あぁ…あぁ…やはり、と私は項垂れる。

何で嬉しそうなんだ、この叔父は…居間の張りつめた空気はいつの間にか消え失せていた。

感想、要望、質問なんでも感謝します!


そしてまた新しい頁が開かれるのです。


次回もお楽しみに!

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