恐怖のゴーレム
天空の城をもらったので異世界で楽しく遊びたい!
10月25日発売!
よろしくお願い致します!
「あ、あれは……っ!」
立ち上がりながら発せられたヴィオレットの声に、アイファは目を細めて口を開いた。
「あれが、天空の国からの使者か?」
その質問に、ヴィオレットがはっきりと首を左右に振る。
「いいえ、そのような可愛げのある存在ではありません。あれは、私のゴーレムを容易く捻り潰した謎のゴーレムです」
「あれが……想像していたよりずっと細く、小さいな。とても帝国のゴーレムを圧倒出来るようには見えないが……」
ヴィオレットとアイファの会話に、ディツェンが目を剥いた。
「帝国のゴーレムを圧倒!? やはり、タイキ様のゴーレムは……」
興奮した様子で声をあげるディツェンに、アイファの眉尻が上がった。
「タイキ? それがあのゴーレムの主人の名か」
アイファは一人、静かにそう呟き、立ち上がった。
城の外に出ると、城門のすぐ前にタイキのロボットが立っていた。門番や巡回中の兵士達が集まって遠巻きに取り囲んでいるが、ロボットは微動だにせず静かにしている。
ざわざわと騒がしい中、ディツェンが先頭になって四人が姿を見せた。
「おぉ! 間違いない!」
兵士達を押し退けてディツェンがロボットの前に立つと、ロボットが首を傾けて視線を下げた。
「じゅ、術師殿。これが例の……」
「そう! 天空の国からの……あ、書状!」
ディツェンは兵士からの質問に答えながらロボットの体を撫で回し、手に書状がつままれていることに気がついた。
慌ただしい様子で書状を受け取るディツェンに、後方で見ていたヤヌアルが眉根を寄せる。
「先にこちらに渡せ」
「嫌です」
あっさりとお断りしたディツェンは一人で書状を広げ、中身を確認し始めた。
「何々……拝啓、ヤヌアル兄様……これはユーリ様が書かれた手紙か」
「僕宛ではないか! さっさとこちらに渡せ!」
「嫌です」
「何でだ!?」
二人が文句を言い合っていると、その横でアイファが呆れたような顔を見せていた。
「……これだけ無防備に他所の国のゴーレムを受け入れるのはどうかと思うが」
アイファがそう呟いてヴィオレットに向き直ると、ヴィオレットに異変があることに気がついた。
ヴィオレットはロボットと距離を取るように斜め後ろに立っているのだが、その髪はゆらゆらと揺れており、目には暗い光が宿っている。
「……ゴーレムが負けたとはいえ、この私が負けたわけでは……」
ブツブツと何か呟くヴィオレットに目を尖らせ、アイファは片手を上げた。
ヴィオレットの視線を手で遮ると、まるで親の仇を見るような強い視線がアイファの顔に向く。
アイファはその視線を正面から受け止めて溜め息を吐いた。
「確かに、ゴーレム一体と一流の魔術師が戦えば機動力や攻撃の多彩さで勝る魔術師が優位だろう。だが、お前が勝ったところで何が残るというのだ。ただ我々が天空の国へ行く機会を失うだけではないのか?」
諭すようにアイファがそう言うと、ヴィオレットは何かを噛み締めるように口を閉じて顎を引いた。
押し黙ったヴィオレットを暫く眺め、アイファがロボットを振り返る。ロボットはディツェンとヤヌアルが争う様子を見ていたはずだったが、気が付かぬ内にその顔はアイファに向いていた。
視線を向けられていることに気が付いたアイファが思わず顔を硬ばらせると、ロボットは興味を失ったように視線を外した。
ロボットの横顔を見据えながら、アイファは細く息を吐く。
「……魔力も感じず、体も特別大きいわけでは無いのに、不気味な威圧感だ」
緊張感を持ってロボットを睨むアイファと、静かに怒気を放ちながら目を細めるヴィオレット。
その二人の空気に当てられて周囲の兵士達も冷や汗を流す。
しかし、ヤヌアルとディツェンだけは周りの状況など気にもせずに言い争っていた。
「手紙には人数制限など書いて無いじゃないか!」
「そこは空気を読んで下さいよ、殿下。一応国土を守る大事な拠点なんですから、殿下が残らないと……」
「全権をお前にやるからお前が残れ!」
「嫌です! 城を守るなんて面倒臭い!」
「本音が出てるぞ!?」
「私が一番に書状を手に入れたのだから権利も私に……」
「そんな馬鹿な話があるか!」
周りを置いてけぼりにして揉める二人を横目に、アイファはロボットに歩み寄った。
間近でロボットの体の表面を観察していると、ヴィオレットもジリジリと近付いてくる。
「……この細い手足で、頑強な帝国のゴーレムが……」
ヴィオレットはマジマジとロボットの指先を凝視し、無意識に手を伸ばした。
「ただの鉄じゃありませんね……」
そう呟きながらロボットの手を触ると、ロボットはゆっくりとヴィオレットの肩を両手で挟むように掴んだ。
「っ!?」
思わず、ヴィオレットが息を呑む。だが、驚いて硬直するヴィオレットを気にもせず、ロボットはふわりと浮かび上がり始めた。
全くの無音で浮かび上がり始めたロボットに、周りの兵士達も大きくざわめく。
一瞬驚いたものの、アイファは冷静にその場で飛び上がり、ロボットの肩に片手でぶら下がった。
「わ、わ、わ……っ」
動揺するヴィオレットとしがみ付くアイファを連れて、ロボットは見る見る間に空へと浮かび上がって行く。
「で、殿下!?」
「術師殿!」
ようやく事態を飲み込めた兵士達が声をあげ、言い争っていた二人が揃って振り返る。
「今いそがし……ん?」
「た、タイキ様のゴーレムがいない……!?」
そんな声をあげながら辺りを見回した二人は、またも同じように空を見上げた。
「あ、あいつら!?」
「ま、待ってくれ! 私も行くぞ!!」
怒鳴るヤヌアルと、すぐさま空へ飛翔していくディツェン。
「おい! 僕も連れて行け!」
慌ててヤヌアルが叫ぶが、ディツェンはまともに振り返りもせずに背中越しに返事をした。
「すみません、殿下! 緊急事態ですので、一先ず私だけ……っ!」
「嘘をつけ! 僕を独り置いていくなんて……覚えていろよ、ディツェン!」
空にヤヌアルの虚しい叫び声が響く中、ディツェンの顔は満面の笑みであった。




