ヴィオレットの思惑、ユーリの散策
『天空の城をもらったので異世界で楽しく遊びたい』
2巻が発売決定しました!
ちなみに、コミカライズ予定です!
【ヴィオレット】
「何故開かないのです……!」
私は丸い不思議な触感の壁に両手を押し当て、どうにか動かないものか試した。しかし、押しても引いてもビクともしない。
魔術で破壊してやろうかとも思ったが、私の背後にはあのゴーレムがピッタリと張り付いている。迂闊な行為は出来ないと見た方が良いだろう。
「……貴方が開けてくれれば良いのですがねぇ」
横目でゴーレムを見つつ、そう呟く。
すると、なんとゴーレムは私の隣に立ち、壁に手を触れた。
直後、壁は音も無く左右に分かれてあの丸い部屋が目の前に広がる。
部屋の中に入り、後を付いてくるゴーレムに振り向く。
「……ありがとう。では、次はタイキ様の下へ案内を宜しくお願いします」
そう告げると、ゴーレムは無言で振り返り壁に手を当てた。左右に開いていた壁は閉まり、僅かに身体が浮く感覚を味わう。
そして僅か数秒。再び開いた壁の向こう側には、驚きの光景が広がっていた。
眼を見張るほど大きな長方形の窓があり、そこにはなんと帝国の街並みが広がっていたのだ。
それも見慣れた帝国、帝都の街並みである。不思議なことに、斜め上に取り付けられた巨大な窓だというのに、沢山の人々や馬車が行き交う景色が見えている。
「……こ、これは……!?」
驚愕すべき光景に思わず声が漏れてしまった。
「……っ! ヴィオレット将軍!? どうやって此処へ!?」
私の声を聞いたエイラ王女が血相を変えて振り返り、こちらを睨んだ。その目にはこれまでに無いほどの強い敵意に満ちている。
警戒心を剥き出しにするエイラに対し、私の目的の人物はゆっくりとこちらに顔を向けた。
まるで、知人に朝の挨拶でもするように、微笑混じりに天空の国の王が口を開く。
「やぁ、ヴィオレットさん。ちょうど良いところへ」
その柔らかな態度と声に、私は冷たい氷が滑り落ちたような感覚を背中に感じた。
タイキは、私のことなど気に掛けていない。
敵とか味方とかそんな段階ですら無く、脅威を抱かれることすらないのだ。
それは、私が戦争の最中に一般の雑兵を相手に抱く感情と同じ、無関心というものだろう。
「……ふ、ふふ」
思わず、笑いが口を突いて出た。
あわよくば、隙を突いて殺害。天空の国を乗っ取ろうと思っていたが、そんな意欲などあっさりと砕かれてしまった。
立ったまま動かない私を、エイラは険しい目で睨み続けている。だが、タイキは柔らかく微笑んだまま小首を傾げ、不思議そうに口を開いた。
「さ、どうぞ、こちらへ」
そう言って、タイキはあろうことか自分の隣を指し示す。
流石に、私の力を過小評価し過ぎだ。これならば、決死の覚悟を持って当たれば、もしかしたら……。
そう思った矢先、私の前をゴーレムが横切った。私をここまで案内したゴーレムである。
更に、エイラの隣に立っていたゴーレムも体の向きを変え、こちらに向き直った。二体のゴーレムはタイキとエイラを挟むように立ち、揃ってこちらを見ている。
何を言うわけでも無い。エイラはともかく、タイキは変わらず柔和な表情を浮かべている。
しかし、どうやっても私が手を出せそうな風には見えない。
結局、私では隙を突いても勝てないのか。
「……いいでしょう。そちらに行きましょう」
自虐的に笑い、私はタイキの下へと向かった。すぐ隣に立ち、タイキを見る。
すると、タイキは困ったような笑顔で巨大な窓を見上げた。
「協力するのは嫌かもしれませんが、助言をもらえたらと思いまして……エルフの方がいる場所、知りません?」
そう言われ、私は思わず眼を丸くする。
「……は?」
そして、私の口からそんな間の抜けた声が漏れた。
【ユーリ】
「あら、こんなところにもお肉が……帝国の方はお肉がお好きですねぇ。皇国なら魚が良く並んでますが」
そう言って、ユーリは大通りに並ぶ店々を眺める。目の前には調味料を付けて焼いた肉を串に刺した物が並んでおり、香ばしい匂いを周囲に漂わせていた。
「美味しそうな匂い。エルフ様もこの匂いに釣られて歩いてきたりするかもしれませんねぇ」
にこにこと笑いながら、ユーリはそんな独り言を呟いて大通りを歩く。
衣装はディツェン達と同じであり、フードも目深に被って顔を隠していたが、通りを歩く男は時折ユーリの後ろ姿を振り返って目で追った。
ローブの上からでも分かる肉感的な女性特有のラインに、一部の男が厭らしい笑みを浮かべている。
そんな視線なぞ気付かずに、ユーリは大通りに立ち並ぶ店をキョロキョロと見ながら歩いた。
と、不意にその足が止まり、頭は薄暗い路地裏へと向く。
「……濃密な、魔力の気配。アイファ様と似てますね。エルフ様でしょうか」
ユーリは楽しそうにそう口にすると、自分の後ろを見た。かなり後方に装いを変えたタイキのロボットが立っており、注目を一身に集めている。
「こちらですよー」
小さく呟きながら顔の前で軽く手を振ると、ロボットはゆっくりと歩き出す。
それを満足そうに眺めてから、ユーリは路地裏へと足を踏み出した。
「タイキ様のゴーレムは本当にお利口様ですねぇ。聞こえないような小さな声で指示をしてもしっかり反応しますし。これなら手の形とかで決め事をすれば、何も言わずとも指示を出せるかもしれませんねぇ」
ユーリは微笑みを浮かべたまま、そんなことを口にし、路地裏をふわふわと歩いていったのだった。




