ラストシーン
土砂の撤去作業が終わるまでの間、それぞれ思い思いの時間を過ごした。
遊戯室に、陽介さん、華菜さん、碓氷さん、その上麗華さんまでも来て、一緒にレアなボードゲームをしたり、お姉ちゃんが碓氷さんに乞われてチェスを教えたりしていた。
華菜さんと麗華さんの関係は、相変わらずな所もあるけど、でも何かが以前とは決定的に違って来ている...そんな気がした。
───翌々日
深夜には、もう撤去作業が終わっていたらしいが、しっかり朝食をご馳走になりつつ、連絡していた警察のパトカーも到着して、優奈さんを無事に引き渡せた。
優奈さんに以前の面影は全くなく、まるで脱け殻の様な感じだったが、お姉ちゃんが視界に入ると尋常じゃない怯え方をして、警察の人が戸惑う程だった。
よっぽどトラウマなんだろうな......
「そういえば、美月さんの車はもうレッカー車に頼んだんですか?」
「うん!今修理に出てるとこだから、今日は代わりの車で帰るよ~ん」
えっ、代わりの車って、もしかして...
「ま、まさかと思いますけど、パトカー...とか?」
「うん、そう」
「えぇ!!ちょっ、ちょっとなんか気まずいっていうか、緊張しちゃうんですけど...」
「だいじょぶだいじょぶ!華凛ちゃんは悪い事なんにもしてないんだし、ふんぞり返って乗ってれば良いよ!」
そっ、それは、まあ、そうなんだけど!
「あの...」
私と美月さんが話していると、碓氷さんが帰る前に、お姉ちゃんに呼びかけた。
「チェス、凄く勉強になりました!
しかも法医学の知識も...華澄先生、ありがとうございました!」
碓氷さんが頭を深々と下げる。
「いえ、そんな...こちらこそ、楽しい時間をありがとうございました」
と言って、お姉ちゃんも頭を下げる。
せっ...先生...?
まっ、まあ、そう呼びたくなる気持ちは分からないでもないけど......
それにしても碓氷さんって、一見クールで近寄りがたい感じがする人だけど、そんな見た目とか表情で結構誤解されやすいんだろうな。
碓氷さんが笑顔でこちらに手を振りながら、自分の車に乗り込んだ。
...遠くで、ちょっと悔しそうに麗華さんがその光景を見ていた。
碓氷さんも、厄介な人に惚れられたな......
「やあ、みんな!」
陽介さんが、華菜さんと一緒にやって来た。
「華菜さんを送っていくんですか?」
「うん!元々その予定だったしね」
私の質問に陽介さんが笑顔で答える。
「あっ、あの...」
華菜さんが私達に話しかけてきた。
「あそこであのまま、あの電気スタンドを振り下ろして...夢の通りになっていたらって考えると、たとえ助かったとしても、絶対に後悔していたと思うんです。
...だから」
華菜さんは涙を浮かべながら
「止めてくれてありがとう。探偵さん」
と、笑顔で言った。
「どういたしまして...とか言うと、なんか照れちゃいますね。
キャンパスライフ、卒業まで目一杯楽しんで下さいね!」
華菜さんは嬉しそうな表情で頷くと、そのまま陽介さんの車に乗り込んだ。
...にしても、高い車に乗ってるな...
「それじゃ僕も。またね!」
そう言って、陽介さんも車に乗り込み、そのまま走り去っていった。
「おお、来た来た、あのパトカーに乗って帰ろう!」
優しい警官さんが、パトカーを美月さんに渡す。
私達がパトカーに乗り込み、美月さんが出発すると、見送りに来ていた忠徳さん、麗華さん、神守さんが深々と頭を下げていた。
光織さんは、美月さんの名前を叫びつつ、泣きながら手を振っていたので、美月さんが車の窓を下げて、運転しながら手を振り返していた。
帰り道は、再び峠を攻めそうになった美月さんが、理性で衝動を抑え込み、安全運転で神月浜町まで戻って、美月さんの奢りで夕食をご馳走になった後、無事に自宅まで辿り着いた。
「今回もありがとう、華凛ちゃん、華澄ちゃん!」
「いえ、こちらこそ、お世話になりました!」
「ステーキご馳走さまでした!」
私とお姉ちゃんが同時にお礼を言う。
あの店のステーキ、やっぱ美味しいわ~。
美月さんは、そのままパトカーで仕事に戻って行った。
......お疲れ様です、美月さん。
ふぅ~、やっと帰って来たぁ~!
さぁ~って、今日はなんの積みゲーを消化しよっかな♪
...ん?
なんかお姉ちゃんが、じっとこっちを見てる...?
「...なんか忘れてない、華凛ちゃん?」
えっ~と、なんだっ...あっ!
あ、あれって、冗談じゃなかったんだ...
私は顔面から火が出そうな心地になりつつ、お姉ちゃんに抱きつく。
う、う~、はっ、恥ずかしい...
......でも、なんか落ち着くな......
複雑な関係とかじゃなくて、こうしていつでも気楽に触れ合える普通の姉妹で......良かった。
お姉ちゃんは嬉しそうに微笑みながら、私を抱きしめていた。
~了~




