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ごめんなさいね、もう聖女やってられないんですよ   作者: まんぼうしおから
第三章・祖国没落

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125/141

125・誰でもできる戦い方

 死ぬまで叩けば死ぬ。


 これは人も獣も魔物も同じ。

 エルフもドワーフも魔族も悪魔も獣人も虫人(むしびと)もそこは変わらず。

 なんならアンデッドや魔法生物もそうだったりします。

 固いものや重いものや固くて重いものをぶつけられると、大抵の存在は動かなくなっちゃうのです。

 魔神は……ちょっと怪しいものがあります。首だけでも普通に生きてた実例を見ましたからね。なんなら同居までしてます。


 この話をすると必ず出てくる意見が『斬ったり刺したりしても同じだろ』というもの。

 はい、そうですね。

 実戦を知らない人の意見です。

 鈍器などは当てればいいですが刀剣はそうはいきません。

 私はあまり詳しくありませんが、刃筋とやらを立てないとまともに斬ることなどできないのが刃物だそうです。だから私はその手の武器を使いません。悲しくなるくらい下手なので。

 グレートソードなどで叩き斬るなら技術もさしていらないでしょうが、もはや分厚い鉄板で叩いてるのと大差ないです。

 槍や弓矢などで刺すのはさらに難しいです。堅牢な魔物や全身鎧で武装した人間を貫くなんて砦や城壁のバリスタでもないと無理ですよ。

 魔法や錬気、スキルなどを使えば楽に斬ったり刺したりできるでしょうが、それは叩く行為も同様です。

 誰でもやれるし道具も手軽だし技術なくても一定の成果が見込める。それが打撃です。


 ……そういえば、サロメの首から下って、どうなったんでしょうか……。

 いくらなんでも最初から首だけのはずがありません。独立して動いて何処かでさまよってたら怖いですね。頭がないから話も通じそうにないですし。

 そのあたりを本人に聞いても「こっちが聞きたい」としか返ってこないので謎のままです。

 もしかしたら、首から下もどこかの宝箱にしまわれてるのかもしれませんね。なお、人はそれを死体遺棄と言います。



「結局こいつは、そこの割れ目とは関係なしなのかな」


 さっきまで元気なトロールだった残骸の欠片を蹴飛ばしながら、リューヤが疑問を口にしました。


「いや、たまたまこの辺に居着いてただけじゃないですかね。それも最近。もし以前からこんなのが根城にしてたら噂になったでしょうし、それなら……」


 こちらが片付いたのを見て戻ってきた旅商さん達を指差し、


「あの方々の耳にも入っていたはずです。それなのに我々に内緒にするはずがありません」


「そうか。護衛役の俺達にその事を教えないのはおかしいもんな。黙ってるメリットがない」


「そういうことです」


「なら、もしかしたらこのトロール、割れ目ができてしまったせいで住みかを失ったのかもな。だとしたら運の悪いことだ。住みかどころか命まで失う羽目になったんだから」


「あら、そんな魔物に同情するの? くふふっ、お優しいこと」


「聖女見習い達の師匠が言う言葉か」


「だって暗黒騎士だもん」


「いつまで言い張るんだよお前」


「無論、死ぬまでです」


「そろそろ先に行かない?」


 この不毛なやり取りに待ったをかけたのはギルハです。


「しばらくは魔物も出ないと思うし、一気に距離を稼ごうよ」


 ギルハの言う通りでした。

 トロールの縄張り近辺に住み着こうなんて魔物や野盗がいるはずありませんからね。いても蹴散らされてむさぼり食われるだけです。


「このくらいの回り道なら、さほど余計な日数もかからず目的地に行けそうですな」


 旅商リーダーおじさんの顔には余裕が生まれていました。

 私達護衛役がかなり頼りになるとわかり、何が待ち構えていようと叩き潰してくれるだろうと安心したのでしょう。


「また大きな裂け目がなければいいですけどね。魔物と違って、地面は退治できませんから困りものですわ」


「その時はまた迂回したらいいだけですよ。ここまで来たのですからな。もう一踏ん張りといきましょう」


 開き直ってますね。

 ……まあ、それもそうですよね。

 こんなところまで来ておいて今更スゴスゴと帰れませんもの。それならあの巨大な裂け目を見た時点で戻るべきです。


「あー、ネオリアだっけ? 国境に近いところにある街。そこが目的地だよね?」


「そうですよギルハ。エターニアの辺境でも一番大きな街だったはずです」


 ネオリア。


 エターニアを守護する結界のほころび。それが特に顕著な地域の街です。

 魔物の目撃情報もよそに比べてずっと多く、それゆえ便利屋もとい冒険者ギルドも大きく活発で、魔物退治や護衛などの依頼が常にあります。そのため、駆け出しを卒業するかどうかの若手冒険者がこぞって集まる場所でもあるのです。


「あらまあ、それは私のためにあるような街ですわね」


 プリシラが目を輝かせました。


「そうとも言えますが、だからこそ危険ですよ?」


「そうなのですか?」


「あの地で実力をつけたり名を上げたりできる若手は一握り。大半は消極的な仕事選びで現状維持しかできないか、大胆にでかい仕事を選んで死ぬのみです」


「なぜそんなしくじりを?」


「経験の浅さですね」


「まず、とんとん拍子で冒険者人生上手く行ってた奴らが、調子こいて実力以上の仕事受けて壊滅するだろ? それを目撃したり事前に知ってたりする奴らは、及び腰で役不足な仕事ばかり選ぶ。結果、わざわざこんな場所まで来といて無駄にくすぶるわけだ」


 私の説明を引き継いだのはリューヤでした。


「はぁ…………なるほど。自分たちの力量に見合った仕事、それを見極めるのが難しいんですのね」


「ギルドとしても将来ある新芽が腐ったり摘まれたりするのは困るので、一応は忠告してるみたいですがね。ただ、やる気や全能感溢れる若者が、そんな老婆心をありがたがるかというと……」


「しかも新人は次から次へと来るからな。一旗揚げたい田舎者、英雄願望持ち、どこの街にもいる腕自慢、寄る辺ない乱暴者……よそでそこそこ経験積んだそいつらが、吸い寄せられるように集まってくる」


「とりあえず最低限の助言しておいて、あとは勝手に育つのを見守るだけに留めてるのでしょうね」


 人の話をろくに聞かない連中にいちいち親身になってられませんよね。

 ギルドは無謀な若造どものお母さんじゃないんですから。


「プリシラ、あなたも立派に大成したかったら、そこのところの見極めをしっかりするんですよ。やれることとやれないことの見極めをね」


「はい。先生のその言葉、心に刻み込んでおきますわ」


 大丈夫かしらね……。

 なんか無茶をしでかしそうなんですよね、この子。もうちょい釘を刺しておくべきでしょうか……。

 でも、あまり上から押しつけたら向上心に悪影響及ぼしそうですから、このくらいでやめときましょう。過ぎたるはなお及ばざるが如しです。


 さて。

 結界が機能しなくなった後のネオリアの街は、どうなってるのでしょうかね……。

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