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ごめんなさいね、もう聖女やってられないんですよ   作者: まんぼうしおから
第三章・祖国没落

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141/141

141・潰える悪意

「がっ、あぎゃああああ!!」


 おー、燃える燃える。

 事前に油でもぶっかけてたのかってくらい、いい感じに燃えてますね。いや実に清々しい。

 心が洗われるような絶叫です。


 女鬼神は苦しみもがき、両腕をバタバタさせて、思わず掴んでいたリューヤを放り投げてしまいました。


「おっと」


 普通の人ならそのまま壁か床にたたきつけられるでしょうが、そこはリューヤです。


 宙で、くるりと柔らかい一回転。


 草むらで楽しくスキップでもするかのように、苦もなく、固い床に着地しました。

 これまでに何度も見た、美しさすら感じさせる身のこなしです。


「反対側も燃えたから、これでバランスよくなったろ」


「酷いこと言いますね」


「言うさ。いつ握り潰されてもおかしくない目に合わされてたんだぞ。そのくらい言う権利はあるね」


「はいはい、あなたの主張はわかりましたよ。それよりも、そこの生焼けに引導を渡しましょう」


「だな」



「あぁあがががーーーー!!!」



 激しい絶叫。

 ほとばしる光。


 女鬼神が、螺旋の光が宿っている右手で──自分の顔面をビンタしました。

 光で炎を打ち消そうとしたのでしょう。

 いくら炎が消えないからとはいえ、かなりの無茶です。しかしやらなければそのまま焼かれ続けるのもまた事実。


「はぁ、はぁ…………うぁああっ……」


 ぶん殴るのではなくビンタ程度で済ませはしましたが……あの螺旋の光が顔面にぶつかったのです。

 軽いダメージのはずがありません。

 ぐらりとよろめき、腰が落ち、壊れてない右膝のほうも床につきました。

 正座のような姿勢になっています。


 チャンス。


「……我が身は朽ちず……ただ在るのみ……無敵無類の……」


 彼女のダメージが残っている今のうちに、もう一気にやってしまいましょう。

 詠唱をつぶやきながら、決意を固めていきます。


 最上位の守護魔法の詠唱を。


「終わりにしましょう!」



 ダンと床を蹴り、私は走りだしました。



「ぐがが……よ、よくも、よくも……よくも私に、こんな真似を…………!?」


 守護魔法を唱え終え、黄金色にきらきら輝きだした私がリューヤとオリハルコンのほうに駆け出したのを見て、まずいと思ったのでしょう。


 何をされるのかはわからないが、何かはされる。

 だから止めねば。


 治りかけの左膝を無理に動かし、光をまとう大きな義手を振るって弾き飛ばそうと、私に殴りかかる女鬼神。


「っちゃあ!」


 大きな鋼の右拳を迎え撃つは、己の控えめな右拳。


がぎぃいいんっ!


 結果は引き分け──いえ、違いますね!


「……な、なんですってぇ!?」


 女鬼神の、自慢の義手。

 その右拳に、中指の付け根の辺りにヒビが入りました。


「……それくらいで済むとは。やはり、最初からこれを使わなくて正解でしたね……」


 個人を守護する最高レベルの魔法──『不落不抜』

 使用している間は魔力を消耗し続けるため、長時間使えるものではないです。使うのなら、ここぞという時でなければ。


 しかし、それにしても──この義手の固さと、光の螺旋の威力。

 まさかここまで手強いとは。


 もし、初っ端から不落不抜を使っていたら……攻めきれず魔力を使いきりそうになり、破れはしないにしても、かなりの窮地に追いやられていたかもしれません。


 短期決戦を避けたのは、正しかった。

 自分の選択が間違っていなかったことを実感しながら駆け抜け、すぐにオリハルコンのもとへ行き──


「ていっ!」


 気合いの声と共に、走る勢いを殺さずそのまま乗せた飛び膝蹴りをオリハルコンに叩きつけました!!



 砕け散るオリハルコン!


 このフロアに響く炸裂音!



「おお!」


 嬉しそうなリューヤの声が聞こえました。

 私の膝が、オリハルコンを見事叩き割ったことへの、感嘆の声です。


 クフフ、まあ、このくらい容易いもの──


バチバチバチバチィィィッッ!!!


「ぐうううっ!」


 砕けたオリハルコンの破片から一斉に、強烈な雷撃が気を抜いていた私に!

 これはきつい……初めてですよ、これほどの雷は!


「ハハハ…………アッハハハハハ! もう忘れたの!? 魔神のオリハルコンは、破壊行為に見合った反撃をすると……! いい気味だわ! そのまま、黒焦げの豚になってしまいなさい!」


 さっきまで、苦しみ、怒り狂っていた女鬼神が、絶好とばかりに私を罵倒してきました。


「な、なんですって……!?」


 よりにもよって豚扱いですか。これは……許せないにも程がありますね……!


「クリス、俺が──」


 『隠匿』のスキルで私にまとわりついてる雷を取ろうというのでしょう。

 リューヤがこちらに寄ろうとしましたが、それはよろしくありません。こちらは私がなんとかします!


「しなくて結構! あなたはそこのデカブツを!」


 私が制すると、リューヤはオリハルコンの短剣を拾い上げ、女鬼神へと跳びました。

 そう、それで良し!


