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吃音症がVtuberで何が悪い!!!  作者: 木山碧人
第三章 大日本帝国

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19/72

第17話 みやびフェス広島①


 17時。広島市内。広島市民球場跡地。


 ――参番ステージ。


 天候は良好。夕陽が差し込み、辺りを照らしている。


 球場の中央には巨大な四角いモニター。全方位から映像が見られる。


 それを囲むように、観客が大勢集まり、心同じくしてその時を待っていた。


「……時間だ。来るぞ、来るぞ」


 ざわざわと声が上げる中、一人の客が興奮気味に言った。


 しかし、その時は訪れない。1分経ち、5分経ち、15分経つ。


「……このモニター壊れてるのか?」


「壱番ステージのチケット買うべきだったかね」


「おいおいおい。こっちは客やぞ。高い金払わせて、これか?」


 痺れを切らした観客は、不満をあらわにする。


 あと、1分。いや、30秒もすれば、暴動が起きそうな空気。


『臣民共よ。まさか、この程度で痺れを切らしたのではあるまいな?』


 演出か、機材トラブルか。どちらかは分からない。


 現れたのは、白無垢の和装。花嫁衣裳を着る鬼龍院みやび。

 

『今宵の余の晴れ姿。しかと、その眼に、耳に、脳に焼き付けるがいい!!!』


 その一言が。その姿が。その生き様が。


「殿下は今日もお美しい」

「殿下は今日もお美しい」

「殿下は今日もお美しい」

「殿下は今日もお美しい」

「殿下は今日もお美しい」


 会場のボルテージを最高潮にまで引き上げる。


 かくして、始まった。後に伝説と語り継がれるライブが。


 ◇◇◇


 ライブ予定時間は17時から20時。


 奇数曲は、どのステージでもみやびが担当する。


 偶数曲は、ステージ事の出演者が担当する。それがみやびフェス。


 どのライバーも必ず輝け、どのステージの客も楽しめる極めて平等なステージ。


「……」


 一曲目が終わる。みやびの完璧な導入。


 二流は考える。しょせん場繋ぎ。みやびの腰巾着だって。


 三流は考えもしない。喜んでステージに上がり、馬鹿みたいに歌うだけ。


(あーしは一流になる。社長が鬼龍院みやびでいるうちに超えてやる)


 桃瀬桃子は虎視眈々と、待った。


 圧倒的強者の喉元に食らいつく、その時を。


 そうして、ステージが幕を開く。映像が映る。観客が見える。


 そこは――。


「参番ステージのみんな。やっほー。盛り上がってるー?」


 衣装はピンクのゴスロリ服。髪はピンクボブ。体は小柄。


 動きに連動する3Dモデル。自己投影型の完璧な仕上がり。


「いやぁ、これは儲けもんや」


「もももっ!? なんでここに」


「弐番ステージのはず、だったよな」


 驚きを見せる観客を横目に、ポップな音楽がかかりだす。


(あーしを参番ステージに立たせた以上、その見返りはきっちりもらうからね)


 ◇◇◇


 6日前。広島市内。ホテル。地下二階。個室。


 バスローブに身を包み、桃子はベッドに腰かけ、携帯を耳に当てている。


『……も、桃子、さん。こ、コラボの件で、話があります』


 たどたどしい独特な口調で、話を切り出される。


 通話の相手は思った通り、伊勢神宮ちゃんの中身だった。


「待ってたよぉ。それで、早速だけど、答えを聞かせてくれるかな?」


『こ、コラボはできません』


「ふーん。こっちに損はないけど、勿体ないなぁ。一応理由を聞かせてくれる?」


 意外、というより、少し見直した。


 たぶん、この子は自分の力で成り上がるつもりなんだ。


『い、一緒に、壱番ステージの切符。か、勝ち取りませんか』


「……へ?」


 違う。この子はコラボなんかよりもっと先を見ている。


 そう直感してしまった。まだ何も聞かされていないっていうのに。


 ◇◇◇


 四十畳ほどの四角いスペースに、複数のモニターと、桃子の姿。


 3Dモデルを動かすための黒いモーションキャプチャースーツを装着していた。


「ありがとー。これから、まだまだ参番ステージ盛り上がるからね!」


 二曲目。桃子のパートが終わる。


 どのステージも無料で生配信されている。


 視線は、配信画面。複数あるモニターの一つに向く。


 壱番ステージ。同時接続数321万人。


 弐番ステージ。同時接続数154万人。


 参番ステージ。同時接続数93万人。


 目標の数字には、全然、届いてない。


(あーしが歌っても、この数字……。もっとやれるはずなのに)


 ステージ内の観客の人数は限られている。


 だけど、同接は青天井。そこにあの子は目をつけた。


『に、弐番ステージの同接を、さ、参番ステージが上回れば、参加ライバー全員を、い、壱番ステージにあげてもらえるよう、ナナコさんと、約束、しました。だ、だから、桃子さん。ど、どうか、参番ステージで、歌ってもらえませんか?』


 部屋の隅にいるライバー達の目は、血走っている。


 コラボ、ではなく、個人同士の力で輝き、下剋上を起こす。


 それが、あの子の提案した作戦だった。だけど、現実はかなり厳しい。


「お、お疲れ、さまでした。桃子、さんのおかげで――」


「お世辞はいらないよ。それよりさ、想定内なの、この数字は」


 声をかけてきたのは、伊勢神宮ちゃんの中身。


 目を隠すような長い前髪に、白黒の袴を着ている。


 実名は知らない。クラスにいたら目立たそうな女の子。


「……き、厳しいです」


 ぶん殴ってやりたかった。


 ここにいるライバーは自分以下の人ばかり。


 出鼻でこけてしまったのは、正直、めっちゃくちゃ痛いはず。


「…………まだ策はあるんだよね?」


 でも、殴ってはあげない。


 士気が下がれば、正真正銘終わり。


 勝ちの芽を自分で摘むわけにはいかなかった。


「あ、あります!!」


 返ってきたのは、この子にしては、景気のいい言葉。


 だったら、信じてあげるしかなかった。そのために、ここに来たんだから。

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