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ごめんなさいね、もう聖女やってないんですよ   作者: まんぼうしおから
第三章・祖国没落

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148/148

148・トラブルも楽しみも、次から次へと

もっと早く終わらせる予定でしたが

思いの外延びてしまいました


ということで、最終回です

「やれやれ」


 早かったですね、へりくだって反省している者の仮面が剥がれ落ちるの。


「結局はこれですか。権力であれ、暴力であれ、力に頼るしかできないお坊ちゃん気質は変わらなかったようですね。嘆かわしい」


「余計なことは言わないほうがいいぞ。そこの小僧がどうなってもいいのか?」


「どうなってもいいのか……ねぇ」


 何をどうできるって言うのでしょうね。

 こんな、大して強くもない、威圧感もまるでない三匹で、リューヤを叩きのめせるはずないんですけど。

 喜劇ですねこれでは。


「ずいぶんと余裕だが……まさか、そいつがどうなろうと構わないとか、そんなことは言い出さないよな? 仮にも聖女さまが」


 怪訝な顔をする王子さま。

 私が少しも狼狽えることなく、あまりにもどこ吹く風すぎる態度なので、さすがに怪しみだしたようです。


 けど、怪しみはしても、不安は抱いてませんね。自分のほうが優勢な立場だと勘違いしてるので。

 実際は崖っぷちなんですが。

 それと、私もう聖女やめてるんで。


「いえいえ、そのような薄情なことはありませんよ。ただ」


「ただ? ただ、何だと言いたいんだ?」


「このお三方では、荷が重いのではと、そう思いまして」


「荷が重い? ハッ、ハハ、これは驚いた。そうかそうか、荷が重いときたか! これはお笑いだ! ハッハハハハハハ!!」


「そんなにおかしいですか?」


 よほど面白かったのか、フールトン王子はお腹を押さえて笑っています。


「ハハハ、久しぶりだな、こんなに笑ったのは……」


 その言葉は本当だったらしく、涙が出るほど面白かったのか、指で目をぬぐっています。

 よくそんなに笑えるものだと思いましたが……いや、無理もありませんね。牢獄みたいなところにいれば笑う機会なんてなかったでしょうから。

 あるのは憤りと悲しみくらいのものでしょう。


「よろしければ、もっと笑ってもいいんですよ? もう心から笑えることもないんですから。これからずっとね」


「はぁ?」


「申し訳ないのですが、あなたの要望は何一つ呑めません。そして力ずくで事を運ぶこともかないません。諦めて下さい」


 王子は、一瞬ポカンとしていましたが、すぐに気を取り直すと、


「それは、まさか、本気で、言ってるのか?」


 噛んで含めるように、フールトン王子は、たどたどしく静かに聞いてきました。

 ここまで徹底的に拒絶されるなんて、これっぽっちも想定してなかったのでしょう。


「はい」


「いや、はいじゃない。はいじゃないぞ。わかってないだろお前」


「いえ、わかっておりますよ、王子さま」


「そんなわけあるか!」


 我慢できず声を荒げ、慌てて口を抑えるフールトン王子。

 これから血生臭いことをやろうというのに、大声で人を引き寄せてはまずいと思ったようです。


 深く呼吸して、自分を落ち着かせてから、王子は口に当てている手を離し、また話を続けました。


「だとしたら、だ。つまり、そのガキがひき肉にされてもいいってことか? わかってるのか? 脅しだとタカをくくってるなら、後悔することになるぞ?」


「やれるものならどうぞ」


 即答。

 言葉が終わるや否や、間を空けず、すぐさま、きっぱりと答えました。

 もうあなたとこれ以上の問答はしたくないと、そう示したのです。


「…………馬鹿が」


 王子は、吐き捨てるように一言だけ言うと、

 リューヤのほうに向けて、無言で腕を振りました。





「なるほど、確かに馬鹿だったな。ただしあんたのほうがだが」


 息ひとつ切らしていないリューヤが、王子に対してそう告げました。


 路地裏の一対三。

 ハナからわかっていましたが、時間などさしてかからず。

