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「勇者イーラーケルの冒険譚」  作者: 黎明・弐
序章

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プロローグ4「四人が離れ小屋についたこと」

 立派な弓と矢を(たずさ)えたゴアが合流すると、四人はいよいよ歩き始めました。

 四人は二列になってカンテラを持った、バーボハルトがやや先行し、ゴアがすぐ後を、ギャンとフランがその後に続きました。バーボハルトがゴアに自分が奇怪な動きをしていたギャンとフランに出くわしたときについてあることないことを語り、ゴアは吹き出しました。

 前方にはティルクが昼間に働いている村の入会地の林が見えました。村の中に流れるイルム川に架けられたルゴール橋を渡って、水車小屋の横を通り抜けました。ここを左に行くとフランの住む羊小屋がありましたが今日は右手に用がありましたから一同はそちらへ向かいました。


 笑い声は終始やみませんでした。そのさまはそよ風さえもくすっぐたいと感じているようでした。

 「なんだよ、あれ。星に届くって!?」

 ゴアはさっきから、ふたりがそれを大真面目にやっていたことなんて気にせず、ずっと笑いっぱなしでした。むしろ、そのふたりの直向(ひたむ)きが輪をかけて笑えるのでした。

 「さっき出くわしたときはびっくりしたよ」バーボハルトがにやにやしながら言いました。「こうやってピーンってさ。ファリスやティルクにも見せてやりたかったよ。どっかのまぬけが道の真ん中に案山子(かかし)でもおっ立ってたんじゃないかって疑ったよ」

 「もう、いいだろ?おめえら」ギャンが恥ずかしそうに顔を覆いながら言いました。「な、もう笑うのはやめてくれよ。恥ずかしいからよう」

 「もう笑わないであげてほしいだあ。ギャンのことを」とフランも言いました。

 「バカ、おめえのおかげで、オレがこんな笑いものになってんだろうが」ギャンがフランを軽く殴りながら言いました。「それにお前も笑われてんだよ」


 四人はそうやって相も変わらず笑いながら、左奥にスギの木が鬱蒼と広がるグーゲルの森があることをしっかりと見て、とくにゴアが警戒してそれを見ながら、『へとへと坂』を上り始めました。なぜ、こんな名前がついているかというと急勾配の坂があるために、どんなに村を歩き慣れていても毎度ここだけはへとへとになるからでした。先ほどの『うねうね坂』とは比にならないほどの角度でした。


 唯一の例外として、フランはいつもここを登っていたのでこの坂自体に慣れていました。

 「皆、遅いだぞ」気が付くとフランは先頭にいて他三人が後ろからえっちらおっちら続いていました。「こんな『らくらく坂』、あっちゅう間だべよ?」

 「ふ、ふざけんな」

 「おめえだけだよ!ここ『らくらく坂』って呼んでんの!!!」

 「お前ももうちょっと、へとへとしろ!」

 後ろから思い思いの言葉が飛んできました。

 フランは愉快痛快で笑えました。

 フランは気が逸っていました。もう少しで離れ小屋が見えてくるはずだったからです。


 仲間がいて、会って、別れて、また会って。

 胸にわくわくした気持ちがあって、どきどきした気持ちがあって。

 笑顔があって、美しい景色があって、何としても辿り着きたい目的地があって。

 こんなにも飽き飽きするほど狭くて住み慣れた村で、時間にして一時間も満たないものでしたが、フランたちはたしかに大冒険をしていました。


 フランが上り切った後、ギャン、ゴア、バーボハルトが上り切りました。

 ついに皆が坂との激闘を終えて、ようやく一同が離れ小屋をおがむことができました。もう目と鼻の先です。

 「はあ、はあ。つか、疲れた……」とバーボハルトが肩で息をしながら言いました。

 「おい、あれだよな。離れ小屋って」ギャンが小屋を指さしながら言います。

 「あ、ああ。そのはずだ」とゴアが言いながら頷きました。

 「さあ、早く行くべ」フランがそう言いながら小走りで歩きだしました。

 フランを除いた三人はもう少し、その場で休みたかったのですが、もうここまで来たら、あとは突っ走るだけだと顔を互いに見合わせて覚悟をきめて頷きました。


 藹々(あいあい)とした草原が月光に照らされて、艶やかに光って揺れて、光の波を作っていました。妖精の輪が見えました。名前も知らない花が咲いていました。


 そうして四人はついに、離れ小屋の前にまで辿り着きました。

 くずれかかった扉、曇った窓、屋根にはる蜘蛛の巣。異様な雰囲気でした。ひとりなら絶対に近寄りたくないような場所でした。

 ついにあの前人未踏の離れ小屋に入るということで、皆、興奮していました。ここに真実が眠っているかもしれない思うとその興奮は間違って星に手が届くんじゃないかと思えるほど高まりました。

