表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/30

第1話 転生、ビートランドへ

ライブが終わって、拍が止んだ。


最後の曲が終わった瞬間、

シュンは「今日はうまくいった」と思った。


完璧じゃない。

でも、走らなかった。

ヨレなかった。

何より、気持ち悪くならなかった。


とある高校の軽音部。

下北の小さなライブハウス。

天井は低く、照明はやたら熱い。

楽屋の奥はいつも変な匂いがする。


「ドラム、今日よかったじゃん」


ギターのタカがそう言った。

ベースのマサヤは無言で親指を立てた。


シュンは笑って、スティックをかばんに放り込む。

褒められることには慣れていた。


部内では、だいたい一番。

叩ける曲も多い。

フィルも結構な種類入れられる。


――でも。


自分の演奏をあとで聴くと、

いつもどこか落ち着かない。


微妙に走る。

うるさすぎ。

雑に聴こえる。


「まあ、だいたいこんなもんだろ」


そう言って、考えるのをやめるのも、もう癖だった。


ライブハウスを出ると、夜の空気が冷たかった。

外の自販機でジュースを飲んで、解散。


帰り道、さっきの演奏を少しだけ聴く。


やっぱり、全体的にどうも落ち着かない。


「……最後ちょっと外れてるじゃん」


そう呟いた瞬間だった。


足元がぐるんとくるった感じ。


音もなく、光もなく、

ただ“拍”だけが外れたような感覚。


次の瞬間――

シュンの視界は、白で埋め尽くされていた。



「――聞こえてる?」


高い声。


やけに近い。


「ねえ、ちょっと。聞こえてるってば」


白がゆっくり薄れていく。

代わりに見えてきたのは――


小さい。


とにかく、小さい。


人の形をしているが、

自分の腕よりも短い身長。

ふわふわ浮いている。


「……誰?」


「誰、じゃないでしょ」


小さい少女は腕を組んで、胸を張った。


「私は女神。

この世界の拍を管理してるの」


「は?」


「め が み」


一拍置いて、少女は続けた。


「あなたは今、異世界に召喚されました。

ここは、ビートランドよ」


シュンは周囲を見渡す。

草原。

空。

遠くに城。


まるでテンプレみたいな異世界。


「……俺、死んだ?」


「死んでない。

ちょっとズレただけ」


「ズレた?」


「そう。あなた、ライブの最後、

一瞬だけ拍を外したでしょ」


(なんで知ってるんだ)


言い返せなかった。


少女は満足そうに頷く。


「そのズレに反応して、

こっちの世界と同期したの」


(意味がわからん……)


「大丈夫。

説明するのが私の仕事だから」


少女は胸を張って言った。


「私はユウナ。

この世界の調整担当」


その瞬間、

ユウナの足元にふっとドラムセットが現れた。


スネア、タム、シンバル。

見慣れた配置。


「え、ドラム?」


「そう。

この世界では、拍が力になる」


ユウナは意気揚々とスローンに座り、、

足をばたつかせた。


届かない。


バスドラに、まったく届かない。


「……」


「……」


「ちょ、ちょっと待って。

椅子下げるから」


最大まで下げても、届かない。


「……理論上はね」


ユウナは咳払いをした。


「フォームが整っていれば、

すべての能力が上がるの」


「説得力ないんじゃ、、?」


「うるさい!」


ユウナは逃げるように浮いた。


「とにかく!

あなたはこの世界では、

かなり強い部類よ」


そう言って、指を鳴らす。


シュンの視界に突然半透明の表示が浮かびあがった。


レベル:120


「え、結構高くない?」


「この世界の基準だとね。

モンスター、普通に倒せる」


「マジで?」


「マジ」


ユウナは少しだけ真剣な顔になる。


「でもね、シュン。

あなたの叩き方――

すごく危ない」


「……」


「力任せ。

無駄が多い。

長く持たない」


胸の奥を、指で突かれた気がした。


「だから、調整してほしいの」


「誰が?」


「あなたが」


ユウナは言った。


「この世界の拍は、

ズレ始めてる」


遠くで、

重い音が響いた。


太鼓のような、

地鳴りのような。


「まずは、あれを倒してきて」


草原の向こうから、

異形の影が近づいてくる。


シュンの両手にはいつの間にかスティックが握られていた。

少し素振りをしてみる。


――叩ける。

この世界なら。


そう思った瞬間、

ユウナが小さく呟いた。


「……その叩き方のままじゃ、

いつか壊れるけどね」


シュンは聞こえないふりをして、

前に出た。


拍が、鳴り始める。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