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ごめんなさいね、もう聖女やってられないんですよ   作者: まんぼうしおから
第二章・遠ざかるスローライフ

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64・こんなに暗黒騎士なのに、皆は聖女だと言う

 昼食を食べながら詳しい話を聞こうかとも思いましたが、今食べたばかりなので胃袋的に厳しいものがあります。金銭的になら余裕ありありですが。


 なので適当にカフェを選んで、そこの一番奥でお茶することにしました。

 日差しがあまり当たらない場所にするという気遣いです。

 そういった気遣いを見せれば多少は向こうの態度も軟化する……といいなぁ……ってくらいの軽い気持ちでやってみました。吸血鬼の心理とかわかりませんが、我々とそこまでかけ離れたものでもないでしょう。


「……光が当たりにくくて、良い席ですね……」


「そう言っていただけて良かったです」


 仮面を外し、冷たいオレンジジュースに口をつける青白い表情に、さして変化無し。

 眼鏡の下の瞳にも変わりなし。

 期待などあまりしてませんでしたが……このくらいで態度が柔らかくなるかもと、淡い期待を抱いていた私が甘かった。やはり吸血鬼は吸血鬼でした。


 まあ、いいです。


 淡々と話し合いしたいならこちらも淡々と応対しましょう。

 それが彼女にとっても楽かもしれませんから。朗らかなコミュニケーションが苦手な人みたいですしね。


「さて」


 紅茶をすすり、こちらから話を切り出します。


「何かあったのですか。あのお姫様に」


 顔をしかめ、ナーゼリサさんが黙り込み、


「……窮地という程でありませんが……軽視するには、少し、重い事態です」


「政治劇なら付き合えませんよ。あまりにも専門外です」


「いえ……これから話すのは、あなたの専門分野です。聖女としての」


「呪い師ですよ私。いやまあ、実を言うと暗黒騎士なんですが」


 無駄だと知りつつ訂正します。


「そうですか。どれでも構いません。……あなたがどう名乗るかは、あなたの好きにして下さい……。私が頼りたいのは、あなたの肩書きではなく、浄化の力なので……」


「それ、聞いたら後には引けない類ですか?」


「はい」


 それを聞いて、リューヤ達を順番にぐるりと見渡します。

 うん、顔を見た感じ、誰も嫌がってませんね。不敵というかふてぶてしいというか。見るまでもなくわかってましたけど。


 頼もしい仲間達の勇姿を確認し終わったところで、話の続きを聞きましょう。



「呪い?」


「はい。石化の呪いです」


「かなり凶悪なやつじゃないですか」


 呪いはとにかく多彩でピンキリですが、その中でも、石化は呪い自体も使い手も上位に該当する危険なものです。


「吸血鬼の王女を害するなら、そのくらいじゃないとそりゃ効かないでしょうね」


 腕組みして、うんうんとサロメが納得して頷きます。


「それなのに、こんな悠長なこと(お茶会)してていいの?」


 ギルハの言うことももっともですが、それは愚問でしょうね。


「致命的じゃないんだろうさ。だからって放置もしておけないと。腕か足の一本ってとこか。でもみすみす喰らうもんかね? 不手際でもあったかな?」


 リューヤのその読みに、ナーゼリサさんが動揺しました。

 彫刻みたいな白く美しい死人の顔で驚かれると、なんだか驚きぶりが過剰に見えて滑稽さがありますね。


「……おっしゃる通り、姫様が石と化した箇所は、右腕です。……私が防ぎ切れなかったが故に……」


「それは、つまり……あなたを庇って、と」


「はい。私では太刀打ちできない程の強い呪いを、とっさにスィラシーシア様が、右手で受けられ…………私の失態です。守るべきお方に逆に助けられ、呪いを解くこともかなわず……」


 言いながら落ち込んできたのか、目を伏せ、がっくりと肩を落としています。


「護衛が守られるとか笑い話にもならないわな」


「うぐっ」


「的確に心の傷をえぐるのやめなさいリューヤ。……申し訳ありませんね、あの子には悪気はないんですよ。ただ性根がドロドロに腐っているだけなんです」


「おま、言い方ってもんが」


「ちょっと黙ってろ。とりあえず、宿だけ先に決めたいのですけど、よろしいでしょうか?」


「は、はい。それでいいです」


 リューヤにもうこれ以上喋らせるわけにはいきません。

 あなたね、普段私とやりあっているせいで感覚が麻痺してるけど、そんな容赦のないダメ出ししたらいけませんよ。心って脆いものなんですよ?





「という訳でお邪魔します」


「……別に、いずれ治るものではあるのですがね」


 私達が泊まることにした安宿とはランクの違う、高級宿の一室にて。

 青銅色の姫君が、我々を歓迎……とまではいきませんが、まあ快く面会してくれました。困り顔してますが。

 バーゲンは宿の部屋に置いていきました。まああんなの盗む輩もいないでしょう。いたら怖いです。


「このような無様を、あまり晒したくはなかったのだけど……。しかし、臣下の気遣いを無下にするのも、それはそれで心苦しいものがあるわ。だから、こうして診察を受けることにしたの」


「も、申し訳、ありません……」


「ふふふっ。冗談よ」


 床に正座してかしこまってるナーゼリサさんが面白いのか、無事な左手で口を押さえて笑っています。

 が、反対側の腕は灰色に染まり、固くなったままぴくりとも動いていません。


「やはり、強いですね。それは」


 作り物のごとく不動の腕を指差し、私はそう言いました。

 石化したその右腕から漂う悪しき力は、あのオリハルコンの塊にかけられたものとどっこいどっこいに感じます。


「まあ、確かに凶悪な呪いではあるけど、対処の仕様がないこともないわ。毎夜、月の光を浴びせていれば、遅くとも、二十日ほどで元の色合いと柔らかさに戻るはずよ」


「あら」


 私いらないじゃないですか。


「それでも不便は不便ね。元に戻して貰えるならそれに越したことはないわ。ふふ、吸血鬼が聖女に癒してもらうというのもおかしな話だけど」


「聖女じゃない。私、呪い師のふりした暗黒騎士。聖女違う違う」


「何だその素朴な喋り」


 胡散臭いものを見る目をリューヤが向けてきました。


「このほうが本心が伝わるかもと思って」


「逆効果やろ」


「…………では、暗黒騎士であるあなたにお願いするわ。ただ、オリハルコンのような目に合わせるのだけはお断りよ?」


 ほら信じてもらえた!

 やってみるもんですよ。やらなきゃ何事も始まらないんですよ。挫折や失敗を気にしてたら前に進めないし未来は作れないし夢はかなわないんだから!


「軽く流されてるだけだね~」


「あしらわれてるだけだね~」


「お黙りなさい」


 余計な口を利いた双子を黙らせたところで治療開始です。

 でも、吸血鬼に浄化の魔法なんてかけていいんでしょうか……? どうなのかな?





 ──試しにかけたらシュウシュウ湯気みたいなのが出て、腕にちょっぴりヒビが走ったので慌ててやめました。

 激怒されるかと思いましたがスィラシーシア様は寛大に笑って許してくれました。ナーゼリサさんは悪鬼の表情でしたが。

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