エルフがざくざく
「あ、また見つけましたよ」
「また!? もう十人近く見つけてるんだけど……」
そう言って、俺は右のスクリーンに目を向ける。すると、確かに窓のない部屋の中で椅子に座る二人のエルフの姿があった。エルフは目を丸くしてこちらを見ており、僅かに恐怖心も窺える顔色をしている。
しかし、その二人の方へユーリが静々と歩いて行き、暫く会話をすると、二人は揃って頷き立ち上がった。
僅かな時間でどんな話をしたのか。ユーリが微笑みを浮かべてエルフ達に背を向けて部屋から出ると、二人はすぐにその後を追うのだった。
その光景を眺めて、俺は深く息を吐く。
「……凄腕の探偵みたいだね。ユーリさんの意外な才能が垣間見れた気がする」
と、そんなことを呟いていると、ヴィオレットが不服そうに口を開いた。
「……私の情報など不要だったのでは?」
不機嫌そうにそう口にされ、思わず苦笑しながら片手を振って否定する。
「いやいや。帝都は広いですからね。ヴィオレットさんがある程度場所を絞り込んでくれたおかげですよ」
「あまり説得力がありませんねぇ?」
俺の言葉に鼻を鳴らしてそう言ったヴィオレットに曖昧な笑みを返し、再度スクリーンに目を向ける。
事実、ヴィオレットの情報のおかげで格段にエルフを発見する速度が増したのだが、ヴィオレットは俺の言葉に懐疑的なようである。
まぁ、事実上の敵対関係なのだから仕方がない。
「あ、ラントさんとシュネーさんも無事エルフの人を保護したね」
左のスクリーンには別の街にてエルフを探索していたラントとシュネーの姿があった。珍しく鎧を着たエルフ二人だ。背中には大きな弓矢を背負っている。
「弓を使うのか」
そう呟くと、エイラが頷いた。
「エルフは魔術師としての適性のある人が多いですが、弓使いとしても優秀だと聞きますから、あの方々もその例に漏れず優秀な弓使いなのでしょう」
説明を聞き、ふむふむと何度か頷く。エルフの人は皆細身だし、遠距離で戦うのが似合うので納得である。しかし、森に住んでいたのなら遮蔽物が多くて戦いでは不利な気がするが、どうなのだろうか。
アイファの言い方だと無暗に森の木を傷付けるような戦い方はしなさそうだし、その辺りも帝国軍に敗北した理由にありそうだな。
そんなことを考えながらも、椅子の背もたれに体を押し付けて背伸びをする。
「なにはともあれ、予定通りだね。エルフの方々には避難場所に移動してもらおうか。これで十五人かな? これなら何とか一週間で全員見つかりそうだ」
ホッと胸を撫で下ろしてそう言うと、エイラが微笑んで「はい」と相槌を打った。
そこへ、押し殺したような笑い声が聞こえてくる。
「ふふ……さて、それはどうでしょうねぇ?」
含みのある言い方をするヴィオレットに、エイラが鋭い視線を向ける。
「どういう意味ですか?」
エイラが語気を強めて尋ねるが、ヴィオレットは目すら向けずに完全に無視してしまった。
そのせいで広い空間に重く張り詰めた空気が広がってしまい、俺は気まずい雰囲気の中で咳払いを一つする。
「あー……多分、最後の一人のことですよ」
ヴィオレットの代わりにエイラにそう答えた。すると、エイラだけでなくヴィオレットの顔もこちらに向く。
「最後の一人?」
そうエイラに聞かれ、眉根を寄せて頷いた。
「うん。アイファさんの調べた情報と、ヴィオレットさんが教えてくれた情報……二つの情報を合わせると思ったよりずっと精度の高いエルフの居場所とその人数が分かった。それはこれまでに見つけることが出来たエルフの人達の人数をみれば分かるからね」
「は、はい。最初は僅かに疑いの気持ちがありましたが、ヴィオレット将軍のもたらした情報は確かに有用でした」
「そう。その確かな情報のおかげで確信したんだ。アイファさんの話だと何処に何人いるかが曖昧だったけど、ヴィオレットさんの情報は帝都内だけに限っては人数まで把握しているからね。残りの人数を計算すると、エルフの一人が行方不明になってしまう」
