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吃音症がVtuberで何が悪い!!!  作者: 木山碧人
第三章 大日本帝国

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第16話 暗躍

 広島市内、お好み焼き店。


 カウンターとテーブルがあり、席は満席。


 どこも大きな鉄板があり、じゅうじゅうと音を立てている。


「いいか、坊主。広島風お好み焼きなんて間違っても口にするなよ。お好み焼きの発祥は、大阪じゃなく広島なんだ。大阪が元祖お好み焼きで、広島が広島風お好み焼きと言われる風潮を死ぬほど嫌っている。もし、店員に広島風お好み焼きくださいなんて言った日には、ぶちまわされるからな」


 その隅のテーブル。坊主頭に、青い制服を着た糸目の男。


 鍛えられた肉体に、腰には刀。


 滅葬志士副棟梁に位置する隊員。千葉一心は力強く説明する。


「ぶちまわされる……?」


 向かいに座るのは困り気味に答える、青い制服を着たジェノ。


「ぼこぼこにされる、という意味だ。いいか、絶対に言うんじゃあないぞ」


 一心は、そう強調すると、


「いらっしゃい。ご注文はなんにしよる?」


 茶髪で後ろ髪が外にはねた、活発そうな女性店員が現れた。


 青の和服を着ていて、腰には、般若のロゴが入った黒の前掛けをつけている。


「広島風お好み焼きをふた、つ……」

 

 口に出したのは一心。


 その顔が青ざめていくのが、見える。


 流れのせいか言ってはいけないことを口走っていた。


「いい度胸しよんねぇ。表、出てくれる?」


「いや、ちが……。今のは言葉の綾だ。待ってくれ!!」


 その後、一心の断末魔が、町中に響き渡った。


 ◇◇◇


「いいか、反面教師というやつだ。姐さんには逆らうな」


 顔が腫れあがった一心が、説得力しかないことを告げる。


「姐さんって、この人は一体……」


 視線を向けた先。副棟梁を軽くぶちまわした人。


 先ほどの店員がテーブルに居座り、お好み焼きを頬張っている。


「うーん、やっぱ、うちのお好み焼きが世界一じゃ」


『またキャラがかぶっとる。だから広島には来たくなかったんじゃ』


 姐さんと呼ばれた人と、懐にいるツバキの声が響く。


 今はツバキの事情なんてどうだっていい。この人はいったい何者なんだ。


「……今、誰か広島の文句でも言うた?」


 広島を冒涜されたと思ったのか、彼女は眉根をひそめる中、


「滅葬志士広島支部棟梁。毛利広島。郷土愛が強すぎるお人だ」

 

 一心はその正体を淡々と告げる。


 広島というあまりにもストレート過ぎる名前。


 それだけでパンチがあったけど、それより気になったのは肩書き。


 ――滅葬志士棟梁。


 通りで強いわけだ。この人だけは怒らせないようにしよう。


「気のせいか。それより、見やん顔やね。この子は?」


「こいつはジェノ。新人です。フェスの件で派遣されました」


「いらんお世話じゃ。地元はうちらが守る。新人に出る幕はない思うよ」


 ただ、いきなり風当たりは強い。


 こっちは新人な上に、外国人。よそ者だ。


 郷土愛が強い彼女なら、歓迎したくない気持ちは分かる。


「なんでもいいので、お手伝いさせてもらえませんか?」


 でも、引けない。引くわけにはいかない。


 このまま手ぶらでアメリカに帰っていいわけがない。


「……理由は?」


「仲間が鬼にさらわれたんです」


 率直に話す。余計なことは言わない。


「はぁ……。じゃったら、皿洗い、してもらえる?」


 諦めたようなため息と共に、広島は言う。


 ファーストコンタクトはどうにかなった。問題はここからだ。


 ◇◇◇


 広島市内、線路沿いにある駐車場。


 電車が横切り、フェンス越しに光が走る。


「……いや、こっちこんでっ!!!」


 這いずるは若い女。


 長い黒髪のハーフアップ。

 

 グレーのドレスを着た、キャバクラ嬢。

 

 その向かい。フェンスを背に立っているのは。


「――」


 深くフードをかぶり、黒い角が突き出た背の高い鬼。


 一歩、また一歩と、腰を抜かした獲物に少しずつ近づいていく。


「うぅ……こんで言いよるのにぃ!!」


 深夜の人気のない路地に女の声が響く。


 それがたまらなく情欲と食欲をかき立てられる。


 あとは一手で事足りる。か弱い人間を組することなど容易い。


「危害は加えません。どうか、どうか血を恵んでくれはしませんか!」

 

 膝をつき、頭を地面にこすりつけ、嘆願する。


 それは帝国における最も相手を敬い、服従を示す行為。


 自らの位置を限りなく下げ、相手を立てる礼式。――土下座。


「………………は?」


 目をぱちくりとしたキャバ嬢は、つけまつ毛が落ちている。


 あともう一押し。へりくだれ。へりくだれ。油断するな。へりくだれ。


「器材はこちらを。200CCほどで構いません! お手間はおかけしませんので!」


 懐から注射器を取り出し、顔を上げる。


 見えたのは、赤い瞳に、金色の髪をした鬼。


 高貴な立ち振る舞いが売りの鬼龍院みやびの中身。

 

 人間に媚びへつらい、もはやその面影もないナナコだった。


「そ、それなら、ええけど……」


 キャバ嬢は注射器を受け取り、困惑気味に承諾する。


(やった、営業大成功!!!)


 この瞬間が一番生を実感する。


 この反応を見るのがたまらなく好きだった。

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