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ごめんなさいね、もう聖女やってられないんですよ   作者: まんぼうしおから
第三章・祖国没落

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133・鬼神の祝福

半年ぶりの更新です

 仮にも聖女を目指そうという者が、自分の都合のみを優先した、その結果。

 不和の種を街中でばら蒔くに等しい行為に及ぶとは。

 もう、ルミティスったら、困ったものですね。


 彼女の祖国ウィルパトの神殿関係者がもし聞いたら、彼女の評価がガタ落ちして他の聖女候補がライバルの失態にほくそ笑みそうな件ですが、どうせバレないでしょう。

 騒動がどれだけ起きたところで、ここはエターニアなので問題なし。

 ……いやまあ、やらかしたのは事実だから、問題ではあるのですが……でもここエターニアだし、別にどうなろうと知ったことでは……。


 ──それはともかく。


 (心に響いたかどうかは、はなはだ不明ですが)お説教しておいたし、今後はもうやらないとは思いますので今はこれでいいでしょう。またやったら無言でお尻にキックですが、私の鋭い蹴り足がルミティスに炸裂することがないと信じたいものですね。





「ただいま」


「あら、早かったですね……まあ、無理もありませんけど」


 宿について少ししてから、情報収集のために外出していたリューヤが帰ってきました。


 二人きりで話をすることに。


 ルミティスが混じりたがっていましたが、ギルハにあっさりとなだめられ、他の方々と一緒にお部屋へ行きました。

 ギルハは私とリューヤの素性をだいたい把握してますからね。なので、お弟子さん達にあまり聞かれたくないことを私が話すのだろうと、気を利かせて抑えに回ってくれたのでしょう。痒いところに手が届く子ですね。

 さ、宿のロビーの隅っこで今後の打ち合わせといきますか。



「あの馬鹿でかい裂け目はエターニアでも問題視されてるようだぜ、クリス」


 わりと早めに戻ってきた彼が真っ先に語ったのは、例の国境沿いの裂け目についてでした。

 なぜ戻るのが早かったのかというと、多分、あまり聞き込みしすぎて素性がバレるのを恐れ、さっさと切り上げたに違いありません。顔も素性も隠してるとはいえ、声や物腰でわかる場合もありますからね。

 時間をかければかけるほど、人に会えば会うほど、バレる確率は増していきます。

 リューヤはそこら辺のさじ加減をうまく読みながら、ほどほどにして戻ってきたのでしょう。


 彼も私も、一時期、ここを拠点にしていました。

 初心者殺しの町ネオリア。

 人の出入りも激しいうえに、昨日笑ってエールをあおっていた人物が翌日には物言わぬ死体になるのが珍しくもないこの街。


 ある者は、街に寄ってきた魔物の討伐で。

 ある者は、地下墓地の探索中に。

 ある者は、血の気の多い冒険者同士のいさかいがエスカレートした末に。


 それに加えて、うまく仕事にありつけなかったり、怪我をして不具となったり、何らかの理由でパーティが割れたことで頭数が減って仕事をこなせなくなったり……等の理由から、夢を捨て、街を去る者もまた多数。

 いちいち誰が誰だかなんて覚えてられませんし、第一、覚えたって次の日にはいなくなってるのが日常茶飯事なんですから、そこまでして熱心に覚える意味はあまりありません。

 ネオリアの冒険者は人々の記憶に残る暇もないのです。


 ですが、それは、特に目立つこともなかったその他大勢のこと。

 私とリューヤとなると、また話が違ってきます。


 私達二人は少し……くらいではなくまあまあ……いやかなり…………と、とにかく、他の人よりも派手に色々とやらかしましたので、覚えてる人もいるにはいると思います。こんな危なっかしいコンビがいたんだと、逸話として私達のやらかしが街に残ってるかもしれません。

 だからこそリューヤは欲張らずに聞き込みをそこそこでやめておいたのです。

 私が素性を隠してるのに彼がバレたら意味ないですからね。頭隠して尻隠さずです。違うかな?


「でしょうね。あんな大きな谷間を黙殺できるわけないですもの」


「とはいえ、打つ手もないみたいだが」


 さもありなん。

 あの裂け目をどうにかするなんて、たとえ巨人でもお手上げですよ。


「埋め立てるのも不可能でしょうからね。山でも持ってこないと」


「まーな」


「あまり裂け目の幅が広くないところに橋をかけようにも、いつの事になるやら」


「お偉い方々はエターニアの実権と自分たちの立場を賭けた大博打に夢中だからな。橋なんぞ構っていられないよ。それに、魔物が湧き出てくるとか、裂け目がじわじわ広がって領土をズタズタにするとか、そんなことも起きてない。静かなままだ。しかも、エターニアとコロッセイアは──」


