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ごめんなさいね、もう聖女やってられないんですよ   作者: まんぼうしおから
第三章・祖国没落

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126・燃やせばいいんですよ燃やせば

「ネオリア、どんな感じになってるかしら」


 荷馬車を止めて一休み。

 木陰で私はリューヤと目的地について語り合っていました。

 エターニアの領土に入ったとはいえ、コロッセイアとは非常に近い場所なので、日差しも温度もなかなかのものがあります。もっと内部に食い込んでいけば、曇り空を頻繁に見ることになるんですがね……。

 今はまだそれもかなわないので、こうして樹木の日傘に頼ります。保温の魔法を使うほどではありませんので。


「俺やお前が知ってる時よりも活気に溢れてるんじゃないか。鬼気迫るくらいにさ」


「やっぱりそうですかねー」


「ただでさえあの街の周りはよ、結界に弾かれた魔物どもが流れ着いてたからな。守護結界が消え失せた今となっては、どこからでも入りたい放題だろうが……」


「これまでの蓄積もありますからね」


「だな」


 悪しき気配や匂いが土地そのものに染み付いたのか、なぜか魔物を引き寄せる地域というのがありまして。

 『呪われた地』『神に見捨てられた地』などと呼ばれる場所です。

 ……地元の人間からしたらいい迷惑ですよね。よその連中に勝手に酷い呼ばれ方されてるんですから。そんな土地に住んでる自分達は呪われたり神に見捨てられてるのかと怒って当然です。

 そもそも、そこが魔物を引き寄せてるからこそ、他の土地が安全なのかもしれません。

 だとしたら悪口言ってる奴らの身代わりになってるようなものです。踏んだり蹴ったりですね。


 そんな不運な地域ではありますが、清浄の儀式でもやって土地を浄化したら、それなりに収まりはします。

 無論、その効能は、儀式の規模や実際に行う神官の力量などによって大きく左右されます。

 しかし……ネオリアのように結界の抜け穴となってる土地でやったとしても、結局は魔物がなだれ込むから意味ないわけで。

 だからほったらかしになってるのです。


「しかも、近場にはダンジョンまでありますからね」


「ああ、古代の地下墓地だったっけ。……懐かしいな」


 リューヤが目を細め、遠くを見つめました。

 昔を思い返しているのでしょう。


「……よく燃えましたね、マミー」


 私も思い返しました。

 リューヤが『隠匿』していた炎をかけるとマミーの群れが人型のたいまつの群れに変貌したのを。


「いの一番に思い出すのがそれかよ」


「でも面白いくらい簡単に燃えたじゃないですか」


「要は乾ききった屍の布巻きだからな。そりゃ燃えるさ」


 迷える死者を火葬してあげたのですから、きっとあの方々も感謝してくれたに違いありません。

 つまらない呪いをかけてきた(はね除けましたが)干物どもにムカついたからというのもありますが、基本は善意です。割合としては腹立ち三割の慈悲七割くらいでしょうか。



「……ん、そろそろかな」


「ですね」


 旅商さん達が、再び動き出す準備に入ったようです。


「私達も用意しましょう。……と言っても、立ち上がるだけですが」


 主な荷物などは、荷馬車やプリシラの乗ってる馬車に乗せたり、リューヤに隠匿してもらってますからね。バーゲストの杖や髑髏の剣くらいしか手荷物ありません。


「重そうだな。手を貸してやろうか?」


「やめといたほうがいいですよ。うっかりへし折るかもしれないので」


 リューヤはそそくさと逃げていきました。





 それから二日ほど経ちました。


 仲間割れか、魔物か獣にでも襲われたのか。

 悪人顔の男性ゾンビの群れと遭遇しました。

 人を見かけで判断するのはどうかと思いますが、きっと……いや、ほぼ間違いなく野盗の成れの果てでしょう。万が一間違ってたとしてもどっちみちゾンビなので容赦しませんが。


