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ごめんなさいね、もう聖女やってられないんですよ   作者: まんぼうしおから
第三章・祖国没落

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123/141

123・ゴブリンはノーカン?

 誰にも前触れすら気づかれることなく、二国の国境を分かつ線のごとく大地に刻まれた異様な裂け目。

 その裂け目の終わり(むしろここから始まったとも言えますが)である端っこまで我々は来ました。

 所要日数は三日。

 こんな地域に宿場などあるはずもないので野営を繰り返し、できるだけ平坦な道を選びながら、思ったよりも早く着くことができました。


「渓谷に沿うように移動しましたが……何も起きませんでしたね」


「いや、あっただろ」


「くふふっ。小鬼(ゴブリン)の群れなんて無きに等しいでしょ」


 リューヤが言ったのは、昨日の午前中にゴブリンが徒党を組んで襲ってきたことについてです。

 徒党といっても十匹もいません。

 統率者すらいない、ただの集まりです。

 得物にしても、雑な作りの棍棒や短剣、折れた長剣などはまだましなほうで、中には大きめの石しか持たない個体もいます。


 普通なら、その程度の数でこの人数を襲うことは、まず考えられません。よほど腹を空かせているのでもない限り。

 が、こちらに若い女性が多かったのが、彼らのやる気もとい犯る気を刺激したのでしょう。人間の男性から理性と知性と身長と頭髪をごっそり削り取って緑色に塗りたくったような生き物、それがゴブリンですから。

 で、それらに身長と筋肉をいっぱい乗せて青色にすると邪鬼(オーガ)になり、さらにたっぷり乗せて魔力もおまけに付けて赤に染めると悪鬼(トロール)の出来上がりです。

 オーガはまだいいですが、トロールになると……並大抵の冒険者では、まず勝てないでしょうね。熟練の冒険者パーティであれば少し苦戦するくらいで済みますが、そんなパーティは大きな町や都市の冒険者ギルドくらいにしかいません。

 いるだけずっとマシですけどね。

 もしトロールが近辺で目撃されたのが普通の町なら、そこそこの実力しかない冒険者や警備兵をかり出して総がかりの命がけで退治できそうですが、これが村レベルとかだとどうあがいても無駄死に一直線なので、住民全員が家も土地も捨てて逃げるしかありません。



 そのトロールが我々の前にいます。



 身長はゆうに五メートル。

 真っ赤な肌は岩のようにごつごつしていて、いかにも頑強そう。石製のゴーレムと勘違いしそうな見た目です。

 首とか喉がなく、頭と肩が一体化してるような、ひどい猫背に見えないこともない姿で、腕が長く、とても太いです。

 武器は持ってませんが……必要ないですよね。棍棒や剣などよりも、あの腕のほうがずっと威力も固さも上でしょうから。


「……ふふ、どうなんだクリス。緑鬼が無きに等しいなら、この赤鬼もそうなのか?」


「意地悪なことを言わないの。そんなだから女性にモテないんですよ」


 この場に居合わせないあの美少年双子には、その皮肉屋なところが逆に好評のようですがね。


「嫌味なことを言いやがる」


「あら、もしかして傷ついた? あなたらしくもない」


「傷はつかんがムッとした」


「ならこれからは奥ゆかしい言葉遣いをするべきですね。優しい言葉には優しい言葉が返ってきますよ」


「よくもまあ、自分を棚にあげて言えるもんだなクリス。だからむちむちした身体の割に男っ気がないんだぞ」


「それで結構。どっしりもっちりしたお師匠さまにケダモノなど永遠に近付かなくてよろしいですわ!」


「なに勝手に人を生涯独身にしようとしてるんですかルミティス。やめなさいな。それと、どっしりもっちりって言いませんでしたか……?」


「何のことやら」


「なぜ目をそらすの?」


「……先生、軽口の叩き合いなんてしてる場合じゃないと思いますが……」


 私達の雑談を止めようとしたプリシラでしたが、ちょっと緊張気味な声です。

 ちょっとで済むあたり、この子も大したものですがね。普通の十四歳はトロールと鉢合わせなんかしたら腰を抜かして失神失禁ですよ。

 あのクソデカムカデに追われてもあまり動じなかっただけはあります。


 トロールのそばには、昨日の生き残りらしきゴブリンが二匹いました。

 そのうち一匹は片腕がなくなっています。

 あれ……ギルハがやったんでしたかね。どうだったかしら。ちょっと覚えてませんね。どうでも良すぎて。


「ゴアアアア……」


 子分どもが撃退されたから親分が仕方なく出張った……そんなところですかね。

 ただ、やはりゴブリンとは頭の中身がいささか違うのか、唸り声をあげて威嚇してはくるのですが、そう簡単に襲いかかってきません。

 こちらの出方をうかがっているが、先に攻撃したくもある。

 そんな様子です。


「ほう、迂闊に攻めんか。少しは知恵があるようだな。人食い鬼の一種にしては賢いではないか」


 なんて言いながら火乱さんは細身剣の柄に手を掛け、今にも斬りかかりそうです。抑えの効かなさならトロールといい勝負ですね。



「どう仕留めます?」


 荷馬車や、プリシラの乗っていた馬車が、ここからある程度離れたのを見計らってからオレンティナが言いました。

 もうここからは暴れても大丈夫です。旅商さん達を巻き込むこともとばっちりを食らわせることも多分ありません。


「私がやりましょう」


「一人でですか?」


「いや、ここはリューヤにも手伝ってもらいましょうかね。他の方々は見てなさい。見て学ぶのもまた勉強のうちです」


「ふん、ま、やるとするか。たまには強いのとやり合わないと腕も鈍るしな」


「俺もやらせてもらおう。小鬼を数匹斬っただけでは、ほとんど仕事のうちに入らんからな。用心棒たるもの、こういうのを退治してこそだろう?」


「やる気なのはいいですけど……あれ、斬れます?」


「なーに、安心しろ。やりようなどいくらでもある」


 火乱さんも加わりたいようです。

 その剣でトロールの肌を抜けるかどうか、見た感じだと極めて怪しいですが……ダメならダメで、攻撃を引き寄せる的になってもらえばそれで良しですかね。


「なら、俺とクリスと剣士の姐さんで挑むとするか」



 こうして、悪鬼退治が始まりました。

 私も師匠らしいところをこの子達に見せないとね。

 今回の旅、ムカデ倒すところを観戦したり狼倒すところを観戦したりゴブリン倒すところを観戦したりと、ずっと見てるだけですから沽券に関わります。

 いっちょやってやんぞですわ。

 さあ私のお弟子さん達、この暗黒騎士クリスティラの神聖魔法、しかと刮目しなさい。

 

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