そう言って浅く息を吐くと、エイラが表情を曇らせた。
「……まさか、一人は亡くなって……」
「その可能性もありますねぇ……しかし、エルフが死んだという話は聞いていません。さて、最後の一人は何処にいるのか……」
意地の悪い笑みを浮かべてヴィオレットが息を漏らすように笑う。
何か知っていそうだが、無理に聞き出して嘘を吐かれても困る。拷問なんて絶対に出来ないし、自力で探すしか無いか。
とはいえ、場所は何となく想像がつくから大丈夫だろう。
そんなことを考えながらスクリーンに目を向けると、エイラが悔しそうにヴィオレットを横目で見た。
「タイキ様。ヴィオレット将軍は確実に居場所を知っていますよ」
「かもしれないね。でも、無理に吐かせるのもねぇ……」
「しかし、エルフの方々を助ける為には……」
「まぁ、大丈夫だよ。酷いことはしたくないし、自力で探そう」
そう言ってエイラを宥めると、ヴィオレットが腕を組んで鼻を鳴らし、勝ち誇ったような笑みを浮かべた。
「そんな悠長な考えで果たしてエルフを見つけだせますかねぇ……言ってくだされば協力しないことも無いのですが……」
「……交渉する気ですか?」
エイラの表情に強い警戒の色が加わる。その顔を楽しそうに眺めながら、ヴィオレットは口を開いた。
「交渉というほど大した要求ではありませんよ。そろそろ空の上も飽きてきたし、私を帝都に降ろして欲しいだけで……」
「っ! そんなこと、出来るわけがありません!」
反射的にエイラがヴィオレットの要求を拒絶する。それに対し、ヴィオレットは眉根を寄せて肩を竦めた。
「あら? エイラ様は自国の民で無ければ、その生死などどうでも良いのでしょうかねぇ? 確かに、私が帝国軍に加わってしまえばそちらは面倒でしょう。術師はどうでも良いとして、一歩間違えてユーリ様が命を落とす事態になれば、折角友好的な関係を築きつつあるフリーダー皇国と敵対するのは確実です。僅か百人にも満たないエルフの集落など大した問題にはなりませんが、一国との関係に関しては別……」
「え、エルフがどうでも良いなんて言ってません!!」
挑発するようにヴィオレットがベラベラと喋り、エイラが顔を赤くして声を荒げる。
しっかりとヴィオレットに主導権を奪われているエイラに苦笑し、俺は声を発した。
「ヴィオレットさんの情報にも興味はあるけど、交渉には応じないよ」
そう告げると、二人の目がこちらに向いた。
「た、タイキ様、しかし……」
エイラが不安そうな声を出し、ヴィオレットが怒気の篭った目で俺を睨む。
「……流石は天空の王ですねぇ。地上の民の運命などという些事の為に私と交渉するのは嫌だ、と……」
嫌味な言い方でそう言われ、目を瞬かせて口を開く。
「え? そんなことは思ってませんよ? ただ、最後の一人はお城にいるようなので、別にヴィオレットさんと交渉する必要も無いかと……」
そう言うと、ヴィオレットは目を見開いた。
「な、何故それを……っ!? まさか、最初から知って……」
驚愕するヴィオレットに、優しく微笑を向けて頷く。
「やはり、城の中でしたか。あの皇帝がエルフを絶対に手放す筈が無いと踏んでいましたから、一人か二人は自分の手元に置いて隠しているだろうと思っていましたよ」
そう口にして笑うと、カマをかけられたことに気付いたヴィオレットは、目に殺意すら込めてこちらを睨んできた。
逆に、エイラはキラキラと輝くような瞳を向けてくる。
俺はエイラに笑い返しながら、思案を巡らせる。
城の中に隠された一人。
いざという時、エルフ達全員が動けなくなるような重要人物だろう。
長老か、その息子とかも考えられる。
隠すなら、城で生活するアイファに見つからない場所。地下室、隠し部屋……もしくは、皇帝自身の部屋、か。
「どちらにせよ、これで帝国と戦争になるのは間違いないか」
俺は誰にも聞こえないような小さな声でそう呟き、深く溜め息を吐いたのだった。