「ぬぅんっ!」


 私は私が助けます!

 自らの胸元をドンと拳で叩き、魔法の雷を払い飛ばしました!


「クフフ……あなたの真似をさせてもらいましたよ!」


「こしゃくなことを……! ああ、今度は小僧がちょこまかと……これでも喰らいなさい!」


 女鬼神は、リューヤの動きを捉えることは難しいと判断したのでしょう。

 悪態をついてから、口を大きく開け──襲いかかってくるリューヤへ熱線を放ってきました!

 危うし!



 かと思ったら、あっさりかわしました。これにはびっくりです。なんで?


「ば、馬鹿な、なんでなの!?」


 ですよね。

 敵ながらその気持ちはわかります。


「誰が当たるかバカ。喋りながらこっそり狙い済ましてたのバレバレなんだよ」


 はー、そういうことらしいです。

 私にはわかりませんでしたが、流石はリューヤですね。


「だ、だけどそれがわかったところで無駄なこと! ナイフ一つで何ができるというの! この最強の肉体に!」


「もう最強でもないだろ。そこのオリハルコン壊れたし」


「おだまり!」


「ぎゃあぎゃあやかましいもんだな。だったら……何ができるか教えてやるよ。その身体にな」


 短剣を逆手に構え、リューヤが、滑るような動きで熱線を避けながら女鬼神との距離を詰め、


「潰れろっ!」


「ひょい」


 あの、幾度となく見てきた、モヤのような動きで鋼の拳を避けると、その拳を足場に、女鬼神の額へと──


「させるものですか!」


 あまりにリューヤが自信満々で、恐れをなしたのでしょう。

 やれるものならやってみなさいという威勢の良さもどこかに消え去り、女鬼神は、とっさに左腕でガードしました。


 さすがはオリハルコン製です。

 チーズに刃物を突き刺すように、何の抵抗も見せず、刃が、半分以上腕の中に埋まりました。

 ですが、あの巨体がそんな傷くらいでどうにかなるはずがありません。


 そう、ただの傷なら。


 女鬼神は、ガードしていた腕を振り、リューヤを払い落とそうとしましたが、間に合いませんでした。

 それより先に、リューヤは刃を引き抜いてから女鬼神の腕を蹴り、悠々と跳び退いたからです。

 早さでリューヤに勝つのは無理ですね。


 しかし、彼女からしたら、彼女の認識では、己の身にかすり傷しか受けてないのも確かです。

 最初こそ焦りも見えましたが、それも一瞬のこと。

 すぐに、悪党らしい嫌な笑みを見せてきました。


「ふん、これが何だと──」


 言葉の途中で、

 女鬼神の顔色が、変わりました。


 左手で胸を押さえ、まるで呼吸でも止まったみたいに、ひどく苦しんでいます。

 まあ、同じくらい大事なものが止まったことには変わりありませんが。


「お、効いたか。ま、生きてんだから、効くに決まってるけどな。でも、そのわりにはまだ元気だな。オリハルコンの力がまだ活きてるのかね?」


 立っていられないのか、両膝をつき、倒れないように義手で床に手をついています。


「……な、なぁにおぉ……」


「何をした、ってか? 冥土の土産だ。教えてやるよ」


 自分の胸の真ん中辺りを指差し、リューヤが言いました。


「俺は二つスキルがあってな。一つは何でもしまえて何でもだせる『隠匿』で、もう一つが……」


「ま、まさ、か」


「自分の身に起きてる異変でもうわかるだろ? 『心臓殺し』──どんな小さな傷でもいいから、傷をつけることができれば、そいつの心臓を止められる」


 ふぅ、と、リューヤが息を吐きました。

 一呼吸置いたのではありません。

 疲れからです。


 彼のスキル心臓殺しは、体力や気力(この場合は精神力ではなくオーラのことです)をかなり使うらしく、一日にそう何度もやれるものではないのだとか。


「そ、そんな、ふざけた……チートじゃないの……」


「そこまで理不尽じゃないさ。使い放題ってんじゃないからな。……で、いいのか? そんな、のんびり話してる場合じゃないだろ?」


「…………ッッ」


「そうですね。私を差し置いて二人で仲良くされても困りますよ」


 愕然としている女鬼神の前に、私は立っていました。

 リューヤとの会話に夢中になっている間に、気持ち早足で近寄っていったのです。


 彼女の鬼面には、死相が浮かんでいました。私にたてついた方々がよく見せていたのと同じ面相です。


「一応、聞きますけど……何か、言い残すことは?」


 聞きたくもないのですが、煽りの意味も込めて聞いてあげます。


「……………………く」


「く?」



「──くたばりやがれ!!」



 最期の力を振り絞ったであろう、義手の一撃。

 けれど、死にかけの身で十全な威力など出せるはずもなく。


 さっきと同様、私の拳に迎え撃たれると──しかし、結末はまるで違い──今度は、ひび割れ、引き裂かれるように砕けると、

 その数秒後、

 今度は、ついにこの忌々しい黒幕の胴体が──私の蹴りの前に、血しぶきすら出ることなく消し飛びました。

そろそろこの物語も終わりが見えてきました。

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