「この程度のアンデッドが、昼間から外をうろつくとは……」


 旅商のリーダーおじさんが軽く絶句しています。

 そうですね。

 この光景って、つまりは、結界が完全に息の根止まっちゃってる証ですもの。


「どうやら、守護結界もとうとう跡形もなく消え果てたのでしょうね」


「祝福された地も、堕ちるとこまで堕ちたものですな」


 私を粗末に扱うからこうなるのです。

 決定的な(くさび)を打ち込んで私の忍耐をぶっ壊したのはバカ王子とバカ令嬢のダブルバカですが、忍耐にさんざんヒビを入れてくれてた民衆も同罪です。

 ここまで事態が悪化しててもまだ王族は血で血を洗う権力争いしてるんだから、おぞましいものがありますね。人の上に立つのってそんなに中毒性があるのでしょうか。


「先生、ここは私にお任せ下さい」


 プリシラが私の前に出ました。


「死者を安らかな眠りにいざなうのも、神聖魔法の使い手がやるべきこと……ですわよね?」


「そんなこともないのですが、魔術師や精霊使いよりはずっと向いていますね。楽にしてあげなさい」


「はいっ!」


 利き手に『円盾』を発生させたプリシラが、動く死体達へと突進していきました。

 初対面の頃に比べ、どんどん活発になってきてますね。成長期なだけはあります。

 しかもよく見たら円盾二枚張りじゃないですか。まだ複数張りなんか教えてないのに見様見真似でやれるとは。


 緩慢な動きしかできないゾンビ相手とはいえ、余裕であしらってるし……いやはや、才能凄いですね。

 ついこないだまで箱入り娘だったのに、戦い方や身のこなし方を教えたらもうこれです。とんだ拾い物でしたね。


「あの子、このままだと第二のお前さんになりかねんな」


「それの何が問題なの?」


「才能が開花しすぎて、世の中を無駄に乱暴に引っ掻き回さなきゃいいけどな」


「私の弟子なんですから大丈夫ですよ」


「そこが一番不安なんだよ」


「なんだとコラ」


「えいっ、ちゃあ! てやっ!」


 私とリューヤが一触即発の手前くらいの状況になってるのをよそに、迫力のまるでない声を発しながらプリシラが動く死体をバラバラ死体に変えていました。

 魔物や獣だけでなく、人間でもためらい無くやれるかどうかの試金石代わりでしたが……ふむ、これなら生きた人間相手でも無事やれそうですね。


「ゾンビとはいえ、人の形をしてるのに、よくあそこまでやれるね……」


「思いきりの良さが凄いですわ……」


 姉弟子であるオレンティナとルミティスが驚きつつも感心しています。姉弟子といっても同い年ですが。

 根性というのは、自暴自棄や絶望、諦めなどの心境を通り越すと、逆に図太くなったりしますからね。

 何かのきっかけで心のしがらみから解放されると、人は何でもやれるようになるのです。プリシラの場合、それは「魔物に喰われかけたのが実母の企てだった」という残酷な事実でした。

 その事実を軽く蹴飛ばして乗り越えたのですから、もう怖いものなしでしょう。


「いいぞいいぞ、その調子だ!」


「最高ですお嬢様!」


 最初からしがらみなんて持ち合わせてなさそうな火乱さんと、しがらみバリバリ持ち合わせてるミラさん。

 子供同士の勝負を観戦する身内のように楽しそうに応援しています。

 「どっちかが足場から出たら負け」みたいな微笑ましい押し合い勝負とかではなく、少女による一方的なゾンビ潰しですが。


「こんな無茶苦茶にされたら安らかな眠りもクソもないんじゃないの」


「私がどうにかしますよギルハ」


「具体的には?」


「プリシラの活躍が終わり次第、残骸をひとまとめにして埋めます。その前に祈りくらいは捧げてあげましょう」


「祈ってあげるんだ」


「試金石代わりになってくれたお礼です」


「?」



 まあ実際どうなったかというと、火乱さんがスキル使って剣から出した炎で焼き尽くしてくれました。便利ですね。

 ついでにリューヤが「持ち合わせがなかったから頼む」と、彼女の炎を何度か『隠匿』していました。その頼みをなんか嬉しそうに引き受けた火乱さんに私もリューヤも妙なものを感じましたが……まあ、機嫌が良かったんでしょう。


「次は真人間になるんですよー」


 風に吹き散らされていく白い灰。

 すっかり軽くなり、宙に舞ってどこかに飛んでいく彼らに、私はささやかながら祈ってあげました。

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