 リューヤは、左右の握りこぶしを向かい合わせると、


ごんっ


 軽い音を立てて、こぶし同士をぶつけ合わせ、


「──こんな間柄ときてる」


「いきなり現れたのは不気味だけど、特に何事もない。お互い態度を難化させることのない不仲の隣国との行き来が難しくなろうがさして問題はなし。なので対処は先延ばし……そういうことですね」


 リューヤが、こくりと頷きました。


 これが経済的に持ちつ持たれつな国とのルート断絶とかだったら一大事なのですが……貿易などろくにしてない、それどころか、わりと敵対的な間柄ですからね。


「むしろ、このヒビ割れがコロッセイアからの侵攻を阻む壁代わりになるとか思ってるのでは?」


「そこなんだよ、問題は」


「?」


「実はな……あの裂け目は神の奇跡だとかぬかしてる集団がいるみたいなんだ」


「まあ、よくあることですよ」


 なんか天変地異が起きたら、天の怒りだの、滅びの前触れだの、神の祝福だのと言い出す輩はどこの国でもボウフラみたいに湧いてくるものです。

 たいていは相手にされませんけどね。

 国家や国教を批判したりといった、過激な発言をやったりした時には、いたずらに人心を惑わしたとして牢屋行きになるケースもありますが、よっぽどのことをやらないとそうはなりません。


「そうなんだけど、ただ、そいつらの言う神ってのが……」


「どうしたの? あなたにしては歯切れが悪いですね」


「……鬼神だとよ」


「鬼神」


「ああ。しかもだ、その連中のリーダーらしい男は、まるで生身のように動く木の義手をつけてるそうだぜ」


「あらら、それってつまり」


「十中八九、あいつらだろうな」


 と、リューヤは言いました。


 私の脳裏によぎる、二人の人物。

 一人は、コロッセイアで開かれた武道大会にて、怪物と化した剣士、ロスさん。

 もう一人は、聖女ダスティアをそそのかした、あの、赤ケープの喪服女です。


「そのリーダーの野郎が言うにはだ、我らが神はさらなる救いをこの街に与える……ってことなんだとか。魔物を寄せ付けない祝福を与えるんだってよ」


「そうですか」


「元聖女さまはこの話について、どう思う?」


「あんな裂け目を音もなくこしらえることができるなら、この街ひとつ守護するくらい容易でしょうね。そして、それらの実績を用いて人々を言いくるめて引き込む──」


「この忙しない状況だ。今後さらに規模の大きいスタンピードが起きる可能性は高い。守ってもらえるなら、よくわからんぽっと出の神さまだろうと一般市民は喜んで崇めるだろうさ」


「でしょうね。死んだら元も子もないですもの」


 抜き差しならない事態におかれたなら、頼りにならない聖女の守りより、頼りになる謎の鬼神の祝福を選ぶに決まっています。


「そうしてこの国が揉めている間に、別の場所でも似たようなことをして、深く根を張っていく……うまいやり方ね。結界が役立たずと化した今のこの国なら、どこでも引く手あまたでしょうから」


「そこが不思議だよな。裏で糸を引いてるのがあの喪服女なのは間違いないだろうが……どうしてもエターニアにこだわる気はないって言ってたくせに、あの女もなんでこんな大っぴらな手段に出たものか。うぅむ、わっかんねぇなあ……」


 腕を組み、うなるリューヤ。


「そう悩むことでもないわ。きっと、事情が変わったんでしょうね」


「どう変わったってんだ?」


「なにか、大胆に打って出ても大丈夫なほどの強力な力を得た、あるいは味方についた──そんなところじゃないかしら。運良くね」


「あり得る話だな」


「でも、その運もここまでね」


「……ああ、そうだな。そうなるかな。うん、そうすべきだろうな」


「攻められたままってのも、面白くないもの。それに、この国での地盤固めが落ち着いたら、またこちらにちょっかいをかけてくるかもしれない。なら、不安定なうちに、今度はこちらからやってやりましょう」


 やられっぱなしでは暗黒騎士クリスティラの名がすたるというものですから。


「はは、つまりは殴り込みか。刀を振るいたくて仕方ないあの狂犬も喜ぶだろうさ」


 狂犬が誰を意味するかは言うまでもありません。


「悪い人や、教えに染まりきってしまった信徒は撫で斬りにしてもいいでしょうけど……そうじゃない方は大目に見てあげるよう、一言言っておかないといけないわね」


「殺人鬼じゃないんだから、そこは言わなくても峰打ちくらいで済ますだろ。手当たり次第に斬ったり焼いたりしないだろ……とは思うが……」


「まあ、いいですよ別に」


 どうせエターニアの人間だもの。



 そんなことよりも、どう仕返しするか考えないといけないですね。狂犬だけでなくギルハにも手伝ってもらいましょうか。

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― 新着の感想 ―
「でしょうね。あんな大きな谷間を黙殺できるわけないですもの」 次の行読むまで別の意味に捉えてしまった
主人公が酷過ぎて(賞賛)好き
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