いつの間にか革命
氷の彫像と化した皇帝とゴーレムに、誰しもが呆然と佇んだ。
「へ、陛下……」
誰かがポツリと呟き、それに反応するようにヴィオレットが口を開く。
「さぁ、これで帝国の美麗なる女将軍というひと時の夢も終わりましたねぇ。物悲しくもあり、どこか清々しくもある……複雑な感情です」
芝居掛かった様子で両手を広げて踵を返し、氷の彫像に背を向ける。
「しかし仕方のないことですよねぇ。もはや帝国に勝ち目は無い。皇帝がすげ替えられても、帝国が天空の国に占領されても、私の好きな戦場は無くなることでしょうから」
ヴィオレットは朗々と語り続け、謁見の間を歩いていく。
そして、広間の中心の辺りでひらりと飛び上がった。
「それでは、御機嫌よう。私はまた戦乱の中にある国を探して旅にでましょう」
「……っ!? ま、まて!」
「ヴィオレット、貴様……!」
遅れて静止の声が響いたが、もう遅い。わざとタイキ殿のゴーレムのそばを通るように移動したヴィオレットは、皆がまごついている間に外に飛び出して行った。
【タイキ】
スクリーンに映る光景に思わず言葉を失っていると、あっという間にヴィオレットが姿を消してしまった。
残されたのは凍り付いた氷柱の中で時を止めた皇帝とロボットの姿だ。
無意識に、氷の中にいるロボットを操作してみる。
すると、あっさりとロボットは氷を割って中から出てきた。その拍子に皇帝の身体も氷から出て床に倒れ込む。
慌てた様子で兵士たちが殺到するが、やはり皇帝は亡くなってしまったらしい。
予想外の流れにエイラも中々喋り出せずにいたが、口を何度か開閉し、やがてこちらに話しかけてきた。
「……どうするおつもりですか?」
「どうって……とりあえず、アイファ達を助けようか?」
そう答えつつスクリーンを見上げ、ロボット達を動かす。だが、兵士たちも混乱の極みにあるのか、大した抵抗も無く制圧されていた。
魔術師の一人が半狂乱になって魔術を放ってはいたが、それもロボット一体に叩き潰されて終わった。
「これからどうなるかな」
独り言のつもりで小さく呟いたのだが、エイラには聞こえていたらしく律儀に答えてくれた。
「前皇帝直属の部下などは降格や左遷……力を持ち過ぎている者は処刑や奴隷印もありえます。帝都を掌握し、帝位の継承をするのが早ければ早いほど、帝国内は混乱せずに済みます。逆に、様々な邪魔が入ってそれが遅くなれば……」
「帝国は内乱が起きたり分裂したりして大混乱、ということか」
エイラの台詞を先取りしてそう呟き、頭を捻る。
確かに、強引に周囲を侵略していった帝国が皇帝の死によって揺らいでいると知られれば、間違いなく叛逆が起きるだろう。
いや、その前に帝都内でも反乱は起こるに違いない。
「……仕方ない。帝国内が混乱しないように手を貸そうか。ただ、新しく皇帝になる人が良い人間であることが条件だけど」
そう口にすると、エイラは目を見開いて振り返る。
「それは、つまり新皇帝の後見人に……いえ、何でもありません。タイキ様ならば帝国も必ず平和になることでしょう。それは周辺の国の安寧にも繋がります」
「いやいや、そんな大袈裟だよ。ただ、出来たら新しく皇帝になる人には会ってみたいなぁ。メーア達が帰ったら聞いてみようか」
「そ、そうですね。実際に会ってしまえば問題無いでしょう」
こくこくと何度も頷くエイラに首を傾げながら、俺は操作画面に指を乗せた。
それから僅か数日。新皇帝は成り、反乱勢力もアイファ達がロボットを引き連れて制圧して回り、あっという間に帝国は落ち着きを取り戻したらしい。
スクリーンでちょこちょこ確認してはいたが、メーア達やユーリ、ディツェンに加え、帝都から脱出させたエルフ達も協力して動いていたようだ。
まぁ、こちらから見たら貴族達を根こそぎ脅してまわっただけにしか見えなかったが、とりあえず反乱の芽は摘めたらしい。
そして、そこから更に二週間。
ようやく色々と落ち着いてきたのか、メーア達が帰ってくる姿がスクリーンに映った。
エルフ達もアイファを含めて四人が同行しており、その一行に新皇帝も加わっている。
というか、新皇帝はお付きらしきメイド一人を連れているだけで、護衛の兵士すら連れていなかった。
「……とりあえず、おもてなしの準備かな」
そう呟いて立ち上がると、エイラは神妙な顔で頷く。
「この二週間余り……この日の為に研鑽を積んで参りました。例えブラウ帝国の皇帝が相手だろうと、必ず唸らせてみせます」
そんなやりとりをしてから、俺とエイラは並々ならぬ決意を胸に厨房へと向かうのだった。