 バーボハルトは冷静を保とうとし、ギャンは少し浮足立っており、ゴアは焦り、フランは宝箱を開けるみたいに待ちきれない様子でした。

 「いい?せーので開けるよ」とバーボハルトが号令をかけようとしました。

 「おい、ちょっと待て。オレは心の準備が」とギャンが少し戸惑いを見せました。

 「まったく、ギャンのやつ、酔いが覚めてきたな」ゴアが勇ましく言いました。「とっとと覚悟決めろ」

 「今更、なに怖気づいてるだ。ギャン」とフランが言いました。

 「わかったからよう。バカ、フラン。そんな押すなって」とギャン。

 「一旦、落ち着きなよ」とバーボハルトが皆を抑えました。

 「扉は一個だぞ」とゴアが呆れながら言いました。

 「おらが初めに開けるだよ」とフランが言いました。


 四人は扉の前で押し合いへし合いになりました。

 「あ―――


 バーボハルトの一声とともに四人は小屋の中に雪崩れ込みました。

 「ったく、内開きかよ」とゴアがぽつりと漏らしました。

 「……フランが押すからだぞ」と不機嫌そうにギャンが言いました。

 「すまねえだあ……」とフラン。


 すると下から蚊の鳴くような声が聞こえました。

 「お、おい……ギャ、ギャン、ゴア、フラン……はや、早くそこをどいてくれ……つ、潰れそうだ……」

 「おっと」

 「すまん」

 「すまねえだあ……」

 蚊の鳴くような声の主はバーボハルトでした。皆が慌てて彼の上からどきました。

 彼の手は、四人の総崩れには巻き込まれずに飛び出ていたためにカンテラは潰れず、火事にならずにもすみました。おそらく祖父の形見を守ろうとしたことが功を奏しました。


 たしかに中には誰もいませんでしたが、つい最近まで誰かがここにいた痕跡は数多く残されていました。

 入ってすぐの壁には干し草をかき分けたりするのに使うピッチフォークや、シャベルなどかつての放牧で使用した道具が綺麗に立てかけられそのままになっていました。これはたぶん昔からあるもので触られた形跡もありませんでした。ですがそこ以外はどこかしこも手が加えられていました。


 頭上はそこまで高くはありませんが追加で柱が張られていて、そこからオオカミかイノシシかの肉が下がっていて干し肉になっていました。

 すぐ下の床にはそれを捌いたときに使ったと思われる、ナイフが落ちているばかりか、クマの毛皮と干し草で作った寝床と思われる場所と、無造作にもぼろ衣のような服が何着か脱ぎ捨てられていました。

 左側には水瓶(みずがめ)が置いてあって中は水が張っており、そのすぐ横の樽の上にはところどころ欠けてはいましたが木製のお皿やコップが置かれていました。そしてそのまままっすぐ奥には箱を椅子にして、薄い板を何本かの木で支えているような即席の机がありました。


 「しっかし、やっぱり中は窮屈だな」ギャンが言いました。図体がひとり大きい分、余計そう感じられるようでした。

 「人ひとりでやっとって感じだね」バーボハルトが苦笑しながら言いました。「……なんか泥棒に入ってるみたいだな」

 「そうか?ここに住んでたやつも元々、勝手に住んでたんじゃなねえの?」ゴアが言いました。「おい、何か机の上にひらひらしたもん見えないか?」

 「あ、ほんとだべ」とフランが言い終わる前に駆け寄りました。


 机の上には数冊の本、オルゴールとそれに燭台が、何枚もの束なった紙を囲うようにして置いてありました。紙の束は既に空になったインクを入れていた(びん)によって抑えつけられていましたが、その一枚目が風に煽られてふわふわと揺れ動いていていかにも捲ってほしそうにうずうずしているみたいでした。

 そして、机のすぐ横にはさっきまで死角になってわかりませんでしたが立派な剣が寝かせてありました。再び、フランは机の上に視線を戻します。なぜかそこに答えがあるように思えました。

 「旦那、あんたは一体……」フランが困惑の表情を浮かべました。

 「なんだ。何か見つけたのか?」とギャンが言って近づいてきました。

 「死体の正体がわかるものでも?」とゴアも来ました。

 「……どれどれ?」とバーボハルトがゴアとギャンの隙間から顔を出しました。


 示し合わせたように窓から月光が射して、紙を照らします。下には何か書いてあるみたいでぼんやりとでしたが、その字が光っているように見えました。フランは恐る恐る一枚目の紙を捲ります。


 好奇に満ちた八つの目がそこに書かれていた、文字を読みました。


 『勇者イーラーケルの冒険譚』

 そこにはそう書かれていました

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