35話 庭園の昼下り
35話目投稿します。
人それぞれの立場があり、本音もまた一人一人様々。穏やかな昼下がりは新しい冒険の匂いを運ぶ。
未だ眠りから醒めないイヴを叔母たちに預け、私は一人王城からの帰路を歩いていた。
慌ただしい数日間を何とか乗り切り、やっと落ち着けると思った矢先にイヴの…いやこの場合は影のというべきか。
兎にも角にも一人になって考える時間が欲しかった。
イヴが起きればもう少し詳しい話を聞けるとは思う。
叔父も、場合によっては叔母も一緒に聞いてもらった方がいいだろう。
シロからも話は聞きたいが…となるとカイルはどうなるだろう?
昨晩は事が事だけに付き添うわけにもいかなかったが、恐らく意識が届く程度の場所には居たはずだ。
(って考えると昨日の夜の事も見てたかもしれないな。)
こうして考えると、内輪でありながら内緒にしている事の重大さに気付く。
『できれば嘘はつきたくはないしなぁ…しっかりしよう。うん。』
グっと両手を握る。
私は運がいい。
人に恵まれすぎている。
だからこそ、皆の役に立ちたい。
だからこそ、自分にできる事をするんだ。自分にしかできないことを探すんだ。
少しだけ足取りが軽くなる。
城の敷地の境界とされる壁と水堀を抜け、その外周にある庭園は遊歩道のように設置され、ちらほらと散歩を楽しむ人の姿も見える。
(おや?…あれは…)
道すがら見知った顔を見つける。
彼女は一定間隔で建てられているガゼボの椅子に腰かけて辺りの風景を楽しんでいるようだ。
建屋に辿り着いた私の姿を捉えた表情は、驚きの後に笑顔になった。
『こんにちわ、パーシィ。』
「フィル様!。」
両手をぱんと合わせ、昇降機の乙女は嬉しそうに私の名前を呼んだ。
聞けばこの時間は休憩時間だそうで、いつも持参したお弁当を片手にこの庭園でお昼を過ごすらしい。
『あ―…そういえばお昼食べてない。』
おや?とした表情の後に、脇に置いていた籠を差し出す。
「良かったらどうですか?…あまりもので申し訳ないのですが…」
『ありがと、それじゃ貰おうかな?。』
籠の中にはサンドイッチ。
『美味しそう!ほんとに貰っていいの?』
「ええ。是非。」
嬉しそうに差し出す。
(そういえば…)
『ねぇ、パーシィ。お昼ご馳走になった上で言うのも申し訳ないのだけれど、お願い聞いてもらっていい?』
「はい。なんでしょう?」
『もし、パーシィが嫌じゃなかったら、もっと気軽に、気楽に話してもらえないかな?…』
城を出る前に王から言われたのと似たような事を言ってると考えると何というか変な感じはするのだが。
『私ね、今は叔父様の家の居候みたいな暮らしで、恵まれてる…でも私はついこの前まで王都から離れた北の地で、それこそ普通に暮らしてた。』
ぐぐっと伸びをして少し遠くに視線を飛ばす。
(あぁ…そうか、ラグリア様もこんな感じなのか…)
彼に比べれば私が背負っているものなんて痴れてる。
けれど、少しでもその気持ちが分かって嬉しいような、知りたくなかったと悲しいような…。
『正直、この堅苦しさって…うーん、何て言うか息苦しいんだよね。』
「…フィル、さ…うん。分かった。フィル。」
これでいい?と伺うように首を傾げたパーシィは、年相応の少女で、普段の礼儀正しい落ち着いた雰囲気を崩し、満面の笑顔を私に見せてくれた。
「そういえば、今日一番の出来事。」
人差し指を口元に当て、私の顔を覗き込む。
(あぁ…本当は話しちゃいけない事か…)
私は彼女の口元に耳を近づける。
「まだ朝の早い時間だったんだけど…。」
彼女の言葉は、普通に聞けばさしたる事でもなかったのだが…私にとってはとても嫌な予感を生む事となる。
北方と東方の領主が彼女の操作する昇降機を利用したという事だ。
『パーシィ、ありがとうだけど、正直聞きたくなかったわ。』
東といえば…
(竜かぁぁぁあああ…)
ガクリと盛大に項垂れた私の頭にパーシィは心配そうに手を添えて撫でてくれる。
『…少なくとも次に行く場所、というか連れて行かれる場所は分かったわ。』
ふふっと笑いながらパーシィは言う。
「いいなぁ。」
羨ましそうに言うパーシィに『えーっ?』と言い返す。
「好きでこの仕事しててもさ、やっぱり耳にしたり聞いたり、旅するのって憧れる。」
『ただの旅ならいいんだけど、ね?』
多分今度の旅は竜が絡む。
下手したら怪我ですむような話じゃない。
何よりあの叔父が関わっているとなれば尚更で、もしかしたら竜とご対面以上の事も考えておくべきだ。
とは思ったものの、旅や冒険に憧れるパーシィに話せる事でもなく、私の頭にわずかなモヤが架かる。
(…何にせよ叔父様の話を聞かないとな。)
東の地。
近年の火山活動活性化による被害は甚大と聞くその地域に近いうち訪れるのだろうな、と考えると頭が痛くなりそうだ。
(さっき決めたばかりだけど、早くも心折れそうだわ。)
明日から頑張る。
という言葉もあるが、今は逆に明日が怖い。
「あの、フィル…様?。私からも一つお願いしていいですか?」
若干丁寧な口調に戻したパーシィが怖ず怖ずと話す。
「もし、私が旅に出るような事があれば…その、えっと…」
『うん。いいよ。』
言葉の先を聞かなくとも解る。
『いつか一緒に旅をしよう。約束だね。』
差し出した右手の小指に触れた右手の小指はほのかな温もりと、その主の笑顔に、僅かばかりの安らぎを感じた。
「必ず。」
感想、要望、質問なんでも感謝します!
何事もなく穏やかな旅、されど冒険は嵐のように吹き荒れてこそまた楽しい。
次回もお楽しみに!




