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改めてディツェンが天空の国について語ると、場は騒然となった。
「……して、そのトイレ一つとっても凄いこと凄いこと! 音が鳴り、水が吹き出し、更には座る座面まで温かい! 自動で蓋は開き、便座は常に清潔! その上、尻を拭く紙が柔らかいっ!」
ディツェンの情熱的という表現を軽く超えた熱の入りように、皆は引き込まれるように聞き入った。
「と、トイレ一つとってもそれか……」
「いや、流石に嘘ではないか?」
「うむ。俄かには信じられないが……もしかしたら、妖しげな術で惑わされているのやも」
「しかりしかり」
ゼプテンの背後に並ぶ中年の男達がそんな会話をすると、ディツェンが目を見開いた。
「ちょっと待てぇい!」
ディツェンが叫び、皆の目が丸くなる。
「私はこの目で見た! 夢物語のような信じられない国だったが、確かにそれは実在する!」
ディツェンの怒声に隣に並んで立っていたヤヌアルは声を出して笑っているが、他の者は眉根を寄せる。
「まったく……陛下の御前でなんという態度か」
そう言って怒り出す者もいたが、ヤヌアルが笑いながら片手を振る。
「術師として熱が入り過ぎただけだ」
と、ヤヌアルがそんなことを言い、他の者達も溜め息と共に頷いた。
「まぁ、皇都住みの術師も似たようなものですからな」
「確かに。術師という奴らは皆揃って研究馬鹿ばっかりです」
「では、他の術師にはこの話は内緒にしておいた方が良さそうですな。皆、こぞってその信じられないような国に行きたがるに違いない」
そんなやり取りをして笑い合う男達を眺め、ディツェンは頬を膨らませる。
「まだ天空の国の住人にはタイキ様としか話せていません。大きな街ほどの大きさはありますが、恐らく住民は驚くほど少ないでしょう」
ディツェンがそれだけ言って口を閉じると、周囲の者達が首を傾げる。
「……つまり?」
「ああ、大人数で押し掛けたら迷惑である、と?」
そんな声に、ディツェンは静かに首を左右に振った。
「私がタイキ様に天空の国の技術を教えてもらう時間が無くなります」
堂々とそう言い切ったディツェンに、周囲から脱力感の篭った溜め息が吐かれる。だが、ヤヌアルとユーリだけは楽しそうに笑った。
「ブレないな、ディツェン」
「素晴らしい熱意ですが、天空の国に移住するのは私が一番ですからね?」
二人がそう言うと、ディツェンは血走った目で笑みを浮かべた。
「いやいや、タイキ様から招待状が来た時に私一人しかいなかったら……その時は仕方がないですよね」
「ほほう? 挑戦的だな」
「負けませんわ」
三人が火花を散らして睨み合っていると、完全に置いてけぼりとなったゼプテンが腕を組んで細く息を吐いた。
「……困ったな。ワシも行ってみたくなってきた」
ゼプテンの呟きは幸いにも誰にも聞かれなかったが、数日後には国王に謎の動きがあると調査隊が組まれ、大臣各位に露見してしまうのだった。
【天空の国】
「面白い方々でしたね」
エイラの感想に、俺は笑って頷いた。
「そうだね。ディツェンさんが皇国の魔術師みたいだから、またディツェンさんに来てもらって皇国の魔術を教えてもらいたいね」
そう言うと、エイラは困ったように笑いながら顎を引く。
「そうですね。ただ、私としては皇国の内情に詳しそうなヤヌアル様に来ていただいた方が……」
「ああ、ヤヌアルさん? 確かに、そういった話も面白そうだね。でも、皇国の魔術も興味あるなぁ」
二人で悩んでいると、お茶を運んで来たメーアが口を開いた。
「じゃあ、両方に詳しそうなユーリさんが良いんじゃないですか? そうしたら私も魔術を習えるし」
と、中々の名案を放り込んでくる。
「ああ、たしかに。じゃあ、それでいこうか」
「そうですね。それにユーリさんが一番話しやすそうです」
あまりに的確な意見に、俺とエイラも納得してメーアの意見に賛成したのだった。




