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ごめんなさいね、もう聖女やってられないんですよ   作者: まんぼうしおから
第三章・祖国没落

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130・ネオリア到着

 警戒すると波風立たずとはよく言ったもので。

 火乱さんがアホみたいに突撃するのを落ち着かせないといけない、そう思いながら旅を続けているときに限って魔物は現れず。

 私達は平和に街道を進んでいました。


 その街道ですが、例の巨大な裂け目のせいで断絶されています。

 皆で向こうに渡る方法は無し。

 なので我々はまず、裂け目に沿うような形で移動し、裂け目の端っこまで来たら、できるだけ荷馬車を進めやすい地面を選んでエターニア側の街道に出くわそうとしたのです。

 これが人間だけなら多少荒れたルートでもよかったのですが、馬と馬車がいるのでそうはいきません。

 足手まといだから置き去りにする……なんてのは論外です。そもそもそれらをエターニアまで運ぶのが本来の目的なのですから。

 私達だけ行ってもただの帰郷です。


 そうして、断絶されていた街道に、うまくぶつかることができました。



「魔物の骨や屍らしきものが転がってますわね、お師匠さま。あ、あれも」


 淡々と移動中。

 私の近くにいたルミティスが、一際大きな屍を指差しました。


「鎧河馬ですね」


 しぶとい上に固くて、体格のわりに意外と速さもあり、それなりに危険な魔物です。

 まだ未熟な冒険者では何人いようと痛手を与えることもままならず、ただ踏み潰されるのがオチなので、腕に自信がないうちは逃げましょう。

 でも依頼を立て続けにこなせたり、ダンジョン潜りを何度かやったりすると、調子乗ってこのくらいの魔物に挑むんですよね。自分たちの可能性と実力を過信して。

 そのあとどうなるかは語るまでもありません。


「こんな太い街道のそばにまで魔物がのさばってるとは……いよいよエターニアも末期なのかしら」


 歩きながら会話を続けます。

 立ち止まって話し合いするほどの事ではないので。


「ですが退治はされてるみたいですよ?」


 ルミティスが言うように、自然に野垂れ死んだのではなく、鎧河馬の屍には半ばから折れた槍のようなものがいくつか刺さっていました。

 どこの誰がやったか知りませんが頑張りましたね。


「それもいつまでできるやら」


「師よ、王族の方々は魔物討伐よりも権力闘争を優先していると聞きましたが」


 ルミティスと同じく私のそばにいたオレンティナが、そう問いかけてきました。


「その通りですよオレンティナ。王位を奪った第二王子と、本来の継承者であった第一王子。第二王子には地方の有力貴族が、第一王子には権力の中枢にいた貴族がついて、この国を二分する兄弟喧嘩の真っ最中だとか」


「こんな危うい状況でよくやりますね。僕には理解できません」


「この状況になったからですよ。国が傾きそうになってるのに上がろくな策を打たないなら、各地の統治者が不満を持って当然でしょう? それの受け皿になったのが第二王子だったと、それだけの事です」


「第三王子もいるみたいですが、そちらは?」


 ルミティスの問いに、


「いるだけです」


 私は何の感情も込められてない声で答えました。


 あれは皿じゃなくてザルみたいなものですから誰も乗せられません。血筋しか褒めるところが無いので。

 あんなのわざわざ幽閉されてる所から解放して利用しようとするのは、よほど焼きが回った落ち目の輩くらいですよ。


「もしや、どちらの王子も、ここまで事態が悪化してることを知らないのでしょうか」


 オレンティナは顎に手を当て不思議そうにしています。


「いやいや、そんなことありませんって。きっと決着ついてからでも十分巻き返せると思ってるんじゃないですか? 人や土地の被害は、ある程度目をつぶるつもりでね」


「冷酷ですね」


「国を動かす立場の人間は、多かれ少なかれ誰でもそうです。だからそんな人達と関わったりしないほうが身のためですよ?」


 まあ私は思いっきり関わってるんですがね。

 ここの第三王子だけでなく、私がスローライフの拠点にしてる国のお姫様と吸血鬼の国のお姫様とも、すっかり顔見知りの間柄ですから。

 私はその気になれば抵抗や逃走できるだけの力があるので大丈夫です。実際やりました。

 しかしオレンティナ達は違います。

 若くして才能も実力もありますが、誰が相手でも我を通せるまでには至っていません。

 今後どこまで伸びるかは不明ですが、今のこの子達にそこまでの力はないです。


 権力者に『知られている』ということは、時として危険に繋がります。

 駒として使い潰されたり、無茶な使命を与えられたり、一方的な理由で命を奪われたり。

 あの手この手で理不尽さを押しつけてくるのです。

 まあ、その理不尽さと同じくらい恩恵もあるのですが……。


「誰であろうと取り入れる口の上手さか、何が起きても逃げ切れる足の速さがないと、偉い人との縁を作るのはオススメできませんね」


「でも、その偉い人のほうから寄ってきたらどうしますの?」


 そう聞いてきたのは、馬車に乗らず私達と同行していたプリシラです。


 旅慣れてないこの子では、長時間の移動で足を痛めるのではと心配したのですが、少しずつ慣らしていくのだと言って譲りませんでした。なかなか頑固。

 それで、とりあえずお昼前までは徒歩、それからは馬車、そういう事で折り合いをつけました。


「お嬢様が歩きで、お付きの私が乗り物というのは……心苦しいです」


 と、ミラさんは反対していましたが、私が、


「ならミラさんも彼女と一緒にどうぞ」


「心苦しいですが耐えます」


 二つ返事で馬車に残ることを選びました。身を挺して大事なプリシラお嬢様を庇っていたあなたはどこにいったのかしらね。


 でもミラさんがいてもいなくても問題はないし、途中でへばられたら進行の妨げにしかならないので、すっぱりプリシラへの情けを断ち切ってくれたのはむしろ好都合でした。



「……商隊のお頭さん、ネオリアまで、あとどのくらいでしょうね」


「そうですな……」


 旅商のリーダーである中年男性が、馬車から顔を出し、こう言いました。


「この道をしばらく行くと、グノという、小さな町に当たるはずです。今日はそこで宿をとってから、翌日出発して……五日ほどでしょうかね」


「なるほど」


 事前に聞いていた日程でも、そんな感じでしたね。

 一応聞いてはみましたが、やはり合っているようです。


「ここまで来れたのですから、あと一息。魔物や野盗にまた襲われるのは我慢もできますが……スタンピードにだけは巻き込まれたくないものですな」


「そういうことを言うと、フラグが立つそうですよ」


「? はて、なぜ旗が?」


「私にもわかりません。先頭にいる少年がそう言ってました」


「はあ」


 意味わかりませんよね。私もです。





 で、それから、グノの町に着き。



 五日後、ネオリアに着きました。

 フラグとやらは立たなかったようですね。


 その途中に現れたのは、牛のような頭のついた大きな蜘蛛という見た目の魔物一匹のみ。

 見たことない魔物です。

 その魔物はどうなったかというと、斬るものに飢えていた火乱さんの餌食となりました。やっと彼女も上機嫌です。

 これでしばらくは何も斬らなくても大丈夫でしょう。


「…………」


 リューヤはその魔物を黙ってじっと見ています。


「どうしました?」


「……いや、何でもない。こっちの話だ」



 リューヤの態度におかしなものがありましたが、それは今に始まったことでもないので気にしないことにします。


 さあ。

 いよいよ私のポーションが、たくさんのお金に変わる時がきました。これぞ、聖女流の錬金術です。

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