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ごめんなさいね、もう聖女やってられないんですよ   作者: まんぼうしおから
第三章・祖国没落

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134/141

134・反撃はひそやかに、しかし大胆に

「──そういうことで仕返しがやりたいのです。以上。ではよろしくお願いしますね」


「うむ、任せておけ。どいつもこいつも我が愛刀の錆にしてくれる」


「くふふっ、流石は火乱さん。こういうときだけは頼もしいですね」


「俺も期待してるぞ」


「そ、そうか。いやー、お前にそこまで言われたらこの俺も、一肌、いや二肌くらいは脱いでやらねばな。なんなら三肌いくか?」


「脱ぎすぎだろ。そこまでやったら骨まで見えるって」


「待って待って」


「どうしました、ギルハ?」


「仕返しはわかったし、別に面白そうだから乗ってもいいけどさ……その、具体的にどう攻めるかって、プランはあるの?」


「そんなのいります?」


「いるよ!」


 珍しくギルハが大声を出しました。

 かなり大雑把でのんきなこの子にしては実に珍しいことです。



 今回、この町で我々がやろうとしていることは、あのヌァカタ神とかいう鬼神の信者を撃滅にすることに他なりません。

 根絶やしにするのは無理だとしても、こんな機会はそうそうないので、根こそぎやっておきます。


 最低でも『祝福』とやらの元を断っておきたいところですね。

 あの裂け目が本当に鬼神の仕業だとしても、なんらかのカラクリがあるとみていいはずです。


「そうなの?」


「考えてもみなさいギルハ。もし、その神がそんなこと平然と何度もやれるなら、とっくにエターニアはボコボコにされて落ちてますよ」


「あ、そっか。それもそうだね」


「どんなやり方かはわからんが、そうそう立て続けにやれるもんじゃないのは確かだ。大きな代償がいるのか、もしくは『溜め』の期間が必要か、何らかの力を借りているのか」


「なので私達は、その前に、この町が丸ごと鬼神の信徒の手に収まる前に、叩き潰したいわけなんですよ。わかりましたか?」


「いやだからそこまではわかったよ。僕が言ってんのはさ、その叩き潰す手順を詳しく教えてよって話なの。わかる?」


「そりゃ暗くなってから殴り込みですよ。どこを本拠地にしてるかはリューヤに調べてもらえばすぐわかりますからね。あとは、あなたの針に活躍してもらえばいいだけの話です。おわかり?」


「早い話が僕頼みじゃん」


「そうですよ? だから、手順もプランもこれといって別に必要いりません。後は、決してこの町の人々に素性をバレないようにすることですね。これは徹底して下さい。でないと大変な事態になりかねませんから」


 我ながら無茶をやるものだとも思いましたが……。


 このタイミングで、この状況。

 やはりこれは、そういう運命なのではないでしょうか。「ここでやっとかないと後々まずいことになるから今やっとくといいよ」という、天の与えた巡り合わせ──それを感じたのです。


 まあ、根拠などない、ただの予感に過ぎませんが……しかし野放しにしておくのも気に入りませんからね。

 ポーション販売で荒稼ぎのついでに行き掛けの駄賃といきましょう。あの喪服女に吠え面かかせてやるのです。


「正体知られたら大騒ぎかぁ。有名人はつらいね?」


 楽しげにこちらを見るギルハ。

 私とリューヤは苦笑するしかありませんでした。





「あれが例のアジトですか」


 深夜。


 私、リューヤ、ギルハ、火乱さん。

 全員、黒ずくめです。

 できるだけ閑古鳥の鳴いている雑貨屋さんを選んで衣服を揃えました。リューヤは『隠匿』していた自前があるので、代わりに鬼神教の本拠地を探ってもらいました。

 その連中ですが、スワ教団というのが正式名らしいです。そういえば三流聖女ダスティアもそんな名前を言ってたような。

 あと他にも言ってましたね。

 神のなんたらとか……なんでしたっけね。なんか、飲み物のような…………う~ん……。


 ……それはまあ、後から思い出すとして、話を戻しましょう。


 好都合なことに、町から少し離れたところにある小さめの遺跡が、それでした。

 既に隅々まで探索され尽くした後の、駆け出しの冒険者ですら寄り付かない、何の味もしなくなった遺跡。

 だからこそ、教団が根城にしても、誰も気にもとめなかったのでしょう。

 これなら、少しくらいやり過ぎても、町の人々が気づいて騒ぎになることはありません。実に好都合です。運が向いてきてますね。

 連れてこなかった(こんなことに連れてくるわけにいきませんからね)かわいいお弟子さん達は、今ごろ朝までぐっすりでしょう。

 一人をのぞいて。


「……しかしオレンティナも、勘がいいというか、目ざといというか、神経質というか……よく私達の()()()を察知できましたね」


「ああ。まさか気づかれるとは」


「できるだけ音を立てずに動いたつもりでしたが……」


「でもまあ、そんな不思議でもないさ。あの歳で一人旅をやってたんだ。おかしな気配がするのを感じ取るくらいはできるだろ」


「そうですね。確かに私も、彼女くらいの頃は気を張ってピリピリしてたかもしれませんね」


 何があったのかというと、こんなことがあったのです。



 旅商のリーダーさんから、ポーションの引き渡しも無事に終わった、こちらの想定よりもさらに高値で全て買い取ってくれたと聞かされ、歓喜と共に肩の荷もおり、幸せ気分で夕食を終え…………そして、外も真っ暗になった頃合い。

