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ごめんなさいね、もう聖女やってられないんですよ   作者: まんぼうしおから
第三章・祖国没落

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127・無意味な意地の張り方

 順調にプリシラが立派な神聖魔法の使い手へと成長していきます。

 伸び盛りという点を抜きにしても、その成長速度と容赦の無さは、目を見張るものがありますね。

 一を聞いて十を知る……だけでなく、教え方も上手かったのかもしれません。なんだか私も鼻が高いです。

 目的地もとい折り返し地点であるネオリアへの道のりも、これといって障害もなく、いささか面白味に欠けますが(こんなこと言ったら旅商の方々に怒られそうですね)安定した進行が続いていました。


 しかし気をつけねば。


 好事魔多し。

 こんなにとんとん拍子に事が進むときは、だいたい面倒臭くてわずらわしい問題が悪意たっぷりのニヤケ顔を見せてくるのです。

 仮にそんなツラ見せてきたところでプリシラの餌になるか私にグチャグチャにされるかの二択なのですが。

 聖女は悪を許しません。命で償いなさい。



 カラッと晴れた空は鳴りを潜め、どんより……とまではいきませんが、曇り空が続きます。

 慣れ親しんだエターニアの空です。

 聖なる結界に守られた、豊かな水に恵まれた国、エターニア。

 今となっては結界の効力も失われ、土地も人々も厳しい世間の風にさらされる事となりました。

 いつまでこの混迷は続くのでしょう。


 まあ私が帰ってあげるか私と同じくらい清純で天に愛された聖女が現れるかしないと破滅に向かい突き進む運命しかありませんね。


「そろそろ魔物でも出てきてほしいぞ」


 これではタダ飯食らいにしかなっとらんと、私の隣を歩く火乱さんがぼやきました。

 そういうとこ気にするんですね。

 意外です。


「不吉なこと言わないで下さいよ。退屈なのはわかりますが」


 面白味がないなんて思ったりしてた手前、あまり強く言えませんでした。


「そうはいうが、そのために俺はいるのだぞ。仕事に意欲を持って何が悪い」


「悪くはありませんが言い方に問題がありますよ。暇してる治療院の職員や薬師が『怪我人たくさん運ばれてこないかなー』とか言うようなもんです」


「不謹慎と言いたいのか」


「はっきり言うとそうです」


「なら不謹慎で結構。聞こえのよい建前やおためごかしをペラペラとしゃべくるのは性に合わん」


 敵を作りやすい性格ですね。


「ああ、あの岩鬼のような歯ごたえのある魔物を、また斬りたいものだ」


「そうそう現れませんよあんなの」


「しかし、お主らの話によると、今この国は魔物があらゆる方面から押し寄せてるというではないか」


「それはそうですが……」


「あー斬りたい斬りたい。斬りたいぞー」


 拾った小枝を振り回しながら歩いているその姿は、さながら悪童のようです。言ってることは通り魔のそれですが。

 リューヤも変な人を餌付けしてしまったものですね。

 あの双子といい、リューヤはおかしい人間を引き寄せる宿命でも背負ってるのでしょうか。

(注・クリスティラも十分『おかしい人間』に当てはまるのですが彼女本人はわかっていません)


「また今度なにか出たら率先して斬らせてあげますよ」


「二言はないだろうな?」


「ないない。そんなのないですって」


「ふふふ」


 言質は取ったぞとばかりに悪そうな笑みを浮かべる火乱さんでした。

 威勢はいいですが斬ったり刺したりが効かない魔物が出たらどうするんでしょうね。刃の腹でベッシベッシやるんでしょうか。

 でもトロールのあの固い肌を斬れるくらいですから、いらぬ心配というものですね。



「ああ何じゃこりゃあ!」


 だいたい一時間後。


 そこにはジャイアントスライム相手に四苦八苦する元気な火乱さんの姿が!


「もう魔物をむやみに斬ろうとしないよ」


 なんて悔やんでくれたらいいのですがあの性格ではそれも期待薄です。



「なんでスライム相手に刀で挑むかな」


 リューヤが呆れていますが私もです。

 火乱さんは必死に切り裂こうとしてるみたいですが斬ったそばからくっつくので豪快にかき混ぜてるようにしか見えません。


「やっぱ相性悪いしやめとこうとはならなかったのかね」


「禁断症状が出たんじゃないですか?」


「だとしても、なぜスキルを使って燃やさない? 『灼刀(しゃくとう)』とか言ったっけ? こういう時こそ使うべきだろあれ」


「さあ? どうしてなんでしょうね」


 馬鹿だからと断じるのは簡単ですが、まだわかりません。彼女に何か深い考えがあって使用してないのかもしれないので。


「そのうち使うかこちらに泣きつくか。好きにさせてあげますよ」


「その前に呑み込まれて骨も残さず溶かされるかもな」


「それをじっと眺めてるほど私は悪趣味な女じゃ…………なんですか、その胡乱(うろん)な目は。突きますよ?」


「気軽に怖いこと言うなよ。やめろその仕草」


 人差し指と中指でえぐるような仕草を見せると、リューヤがうんざりしたように言いました。



 それから二十分くらい経過したのでしょうか。

 やっと火乱さんは己のスキルを使ってジャイアントスライムを焼きつくしました。

 独特の生臭い嫌な匂いが辺りに漂っています。


「くっさ」


 ギルハが鼻をつまんでしかめっ面してます。


「……うっ、ひどい臭いだね……」


「死んでもなお人間に迷惑かけるんですのね。これだから魔物は……」


 オレンティナとルミティスは吐き気をもよおしかけてるのか、口元を手やハンカチで押さえています。


「……やはり、剣だけで倒すのは無理があったか……」


 火乱さんはスキルを使いたくなかったらしく、悔しげに唇を噛んでいます。

 アホみたいな意地張ってたんですね。


「トロール斬るときはためらいなくスキル使ってたのに、なぜ今回そんな枷を」


「便利だからと絶えず使いまくっていたら頼りきりになるからな。腕も勝負勘も鈍る。良いことなど一つもない」


「その心がけは立派ですが、スライム相手にやることじゃないですよね? 無理なのわかっていたでしょう?」


「俺は敵を選ばん。相性が悪いから引き下がったりすぐ天稟に頼るのは腑抜けのやることだ」


 誰であろうと相性無視して挑む。

 腑抜けではないでしょうが間抜けですね。


「腑抜けの定義が揺らぎそうな意見は置いといて……よく腐食しなかったもんだなその刀」


「リューヤの言う通りですね」


 あの巨体のスライムなら消化力も結構あります。酸の塊みたいなものですから。

 並みの武器なら数度斬りつけたら使い物にならなくなるのですが……。


「ふふっ、それは無用の心配だ。我が愛刀、夜叉丸影綱はヒノモト屈指の豪剣。あのようなネバネバの化物なぞに蝕まれるはずがない」


「まあ。そんな名剣だったのですか」


 プリシラが興味深そうに聞きました。


「うむ。素晴らしいだろう? まさに、この俺に相応しい一振りだ」


 豊かな胸を張って自慢げに語る、火乱さん。

 そんな彼女に対しプリシラは悪気なく、本当に思ったことをそのまま、こう言いました。



「それほど素晴らしい武器でもスライムに通用しないのですね」



 翌日まで火乱さんは何も喋らなくなりました。おしまい。

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