 勝敗も同様に、既に始めから決まりきっていました。


 ところどころ剥がれた石畳の路上に転がる、三体の鬼人。

 当然、三体とも息絶えています。

 首や手足が胴体から離れ、流れる血で路上を赤く染め、ぴくりとも動きません。


 一方。

 当然ですがリューヤは無傷です。かすり傷すら負っていません。


「後始末が大変ですね」


「そこらに適当に埋めたらいいさ。スコップならお前のぶんもあるぞ。なんなら祈りでも捧げてやればいい。次は真人間に生まれますようにってね」


「埋葬の魔法とかありませんかね。あったら是非とも知りたいものです」


「ないこともないんじゃないか。あるとも思えないが」


「どういうことですか」


「さあ」


「さあって……」


 出ましたね。

 たまにですが、リューヤは私に対してだと、このように曖昧で適当なことをのたまうのです。


「な、なんだこれは」


 そんなほのぼのとした空気の私たちとは真逆に、フールトン王子は唖然としていました。

 震える指で、私や、リューヤや、倒れている手下の死体を忙しなくランダムに指差しています。


「これは悪い夢なのか……? どうして、何がどうなればこんなことになる? 俺に幸運が巡ってきていたはずなのに……なんなんだよぉ!」


 ぼさぼさの金髪をかきむしり、身をよじりながら現実の厳しさに打ちのめされているその姿は、哀れさすらあります。

 とはいえ自業自得ですがね。

 そんなうまくいくほど人生甘くありませんよ。



バサッ



 明暗別れた我々の頭上に、不意に何かの羽音と、暗い影が差しました。


「──こんなところでまで、一悶着起こしていたのね。さすがは暗黒騎士ってことかしら?」


「あら、お久しぶりですね、サロメ」


 その影は、大きな翼をはためかせた、魔神サロメでした。

 なんか身体のパーツが増えてるようにも見えますが、まあ、魔神なんだからそのくらいの変なことはあるでしょう。


「おひさ~」


「迎えに来たよ~」


『再会、実に喜ばしい』


 さらにその両脇には、加速減速のスキル持ちである双子を抱え、肩には謎生物バーゲンまで乗せています。


「迎えにって……おい、待てよ。留守番どうしたんだよ」


 私も同じことを聞こうとしたのですが、リューヤに先を越されました。やはり素早いですね。

 ……決して私が鈍いとか重いとかではありません。決して。


「それなら心配いらないわよ。ほら、あの、貴女たちと縁のあるお金持ち、そこの人が代わりに管理してくれるみたいだから」


 ああ、ガルダン家が動いたのですね。なら大丈夫でしょう。


「迎えにと言いましたが、まだコロッセイアの領地に入る手前ですよ? 早すぎはしませんか?」


「それが、急いでるみたいでねー」


「急いでる?」


「あ」


 リューヤが何かに気づき、顔を向けた方向。

 私もつられて顔を向けると、そこには、



「……ご機嫌よう、聖女さん」


「お久しぶりです」


 日傘を刺した、銀髪の姫君と黒髪の従者。

 吸血鬼が統治する、夜の国の王族。

 スィラシーシア・ル・リュルドガル様と、ナーゼリサさん。



「よっ、まだそんないかつい格好してんだな」


「個人の自由ですから、いいじゃありませんか別に」


 焼けた肌の、金髪の姫君と茶髪の従者。

 熱気と闘争の国、コロッセイアの王族。

 ユーロペラ・サファ・コロッセイア様と、リマさん。



 どこまでも正反対な二組が、とても彼女らに似つかわしくない路地裏の一角に、姿をさらしていました。

 どんな風の吹き回しなのでしょうか。


「旅の最中、こうして横入りするのも気が引けるのだけど……ただ待つのも時間の無駄かと思って、こうして迎えに来たの」


「こいつの国がどうにもキナ臭くなってきやがってよ。しかもこいつの取り分のオリハルコン、奪われたらしくてな」


「奪われたの……ですか? また大胆な真似をする人もいますね。あなたの私物を盗むとは」


「どちらも犯人の目星はだいたいついてるのだけど……同時に片付けるとなると、ちょっと人手が足りなくて。そこで手を貸してもらおうかなと」


「それは願ったりかなったりですね。こちらも、経験を積ませたい新顔が何名かおりまして……」



シュッ



