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第38話 セム

セムはもともと、ディルモ教におけるドゥール(奴隷階級)の出であった。

今でも、古くから彼を知る者たちは、その立場のまま彼を見ている。

だが、彼の内には、もはやそのような階級意識は残っていなかった。


物心ついた頃から、彼はその身分とともに生きてきた。

ディルモ教の神は絶対であり、ナーバ(僧侶)は、親よりも崇拝すべき存在。

それが世界のすべてであり、疑うという発想すらなかった。


今となっては、それを恥ずかしいとさえ思う。

だが、それもまた環境がそうさせただけのこと。

女神真教と出会い、彼は目覚めた。

もはや自分は《ドゥール》ではない。


「セム!」


「おう、ハルリ」


「これから仕事か?精が出るな」


「ああ、まだまだ新米の律動師だからな

出来る仕事は限られてるよ

でも、全てお前のおかげだから…頑張るよ」


「タスクを、か?」


「まさか

でも、最初はタスクしかないんだよ

もちろん律動連盟は女神様崇拝だから、そこの連中を女神真教に傾けるのは難しくないと思ってるんだけど…

おれの影響力が0だから

まあ、タスク頑張るよ」


「それでいい

女神様は全てを受け入れてくださる

律動連盟とて、いずれ気がつく

彼らの理念は我々の教義とそう変わらないではないか

それなのにやれ過激だとか異教弾圧とか言い腐る」


「ハルリ、今は耐えるしかないのかも

ヌァンラを失ったのは痛い

俺は『エイカー』でもあり、『女神真教徒』でもあり『律動連盟所属』でもある

どの立場から見ても、ヌァンラがいればと思ってしまう」


「……」


「あ、それと…

例のものだが、あと少しくれないか?

金は後で払う」


「セム、すまない

待ってくれ、もうすぐ手に入りそうなんだ」


ーーーーーーーー


王都バルムド。

全人口は30万人を超す。

城壁内に住む市民も10万人余りおり、クロニアと比べるとだいぶ多い。

律動連盟がこの地に聖拍院を構えたのは40年近く前だった。

現在所属する律動師の数は150名以上だ。

律動連盟の歴史は100年近くある。それに対してここタラブでの活動が短く、規模もそれほどでもないのはディルモ教の影響があった。

遠慮していると言ってもいい。


セムは先月新たな正規律動師となったばかりだ。

拍を始めたのは20才過ぎてから。レベルも大したことは無かった。ただ、拍適性が高い。Cある。


試験の出来も実技はそれほど良くはなかった。

だが、筆記の成績が良かったのと、やはりこの適性値を見込まれて合格した。


黒地に黄緑色のラインの入った制服。

これがバルムドのスタイルだ。

セムは自分の身長が低いのがコンプレックスだったが、引き締まった黒を着るとそんな自分でも少し背が伸びた気になっていた。

自分の茶色の髪ともよく合う。


「今日のタスクは…

おれができるのは、ランクD、リズム解析を伴った薬草の採集…これくらいか」


「よう、セム

少しは慣れたか?」


「あ、パダニサ

はい、もうあまり緊張はしなくなりました」


パダニサはバルムド聖拍院の重鎮だ。

背が高く、かっこよく、みんなの憧れである。

テンポスで言うところのパイスに近いが、若いし、パイスのようにゴリラタイプではない。


「早くモンスターを狩るのにも挑戦しないとな

仲間が出来るといいが」


「そうですね、まあ、まだ始めたばかりなので」


セムは女神真教の布教が何よりの目的だ。それなのにコミュ力は高くなく、どこかいつもぎこちない。

要するに不器用なのだ。


「まあ、頑張れよ」


パダニサはセムの元を離れる。

そこにティンタがたまたま居合わせた。


「おうティンタ、来てたのか

タスクか?稽古をつけてほしいのか?」


「おはよ、パダニサ

まあ両方かな…」


ティンタは律動連盟の人間ではないから、外部プレイヤーの立場である。

それでもここ一年は時間があれば聖拍院に来ていた。


「俺は今日は忙しい

マディエラが手が空いてると思うから、彼女に言うといい」


「わかったわ

ねぇ、あいつさ」


「…セムか?

先月からうちに入ったんだ」


「ふぅん

なんか怪しいわ」


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