 こっそり、忍び足でお出かけしようとしたら、


「……こんな夜更けに、どちらへ?」


 オレンティナに呼び止められたのです。


 流石に「殺し合いにいくけど、あなたも付いてきます?」とは聞けないので、野暮用だとごまかしましたが、あの真剣な感じ、どうもごまかせてない気もしますが……とにかく。

 オレンティナは、私達が戻ってくるまで寝ずの番をやると言い出しました。

 そんなことやらなくてもいいですよと何度も言いましたが、誰も起きてないのは無用心だと言って聞いてくれません。

 変なところで強情です。

 なので、ここで押し問答で無駄に時間をかけたくないので、任せることにしました。

 彼女が言うように、一人くらい起きてる人がいたほうが安心できるってのは、あながち間違いでもないですからね。


 ……でも、そんなこと言うってことは……やっぱり、私達が今夜やることに、薄々感づいていますよね。

 なにかヤバいことをやるのだと。

 ただ、止めてきたりはしませんでした。

 そこから察するに、私達が大暴れはしても非道なことはやらないという、信頼のようなものはあるんじゃないでしょうか。

 ヤバいことも非道なこともやるんですけどね。場合によっては平気で。

 別に正義の味方でも気高き勇者でも慈愛に満ちた善人でもないんで私。


 暗黒騎士なもんで。

 堕ちた聖女なもんで。

 さすらいの呪い師なもんで。もんでもんでなもんで。



「でも、ルミティスちゃんは気づくどころか、イビキかいてたよね。あははっ」


 ギルハが笑いました。


「多少のことでは動じない性格なのでしょう。あの子は大らかなところがありますから。大雑把とも言いますが」


「うむ、大物だな」


 あなたも、ある意味大物ですけどね、火乱さん。


 一方、プリシラとミラさんはとっくに静かな寝息を立てていました。

 この二人はほぼ一般人ですからね。

 プリシラも才能に開花はしましたがまだまだ素人に毛が生えた程度に過ぎません。気配に気づけというのが無茶です。





「ほいほいっと」


──シュシュッ


「んっ!? な、なんだこりゃ……なんなんだ……なんなんだろうな…………」


「何か飛んでき……き、き、きたたた……」


 暗がりから飛んできた二本の針。

 目視など、できるはずもなく。

 理解できたのは、何か細いものが飛んできて己の体に刺さったこと、それだけ。


 こうして、遺跡の入口から入ってすぐの場所にいた二人組の見張りは、ギルハの操り人形と化しました。

 数秒たたずに言葉が怪しくなり、そして、ぼんやりと立ち尽くしています。ギルハの命令がなければ、この二人は死ぬまで、いや死んでもなお朽ち果てるまでそのままなのです。


『傀儡』


 やはり恐ろしいスキルですね。


「うまくいったな。この調子でやっていけば、騒がしくなることなくお目当てのものがある場所までいけそうだな、クリス」


「ですね」


 自発的に何もできなくなった、二人の男性。

 そばに置かれた、明かりのためのかがり火に照らされたその姿は、敬虔な信者というよりは、そこらの山に生息してる一般的な盗賊といった見た目でした。

 こんなのを見張りとして使っている。

 もうこの時点でロクな連中しかいないとわかります。


 念のため、一人の懐をまさぐると。


「……ありましたね」


 小瓶に入った、青色の液体。

 腐れ聖女ダスティアが言っていた神の聖水とやらは、きっとこれなのでしょう。

 もしかしたらと思いましたが、当たりでした。

 こんな、犯罪をやる以外に何も出来そうにない人たちにまでこんなものを与えるとは、やはりここは重要な拠点のようですね。


「こっちもだ」


 もう一人の男が持っていた小瓶を、リューヤが指で持ち、鈴を鳴らすように左右に振りました。混じりけのない青色の液体が、チャプチャプと揺れます。


「どうして飲まずにいるのかしらね」


 聖女(笑)ダスティアの話では、飲むとパワーアップするはずですから、与えられたならさっさと飲んだらいいでしょうに。

 変ですね。


「粗悪品なんじゃないか」


「粗悪品……ですか?」


「飲んだら力が強化されるとか、もしくは、あのロスのように鬼人になれるが、一時的なものでしかない……とかな。あり得る話だろ?」


「なるほど、それなら筋は通りますね」


「だとしたら、おそらくこの遺跡内にいる奴らは、雑魚だろうと全員がこいつを持ってることになるな」


「なら、持ってない者は……」


「一時的なものじゃなく、永続的な力を持ってるってことになるのかな、やっぱ」


 何人くらいいるでしょうね、そんな人たち。


「……火乱さん、是非ともあなたの活躍をお願いしますね」


「うむ、いよいよか。与えられた力によるものとはいえ、強者であることは確かなのだろう? フフ、腕が鳴るな。斬って斬って斬りまくって、老若男女問わず巻き藁のように両断してやろうではないか」


「怖いこと言ってるけどいいの?」


 ギルハが聞いてきましたが、私は微笑んで何も答えませんでした。

 別に、いいですからね。

 意気込みがあり過ぎて斬ったらまずい人まで斬ったりしたら、彼女をトカゲの尻尾切りするだけです。殺人鬼は仲間にいりませんので。


「──さあ、慌てずに奥へ行きましょうか。ギルハ、まだまだあなたの針の出番は終わりませんよ?」

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