「ひいっ!」



どさりっ



 風を切る音。

 悲鳴。

 何かが石畳に倒れる音。


 三種の音のした方向に全員の視線が集まると、すっかり蚊帳の外にいたフールトン王子がへたりこんでいました。

 その足元のそばには、一本の剣が突き刺さっています。

 どうやら、先ほどのシュッという風を切る音は、リューヤがその剣を『隠匿』のスキルで飛ばした音だったようです。こっそり逃げようとしたのを足止めしたのでしょう。

 で、悲鳴を漏らして、尻餅をついたと。


「どこに行こうとしてんだよ、王子さま」


「あ、あわわ」


 恐怖におののくフールトン王子。

 逃げられるかもしれないという希望を潰され、顔は(スィラシーシアさんほどではないですが)血の気を失い青ざめ、歯をカチカチと鳴らすばかり。


「そう怯えなくてもいいですよ」


 真顔のリューヤを手でやんわり制止し、私はニッコリ微笑んであげました。


「私は性根がとことん優しいですから、たとえ暴力をかさに脅しをかけてきたクソ王子だとしても、慈悲を与えてあげることにためらいはありません」


「えっ。い、いいのか?」


「はい」


「感謝する! ああこの通り感謝するとも! なにもかも水に流す!」


 それは私が言うセリフじゃないですかね。なんであなたが流す側なんですか。

 まあ、いいでしょう、そのくらい。


「も、もうあなたの前には姿を現さない! こんな不吉な石なんぞもういらん! だからおさらば──」


「覚えていますか?」


「は?」


「ダスティア嬢が私にビンタしようとして、腕が滅茶苦茶になったのを」


「あ? あ、ああ、そうだな、そんなこともあった。あれはあの女の自業自得だよ。ああなって当然だ。当然の代償さ。根も葉もない言いがかりをつけて、馬鹿げたことだが、君を追放しようとしたんだからな。そ、それがどうしたんだ?」


「代償──ですか」


「そ、そうだよ、代償だとも」





「でしたら、あなたにも代償を支払ってもらわないと」





 私が、微笑みながらそう言うと、

 フールトン王子が、凍りつきました。


「ダスティア嬢からは頂きましたが、あなたからの代償はまだ頂いておりませんよ、フールトン王子」


「い、いや、待って」


「だったら俺のぶんももらってくれよクリス。そこらで寝転んでる奴らをけしかけられた代償をな」


「くふふ、そうですね、そうしましょう」


 私は、拳を握りしめました。


「いや、待って、許してくれ。俺は反省してるんだ。王族なんだ。こんな無慈悲なことをしてただですむと──」


「大丈夫、死なない程度にしておきますから」


 拳を振りかぶります。

 本気では殴りませんけどね。

 あくまで演出です。恐怖を煽るための。


「そ、それでも聖女かよぉ!?」


「ごめんなさいね」


 狙いを定めます。


「もう、聖女やってないんですよ」


「うわ、やめて、やめてくれ! 嫌だ、嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だやだあああ!!」









「……さあ、行きましょうか」


 元聖女であり、今では暗黒騎士である私の人生は、コロッセイアの大地のように、まだまだ夏真っ盛りです。

 果たして、今度は何が手ぐすね引いて待ち構えているのやら。



「楽しみですね、リューヤ」


「やれやれだ。どうしてこんな、トラブルを引き寄せるケツデカと腐れ縁になったもんだかな」


 私の拳がうなります。

 リューヤが、相変わらずよくわからない、モヤのような避け方をします。


 いつかこの拳をお見舞いしてあげるから、覚悟しておきなさい、リューヤ。

色々と詰め込みすぎてとっちらかった連載でしたが

最後だけは綺麗に終わらせてみました

いかがだったでしょうか?


では、また別の作品で

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― 新着の感想 ―
終わっちゃったよぉ…悲しい
更新ありがとうございました。お疲れ様でした。 楽しい時間をありがとうございました。
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