34話 王の背中
34話目投稿します。
気晴らしの散歩で出会う姿はごくごく普通さを求めているのでした。
昨夜の夜の静けさと裏腹に日が昇った城内の様子は中々にして慌ただしい。
会談の終わりとともに南、東、西の三領主の帰還と、宴の場での出会いや取決めなど、手続きが必要な事象を片付ける事も多く、少なくとも城に仕える者にとっては休む暇もなさそうだ。
斯くいう私も夜が明ける頃に少しだけ眠っただけで、少々瞼が重い。
イヴが眠りについた後、抱きかかえたまま用意された部屋に戻った私はレオネシアが滞在している部屋へ遣いを出して無事を報告した。
遣いの代わりに戻ったカイルの話では、イヴの無事を聞いたオーレンも糸が切れるように眠ったそうだ。
「お姉さんも大変だな。」
欠伸と伸びをしながらカイルは言う。
初めて会った時からそうだったが、どこか放ってはおけない少女。
この子の事を知ってるわけじゃない、家族でも姉妹でもない、でも、少なくともあの時…
「やっと会えた。」
イヴは確かにそう言った。
そしてあの時も、影に包まれた私を助けてくれたのはイヴだった。
すやすやと眠り続けるイヴの頭を撫でながら私は呟く。
『起きたら、もっといっぱい、いっぱいお話しよう、イヴちゃん。』
声が聞こえたのか、はたまた気のせいか。
静かに眠るその顔は微かに笑う。
陽が頭上から傾きかけた頃、私は昨晩イヴを見つけた回廊を歩いていた。
ずっと付きっ切りだった私を気遣って城のメイドが看病の交代を申し出てくれたのだ。
少し遅めの昼食を頂いた後、気分転換の散歩がてら回廊から見える景色を見てみたいと思ったのもあった。
アーチ状の回廊はその造形も美しく、流石は王城と言ったところか。
柱を繋ぐだけで、外気を遮蔽する壁や硝子窓もなく、少し前の季節、冬場であれば敢えて歩きたいとも思わないだろうが、今の季節の風は心地よく、ちょっとした散歩をするには丁度良い。
眼前を見下ろせば王都の上層部、少し遠目に見れば下層部までも良く見える。
『えーと…研究所は、と…あの辺り、あ、あった。』
ロニーさんは今日も研究と、教授の散らかした書物の片づけに忙しいのだろうか?
書庫を不在としてる事に申し訳なさを感じつつ、また土産を持参しよう。と思った。
『わ、ぷ…』
心地よい風になびく髪の毛は、レオネシアや本宅のメイドたちに綺麗に整えられているとはいえ、
(そろそろ長くなってきたなぁ…)
前髪を摘まみ、フッと息を吹きかける。
「おや、これはこれは。」
背後から聞こえた声の主、そちらを見ると、立っていたのは昨晩私が最後に踊ったダンス相手だった。
『へ、陛下?』
「昨日の凛とした姿とはまた大きく違うようだな?」
『いえ、あの…陛下は、』
私が言い終わる前に、王は手を上げ、言葉を遮る。
「ラグリア。」
『へっ?』
「ラグリアでよい。今はお前しか居ないしな。」
言われてみれば、この場にはラグリアの姿しか見えない。護衛もつけず大丈夫か?と少々不安になる。
「せめて一人の時くらい気楽にさせてもらいたいものだ。」
回廊の淵に腰かけるラグリアの姿は、一国の王には見えず、年相応(と言っても私からすれば目上なわけだが)の姿にしか見えない。
(これが本来の王の姿…ってことかな?…)
『では…せめてラグリア様と呼ばせてください。』
「あぁ、呼びやすいように呼んでくれて構わんさ。」
予想外の歓談。
ラグリアが言うには、普段は堅苦しい事に囲まれ常に辟易しているので、一人の時は言葉遣いからして雑になってしまうのだそうだ。
「だからフィル。お前も気を使わないで居てくれると嬉しいんだが。」
『とはいっても、ラグリア様…その…』
自分はついこの前まで北の片田舎のような町で育った、言ってみればここに居る事自体からして思いも寄らない事で、まして王様と気兼ねなく話す事なんて想像もしない事だ。
「王、と言っても俺が即位してまだ片手で数えれる程しか経ってないんだ。キミ程急な話ではないにしろ、堅苦しいのは俺としても息が詰まるのさ。」
『はぁ…そういうものですか…』
それに、とラグリアは付け足す。
「俺と会話する機会を望んだのはキミだろう?。ならば逆に気を使わない事が俺のためでもある。」
『解りました。ではせめて「年上の男性」という事で…』
「あぁ、助かる。」
これまた予想外の展開である。
まぁ…その気持ちは分からなくもない。私だって堅苦しいのはできれば遠慮したい。
『会談は終わったんですよね?。どんな事を?』
挙げられた話題に、ラグリアは少々含んだ笑みを浮かべる。
「…恐らく今後もお前としては楽しい事になると思うぞ?」
あぁ…叔父が何かやったんだな?と即座に思いつく辺りはもう小慣れたものだ。
「まぁ、くれぐれも気を付けてくれよ?。今やお前は俺にとって気兼ねなく話せる者の一人だ。」
『その言い方、あまりいい予感がしないんですが…』
ははっとラグリアは笑う。
「あの男があそこまで自信あり気に言うんだから勝算もあるのだろうさ。」
『えっ…何か戦わさせられるってことですか?…』
「さて、どうだろうな?」
ニヤりとした顔、その笑い方を見て
何というかラグリアも叔父同様に悪いヤツだ。
と私は頭の中に留めておく事にしたのだった。
遠くから微かに叫び声が聞こえる。
「ふぅ」とため息をついたラグリアが呟く。
「もう少し、お前と話して居たかったのだが、そうもいかぬようだな。」
回廊の淵から重い腰を上げ、こちらを振り返ったそこには一国の王の空気を纏った男が立っていた。
「ではフィル=スタット、くれぐれも息災で戻るのだぞ?。またの機会、楽しみにしている。」
私に背を向け、回廊を後にする王の背中を私は見えなくなるまで見つめていた。
『王、ラグリア=エデルティス…か。』
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叔父に聞かされる話は、また新たな旅への誘いか?
次回もお楽しみに!




