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吃音症がVtuberで何が悪い!!!  作者: 木山碧人
第三章 大日本帝国
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第15話 ソロかコラボか


 翌朝。広島県知事公舎。一階。会議室。


 青いジャージ姿のアザミがパイプ椅子に腰かける中。


 向かいに座るは、黒服に黒髪オールバックのサングラスをかけた男。


「あんたのサポートを任された、キクだ。ナナコの姉貴に拾われる前は、弱小レーベルのサウンドエンジニアをやっていた。作詞はできないが、作曲の方は少しばかり経験がある。フェスに必要なら頼ってくれて構わない」


 ナナコの付き人。名前はキクというらしい。


 さばさばとした高圧的な喋り。他人行儀で素っ気なさを感じた。


「……あ、あの、わたし」


「男性恐怖症のことは知っている。極度な接触はしない」


 言おうとしたことを、先に言われてしまう。


(あれ。話したことあったかな?)


 些細な違和感を覚えつつも、知っていたなら話は早い。


「……じゃ、じゃあ、考えていること、話しても、いいですか?」


 昨日の件も含めて、相談してみることにした。


 ◇◇◇


「桃瀬桃子とコラボ……」


 キクが難色を示したのは、コラボの件。


 ライブ当日に頼みたいことへの反応は良好だった。


「も、問題、ありますか?」


「姉貴の意向は、参番ステージでのライブ。コラボを選ぶなら、俺は手を引く」


 言いたいことはよく分かる。


 あくまで、彼は上司の指示下で動いている。


 個人的な関わりのない人間より、上司の肩を持つのは当然。


「……そ、そこを、な、なんとか、なりませんか?」


 ただ、こちらも抱えきれないほどの責任を背負っている。


 普段なら絶対諦めるけど、勇気を出して、少しだけ食い下がってみた。


「……」


 返ってきたのは沈黙。


 体は小刻みにぷるぷると震えている。


「あ、あの……」


 今にも殴りかかってきそうだった。


 逃げたい気持ちを抑え、平静を装って声をかけた。


「南無三っ!!」


 すると突然、キクは拳を振るう。自分自身に対して。


「……っ!?? だ、だいじょうぶ、ですか?」


 物音が鳴り、自分を殴ったせいでパイプ椅子に埋もれていた。


 男の人に手を差し伸べることはできない。ただ言葉を投げかけることはできた。


「……も、問題ない。ただの発作だ。ともかく、意見を変えるつもりはない」


 変わった人。というより、かわいそうな人だった。


 発作で自分を殴ってしまうなんて、日常が地獄だったはず。


 ただ、どちらにせよ、個人かコラボか、選ばないといけなくなった。


 ◇◇◇


 広島県知事公舎。二階、執務室。


 高そうな椅子に腰かけるのは、臥龍岡ナガオカ県知事。


 公務じゃないからか、昨日会った時とは違い、燕尾服を着ていた。


「ほんで、用とはなんじゃいな?」


「ど、どこまで、人に頼っていいと、思いますか?」


 自分一人で答えを出してもよかった。


 ただ、時間はまだ余裕があるし、失敗はできない。


 自分勝手に決めてしまう前に、第三者の意見を聞いておきたかった。

 

「……えらい、抽象的じゃのぅ。まぁよい。ワイなりの結論でいいか?」


「お、お願いします」


「身分不相応な相手を頼るのはやめておけ。相手の頼みを断れんようになる」


「で、でも、早く結果を出さないと……」


「恩の押し売り言うてな。半端に成功した人間ほど、立場の弱い人間に一方的な恩を売り、見返りに支配しようと考えよる。そこに対等な意見交換などありゃせん。同じ目線で話せんなら、成功しても、心は一生奴隷のままよ」


「……だ、だとしても」


 成功しないと、意味がない。

 

 やれることは全部やった方がいい気がする。


「枕営業、という言葉を知っておるか?」


「……あ」


 枕営業――体を売って、仕事をもらうこと。


 それで仕事をもらっても、長続きしないのはよく聞く話。


 恐らく、そういう類の誘いに引っかかったと思われているんだろう。


「己の価値は下げるな。本当に価値のある宝石は装飾をせずとも、輝く」

  

 ここに来て、良かった。


 そう思えるほどの為になる助言。


 後は、自分の考えに。意思に従うしかない。


 ◇◇◇


 広島県知事公舎近くの道路。


 夜は更け、住居と街灯の明かりだけが頼り。


 電信柱に背もたれしながら、袴姿のアザミは携帯端末に耳を当てる。


『もしもーし。こちら、桃瀬桃子の携帯だよ』


「……」


『あれ? 聞こえないなぁ。いたずら電話なら切っちゃうよ?』


 この反応。たぶん、誰がかけてきたか分かってる。


 分かった上で、わざと試してる。


 切り出さないと。声を出さないと。ちゃんと思いを伝えないと。

 

「……も、桃子、さん。こ、コラボの件で、話があります」

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