Step14. 新たな力
「サワタリさん、サワタリさん、ちょっといいでしょうか?」
ポールさんが、手招きをしている。
「はい、何でしょう?七味唐辛子ならまだですよ」
先に釘を刺しておく。
「!? ……それはそれで、大事な案件ですが、別件です」
返事に間があったので、半分くらいは図星のようだ。
「ムウさん、後ろに隠れてないで、出てきてください」
黒のゴシックロリータの女の子が、恥ずかしそうにゆっくりと出てきた。
「今日から一緒に働くムウさんです。この子は見ての通り、フェアリー族です」
いやいや、思ってたのと違うし!
どこでフェアリーって判別できるんだろうか。
まず、身体のサイズが普通だ。小柄だが150cmはある。
それに蝶の様な、透明な羽根が見当たらないっ!
「魔法システムの開発は未経験という事だったので、サワタリさんには、ムウさんの指導者になっていただきたいのです」
「……よろしく」
彼女は、視線を外してあいさつをしてくれた。
「サワタリです。こちらこそ、よろしくお願いします」
返事をした後に、ポールさんを近くに寄せて、ヒソヒソ話をする。
「ポールさん、無理ですよ。私だって、まだ入って一週間しか経ってないんですよ」
「納期が近くて、忙しくて、他に頼める人がいないんです」
「私だって、忙しいですよ!」
「もちろん分かっています。しかし、魔法システムの開発したいって子を逃す訳にはいかないんです。それに、サワタリさんが適任だと考えています。というか、教える事が出来るメンバーが他に居ないんです……」
「あっ……(察し)」
これは納得してしまった。
「放っておく事も出来ないので、何とか……お願いします」
それは、その通りだ。
仕事を与えずに放っておくと、辞めてしまう可能性がグッと高まる。
自分がここにいて、役に立つ。という実感が得られなければ、精神的につらいのだ。自分と関わる人は、絶対にそんな状況にしたくない。
「……この話、お引き受けします。その代わり、好きにやらせて貰いますよ」
「分かりました。お引き受け、ありがとうございます。圧倒的感謝っ……!」
ポールさんとの話が終わり、元の位置に戻る。
「それでは、後はサワタリさんの指示に従ってください。サワタリさん、よろしくお願いしますね」
「承知いたしました」
ポールさんは、そそくさと去って行った。
ふぅ、呼吸を整えて目を閉じる。
「見えたぞ! 水の一雫!」
明鏡止水の心……仕事モード全開っ!
説明しよう!
仕事モードとは、社会人としての意識を高め、異性の認識を取り払う非リア充の奥義である。職場でしか発揮できないが、効果は絶大である。
「ムウさんは、どうしてこの仕事に?」
彼女のモチベーションを確かめておく。
「……服装と髪型が自由だから」
「おっふ」
システム開発に興味ある子ではなかった。
とは言え、この理由で来る人は一定数いる。
意外と思われるかもしれないが、自由な服装はというのは、アドバンテージなのだ。
「……あなただって、変な恰好」
な……なんだってーーー!!
確かにみんなと格好は違う。というか、みんな種族も違っていて、私服なので、そもそも統一感はない。
襟付きの白いシャツに、紺色のパンツは、変な恰好らしい。
誰も教えてくれなかったが、服装が自由な職場で、言う必要もなかったのだろう。
教えてくれたのは感謝だ。彼女の目からしたら自分は、同類に映るのだろう。
「ムウさん、早速ですが、仕事の学習を始めたいと思います。魔導演算装置を立ち上げて、この本の通りにやってみてください。そして、最初のプログラムを丸写ししてください。もし、取り組んでみて、10分かけても解決しない問題に遭遇したら、私に相談してください」
分からない部分を聞けというは、判断基準がはっきりしないからダメだ。
真面目な子だと、延々とがんばってしまう。自分で答えを見つけるのは大切なことだが、効率が悪い。
自分の経験では、10分迷ったら相談するというのが、良い塩梅だ。
「……わかった。やってみる」
そろそろ1時間経つな……
様子見に行ってみるか。
……画面のソースコードと本をめっちゃ見比べてた。
そっとソースコードを後ろから見てみる。
おっ、できてるやん。
using System:
namespace goblin
{
class Magic
{
static void Main(string[] args)
{
Console.WriteLine("Welcome to the elf language."):
}
}
}
「ムウさん、お疲れ様です。調子いかがでしょう?」
「まだっ! 見ないで!!」
