想定外
天空の城をもらったので異世界で楽しく遊びたい!
発売中です!
「あれ?」
スクリーンを見ながらそう呟くと、緊張感を滲ませた表情のエイラが口を開く。
「な、何故、帝国の者達が……」
スクリーンの中には、ロボットに抱えられた綺麗な女と、ロボットの背中や足にしがみ付く二人の男の姿があった。
一人は面と向かって会話したこともある奇人、ディツェンだ。こちらはブリーダー皇国の魔術師だから問題は無い。いや、ヤヌアルを招こうと思っていたから問題ではあるのだが、順番が変わっただけなので大きな問題では無いといったところか。
しかし、後の二人は違う。
一人は戦争時に姿を見せていた帝国の女将軍であるし、もう一人は皇帝の側に仕えていた帝国の魔術師らしき耳長族である。
後でエイラに聞いたところ、どちらも帝国の有名な魔術師とのこと。
「……この城に用があって皇国に来たんだろうねぇ」
「……他に目的は思い浮かびませんね」
そんな会話をしていると、すっかり城の生活に馴染んだユーリがこちらに歩いて来た。ユーリは浴衣をゆるりと着こなし、草履を履いて隣に立つ。
「帝国といいますと、あの方がかの有名な帝国の魔女様でしょうか? もうお一方は、帝国宮廷魔術師のはぐれエルフ様?」
「はい。ヴィオレット将軍とアイファという宮廷魔術師ですね。先日、アツール王国に攻め入って撤退したばかりだというのに、どうしてここへ……」
スクリーンを見ながらエイラが答えると、ユーリは豊かな胸を持ち上げるように腕を組み、感心するように息を吐いた。
「そういえば、アツール王国があのブラウ帝国と開戦し、勝利を収めたと聞きました。帝国はとても強いとお父様もお話されていましたが、流石は歴史ある大国と評するべきでしょうか」
ユーリがそう言ってふんわりと微笑むと、エイラは苦笑いを隠さずに顔を向ける。
「あ、あははは……それが、王国は帝国とまともに戦っておらず……」
「あら、そうなのですか?」
予想外の返事にユーリが目を瞬かせると、エイラはこちらを盗み見るように視線を向けた。
「タイキ様がゴーレムの大軍団を用いて戦争を止めてくださったので……」
「ゴーレムの大軍団?」
そう呟き、ユーリは俺をマジマジと見つめてくる。その目を見て乾いた笑いを返し、首を左右に振る。
「いや、大袈裟だよ」
軽く否定をし、スクリーンに向き直った。既に、三人を連れたロボットは雲の近くにまで来ている。
「……帝国は、戦争で邪魔をした敵、といった目で俺たちを見てるのかな?」
それだと嫌だなぁ。
そんな気持ちを込めて呟いたのだが、エイラは間髪入れずに頷いて肯定した。
「あの二人を城に入れるのは危険です」
「やっぱり?」
エイラの進言を聞き、苦笑しながら頭を捻る。
さて、どうしたものか。空を飛べるなら振り落としても問題は無さそうだけど、更に恨まれること間違い無し。
ならば、逆に気持ち良く招待して友好な関係を築けないものか。
「……タイキ様? あまり軽はずみなことはしない方が……」
「え? な、何のことかな?」
色々と考えていることが顔から出てしまったのか。エイラが咎めるような目つきでこちらを見ていた。
「でも、空の上で放り出すのもねぇ……」
そう口にしつつユーリに目を向けると、ユーリはのんびりとした顔で首を傾げてみせた。
「何でしょう?」
「皇国は帝国と敵対していないの?」
争いごとと無縁そうなユーリの返事に、思わず助けを求めてみる。
「敵対はしていませんが、交流もあまり……」
困ったような顔でそう答えたユーリに、隣で見ていたエイラが口を尖らせた。
「タイキ様。天空の国と帝国との交渉をユーリ様にお願いするのは流石に……もし嫌でしたら私が行きますから」
と、気合いの入った顔をするエイラ。
だが、皇国の人に頼むのが筋違いならエイラに頼むのも駄目なのではとも思ったが、妙にやる気に満ちたエイラを見ると言える雰囲気ではなかった。
俺は胸の前で拳を握るエイラに笑い返し、その後ろに立つA1を見上げた。
「まぁ、A1もいるからね。とりあえず、俺が行ってみるよ」
そう言うと、エイラが目を剥いて口を開く。
「お一人で向かう気ですか!? 絶対ダメです! せめて私とメーアちゃん達も一緒に……!」
血相を変えるエイラに面食らいながら、片手を上げた。
「い、いやいや……そんなに危険ならむしろ皆を連れていけないよ」
「でも……」
申し出を断ってもなおも引き下がらないエイラに微笑み、胸を張って頷く。
「大丈夫。エイラがそれだけ言うなら、万全の態勢で会うとしよう」
そう言うと、エイラは目を瞬かせてA1と俺を交互に見た。
【ヴィオレット】
全く速度を緩めることなく空へと浮かび上がっていくゴーレムに内心脅威を感じながら、私は雲と雲の間に浮かぶ巨大な島を見上げた。
地上から見ていたよりもずっと大きなその島は、確かにいたる箇所に自然のものでは無い、人の手によって造られているものが散見された。
アイファが言うには、この上には見事な城や住居もあるという。
「……こんなものを、一体誰が……」
無意識に呟いたその言葉に、ゴーレムの背に捕まるアイファが返事をした。
「何百、何千の魔術師がいるのかは分からないが、ゴーレムの製作者の一人にタイキという者がいるらしい」
「タイキ……それは、天空の国の王と同じ名ですね」
「天空の国の王……最上級のゴーレムを作ることが可能な魔術師の王、か」
アイファの小さな呟きには重い緊張感が含まれていた。常に冷静なアイファが緊張していると知り、私まで胸の内にしこりのような不安感が芽生え始める。
そんな中で、ゴーレムの足に纏わり付いた皇国の魔術師だけは楽しそうだった。
「ようやく来たぞ、空の上に……ふ、ふふは! ふはははは! 今度こそ色々と技術談義を……! じっくりとぉおおお!」
煩い男だ。確かディツェンとかいう魔術師である。
ディツェンは空を飛ぶ間ずっとこの調子だった。視界に入らないのか、アイファは気にした素振りも見せないが、私はかなり目障りな存在として認識している。
強めの魔術で叩き落としてやりたいが、このゴーレムに魔術を当ててしまうのは止めた方が良いだろう。なにせ、私はそのゴーレムの両手に掴まれているのだから。
そう思って諦め、私はディツェンから視線を外した。
暫くすると島のすぐ真下に到着し、島の壁面の岩肌にそって上昇していく。目の前を高速で通り過ぎる壁を眺めていると、ついに島の上に抜けたのか、目の前がパッと開けた。
無機質な岩肌から急に雲一つない青空が広がり、白い町並みと大きな木々、そして見事な城の姿が視界に飛び込んでくる。
その景色に、私は言葉も出せなかった。




