カルルク王国王都探索2・奴隷オークション
「三十五」
「四十!」
「五十!」
「五十でました! 他、ありませんか? はい、それでは五十で落札!」
「おぉ!」
そんな軽いノリで、人が競られ、買われていく。
銀貨五十枚で若い女の奴隷を競り落とした男は、もう競るつもりは無いのか、席を立って商品を受け取りに裏へと消えた。
オークションの司会進行役は笑顔を崩さず、面白おかしく進行していくが、異常にテキパキと進めていく。
それだけ、商品である奴隷が多いのだろう。
「それでは、いよいよ本日の目玉! 元フルーク王国の大貴族、ハーフェン伯爵家の生き残り! カテリーナ・ハーフェン嬢!」
進行役が名を呼ぶと、奥から三人の美女が現れ、前へと出てくる。左右にはバニーガールに似た露出の多い衣装の女性、真ん中には白いドレスの美少女だ。艶のある見事な金髪を揺らし、少女は顔を上げる。
その目は力強く、今から競りによって自分の未来が決まることに対して、全く気負いを感じさせないものだった。
凛とした態度はオークションの参加者の興味を誘ったのか、会場は静かになり、誰もが少女一人に釘付けになる。
「先の戦いでブラウ帝国に侵略され地図から消えたフルーク王国。小国ながらも歴史あるフルーク王国の上級貴族の子女! 年は結婚適齢期となったばかりの十五歳! 身も心も上級貴族として磨き上げられた極上の逸品です! 勿論処女! 扱いは最高の奴隷として、契約者は一名のみ、制約あり、ただし追死は無しと致します!」
と、進行役も解説に今までにない熱が篭る。ちなみに追死とは契約者が死んだ際、共に契約奴隷も死ぬという特別な奴隷印だ。これまでの奴隷の中にも何人かその追死有りの奴隷がおり、大概は兵士代わりやメイド代わりの奴隷だった。
詰まるところ、裏切られないようにその契約が必要なのだろう。カテリーナの場合は価値が高いから、死んでしまっては困るといった感じだろうか。
仏頂面で眺めていると、いよいよカテリーナのオークションが始まった。
「それでは、今回は最初から金貨十枚にて始めさせていただきます!」
「二十!」
「三十!」
「五十!」
「百!」
とんでもない勢いで値段が釣りあがっていき、会場のボルテージも比例して上昇していく。
「……タイキ様もオークションに参加されますか?」
隣に座るユーリに尋ねられ、溜め息を返す。
アツール王国やブラウ帝国から戦の際の謝礼と戦後賠償という名の慰謝料を貰い、更に友好の証として金銀財宝を貰っているので金ならある。
だが、此処で並ぶ奴隷の全てを購入したとしても今後並ぶであろう奴隷の数は変わらないし、解決にはならない。
奴隷問題を俺が解決しようなんて傲慢なことは言わないが、ここで一人や二人買って助けるのも何ともモヤモヤする。
自身のことながら全く定まらない感情と戦っていると、尻が椅子からはみ出すほど肥えた中年の男が片手を挙げた。
「千」
その一言に、会場が静まる。
それまで五百台で争っていたところに、いきなりの倍プッシュである。会場はざわざわするだけで、誰も戦いを挑まない。
「は、はい! それでは、金貨千枚! よろしいですね? では、金貨千枚で落札!」
進行役も思い出したようにそう言い、落札を宣言した。肥えた男は肩を揺らしてぐふぐふと笑い、周りの参加者の顔を面白そうに眺める。
露骨な態度に眉をひそめる人も多い中、その男のことを知っている者もいるらしく、慌てて男から視線を外したりしていた。
権力者、貴族か何かか。
そう当たりをつけて眺めてみるが、どちらかというと悪徳商人といった方が似合う見た目だ。金色と赤の派手な衣装も合わさり、センスの悪い成金にしか見えない。
「……カルルク王国でも金貨千枚なら大金だよね?」
「もの凄い大金ですよ。王都にお屋敷が建っちゃいます。あ、でも、カルルク王国の王都だと二階建ての家くらいでしょうか……通常の奴隷ならば銀貨、せいぜい金貨一枚で取引されます。やはり、上級貴族の令嬢であり、あの美貌という点が大きいのでしょうか」
自分が奴隷になりかけただけに、エイラは詳しかった。金貨数百枚持ってきたけど、途端に持っているのが怖くなってきたぞ。
進行役もオークションを締めるべく口上を述べているし、立ち去るとしよう。
外に出て、陽の光を受けながら背伸びをする。軽く三時間は椅子に座っていただろうか。
さぁどうするかと視線を前に向けたその時、視界にとある光景が映る。
革の鎧とブーツ、腰には短剣を差した怪しい風体の男が、見るからに商人といった格好のターバンを巻いた男に掴みかかっていたのだ。
強盗。そんな二文字が頭に浮かぶ。
「……とりあえず、助けてみようか。A1?」
それだけ口にして振り向くと、A1は大股歩きで強盗現場へ向かった。
「なんだぁ? 邪魔しようってんなら……ご、ゴーレム!?」
「えぇ!?」
驚愕する二人。
「まぁ、喧嘩なんてやめましょう……それで、争う理由は何ですか?」
気を逆立てないように優しく声をかけたのだが、二人は顔色を失ってこちらから視線を逸らしたのだった。
何故だ。