両手で、画面を隠された。
「いや、もう、後ろから見てしまいました。良く出来てましたよ」
「!」
「ただ間違っている部分も見つけました。セミコロン[;]を付けなきゃいけない所が、コロン[:]になってました。見た目も似てるし、間違い易いポイントですよね。次の手順になりますが、ソースをコンパイルするとチェック出来ます。少しやってみますね」
>elfc test.e
test.e(1,12): error: Unexpected symbol ':'
test.e(7,55): error: Unexpected symbol ':'
「ほら、こんな感じで、エラーの場所と内容を教えてくれるから、これをみて修正するといいですよ」
「……ごめんなさい、ごめんなさい、もう間違えないから、ごめん、なさい」
「そんなに謝らないでください、誰だって間違いますからね」
「…………おこ、らない?」
「怒りません。そんな必要ないでしょー」
「……いや、な、顔、しな、い?」
「しないしない」
「…………しっぱ、い、した、の、に?」
「こんなの失敗じゃないですよ。……いや、確かに失敗と言えなくもないかな。でも、やり直したらいいんです」
「…………ほ、んと、うに……?」
「はいっ!」
「うわぁぁぁぁぁぁぁん……」
「ちょっと、ちょっと、落ち着いてください」
彼女が泣き崩れてしまった。こういう経験が無いのでどうしたらいいか分からない。
体が麻痺したように動かない。思考が停止する。
……つまり、棒立ち。
「ちょっと、何やってんのよ!」
ジェシカが来た!!! 誰かが呼んでくれたに違いない。
「ムウっ!大丈夫?落ち着いてね。アイツが居ない所に移動しましょ」
「……うぐっ、うぐっ」
ジェシカは汚いものを見る目で、自分を睨めつけて、彼女を連れて去っていった。
――しばらくして
「さーわーたりっ! 私はアンタを信じてたよ。さっきはごめんねっ♪」
絶対信じてなかったやつ。
「いえ、私はいいですよ。それよりも、ムウさんはどうですか?」
今はジェシカはどうでもいい。
「詳しくは会議室にいるから、直接話してみて。ムウのことありがとね」
何のことか分からないが、話せる状態になったのはいいことだろう。
「分かった。話してみる。ジェシカさっきはありがとう。立ち尽くして何もできなかった」
「だいじょうぶよん。貸しにしとくね。ニシシ。早く行ってあげて」
口に手を当てて笑いながら言っていた。
「わかった」
――コンコン
会議室のドアをノックして中に入る。
「失礼します」
彼女の横の椅子に腰かける。対面に座ると、圧迫感や緊張が伝わり易いらしい。
「落ち着いた? 大丈夫?」
「……平気、取り乱して、ごめん」
「もし良ければ、どういうことだったのか、教えてもらうことはできる?」
「……言う、嬉しかったの」
「……いつも、仕事、すぐ首になった。ケーキ屋さん、塩入れる。レストラン、注文、間違える。花屋さん、花を切る。配達屋さん、送り先、間違える」
「……どこも間違い、許されなかった。怒られた。嫌な顔、された」
「……サワタリ、違った。怒らなかった。嫌な顔しなかった。……優しかった」
あー、なるほど。失敗が許されない仕事だとそうなるわな。
プレッシャーが掛かると、萎縮してさらに間違いそう。
ちゃんとやって当たり前のお仕事をされている方には、尊敬しかない。
ここはムウさんに、伝えよう。
笑顔で、自信を持って、ゆっくりと。
「プログラムって、何度でも簡単に修正できるんです。他の仕事とは違っていて、本当にいい部分だと思います」
「ムウさんが、これまで失敗としてきたことは、ここでは失敗になりません」
「むしろ失敗を繰り返す方が、成功の近道なので、沢山失敗することの方が大切です」
「どうですか?私と一緒にやってみませんか?……私はムウさんと仕事したいです」
「……やりだいっ! わだし、こごで、ザワタリ、はだらぎだいっ!」
嗚咽をもらしながら、彼女は精一杯、応えてくれた。
「こちらこそ、よろしくお願いします!」
自分も力一杯の返事をする。
この後、案の定何もできなかった自分は、彼女が落ち着くまで見守った。
彼女が平静さを取り戻した後、今日は帰宅するか聞いてみたが、仕事をしたいと強く言われたので、続きをすることにした。
初めてのプログラムが動いた時は、2人で感動を共有した。
その後、もちろんジェシカを呼びつけた。
ジェシカに感動は伝わらなかったが、温かく見守ってくれた。
ジェシカは喜んでいる彼女を見て、プログラマってこんなのばっかりね。といって仕事に戻っていった。




