第102話 雨 《挿し絵あり》
オームでの暮らしは、田舎そのものだ。
神座だって特別なわけじゃない。
タルネの朝は早い。
日が昇るとともに水を汲みに行く。
小さな弟たちと薪を割り、家族五人分の洗濯もタルネの役目だ。
鶏に餌をやり、鶏舎の掃除までやって、
そのあとイストと合流し、テンポスへ出かけるのだ。
日によっては朝からヘトヘトのこともある。
その日はシトシトと雨が降っていた。
イストといつもの場所で会う。
オームの村の中心からほど近くに大きなマドリの木がある。
そこだと雨宿りしながらでもお互いを待てる。
「イスト…今日はタスクはやめない?」
タルネに言われて、空を見上げるイスト。
「そうね、こんな日は家で休むに限るわ
うちに来る?タルネ
編み物でもやりましょうよ」
「うん…でもなんか、
今日は一人でいたいかも」
タルネの表情は明るくない。
「タルネ…、大丈夫?
シュンのこと、気になってるんじゃない?」
「…うん、
でも少し考えさせて、疲れてるかもしれない」
「わかったわ、今日はここで別れましょ」
二人はそれぞれの家路につく。
タルネは自分の気持ちがわからない。
なぜこんなに嫌な感情が湧き出るのか。
ネリが嫌いなわけじゃない。でも…。
タルネはシュンに話したいことがいろいろあった。
神座である自分の境遇。
自分にとっての希望がシュンだった。それに気づいたことを伝えたい。
…どう伝えればいいの?
タルネの足は自然とテンポスに向かっていた。
ーーーーーーーー
シュンとライドンは宿でゴロゴロしていた。
シュンはこの世界に来てからというもの毎日忙しなく働いている。
休みなんてない。やらなければいけないことがたくさんあったからだ。
だが、本来16歳の若造というやつは、ゴロゴロしたいものである。
当然、こんな雨の日なんかは…。
「シュン、トーキョーではさ、若者は何をして遊んでたんだ?」
「えっ、トーキョー?
そうだな…、カラオケとか、テレビゲームとか…」
「なんだよそれ、どっちも初めて聞いたぞ
教えろよ、やってみたい」
「いや、やってみようにも出来ないんだよ
まあ、歌を歌ったり指でいろいろ叩いたりして遊ぶんだよ」
「なんだ、結構原始的な遊びじゃないか
よし、ネリのやつのとこに行ってみようぜ
プリーストの遊びを聞いてみよう
あいつ昨日だいぶ飲んだからな、起きてればいいけど」
(原始的じゃないんだけどな…ま、ライドンには通じないか)
ネリは同じビジスの宿に泊まっていた。
コンコン。
「はい、誰ですか?」
「ライドンだ、シュンもいる
ネリ何してるんだ?」
「ひいっ!」
ガタッガタタッ。
ネリは何か慌てたように音を立てている。
「おいっ、どうした?」
「お二人…昨日わたし何か失礼なことしましたか?
あんまり覚えてないのですが、なんとなくそんな気がして…」
「ああ、シュンのことぶっ叩いてたよな!
ははは!」
「おい、ライドン」
「あーっ、すみません、シュンさん、わたし自分でも何してるかわからなくて…」
「いいから開けろよ、遊ぼうぜ
すごろくとか札絵もあるんだよ」
ガチャリ。
ネリは服もしっかり着替え終わって髪も綺麗な"おさげ"を結っていた。
「お二人とも、いろいろありがとうございました
考えたんですが、やっぱり一旦クロニアに行こうかなと思って
花園が無いなら、タスクもそっちの方が良さそうだから」
「えっ、そうなの?
クロニアか…」
「シュン、クロニア面白そうだよな
おれたちも行かないか?」
「でもさ、おれたちって一応正規の連盟律動師だろ?簡単に移動してもいいのかな?」
シュンの感覚だと所属は重要なことに思えていた。
「まあ、一応ボスには伝えなきゃだけど、師匠が呼んでるって言ったら大概のことはOKな気がするけどな…」
「ライドン、ジルさんはクロニアに来いとは言ってないじゃん」
「バレたか」
ふふふと笑うネリ。
「プリーストはあまりそういうの厳しくないんです
もともとタスクが少ないから
モンスターポイントもないせいで、農業タスクばっかりだったんです
だからこの間の開墾タスクは上手に出来ただけ
それ以外わたしは本当に大したことないんです」
ネリは大いに謙遜している。
あれだけたくさんのリズムを司れて、よく言えたものだ。
「どっちにしろ4日後にはジルさんのタスクがまた出来ますし、ひとまずそこに戻ろうかなって
雨だから今日はお休みしようかと思ってますけど」
「そっか、じゃあ朝だけ一緒にどこかで食おうか
ガンボに行こう、朝ならちょうどいいから」
カフェガンボは軽食をリーズナブル価格で出してくれるテンポス律動師御用達のお店だ。
ステラのよく行くカフェ"ヴィスラ"とはまるっきり雰囲気が違う。
三人はそれぞれコートを羽織り、ガンボに出かけた。




