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ごめんなさいね、もう聖女やってられないんですよ   作者: まんぼうしおから
第三章・祖国没落

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118/141

118・情けは人の為にならねえマジならねえ

 真偽定かではない伝承のせいで家族親族にうとまれ、挙げ句の果てに実の母親に命を脅かされた少女プリシラ。

 長年冷遇されていたせいでしょう。十四歳にしてなかなかの厭世感を漂わせています。殺されかかったのに動じてませんからね。

 お世話係のミラさんのほうがアワアワしてる有様です。

 いやそれが普通の反応なんですが。


 そのプリシラ嬢から、実家であるコルスタナ伯爵家の力が及ばないくらい遠くに連れてってくれないかと頼まれました。

 できるだけ離れたいのはわかります。

 魔物に食べられた扱いになったでしょうけど、もし生存がバレたら刺客を送りつけてくるかもしれませんからね。

 ですが簡単に首を縦には振れません。


 生活どうするの?

 箱入り娘ですよねあなた?

 これまで働いたこともなければ、生きていくための技術も持ち合わせてないでしょう?

 私としましても、あなたが独り立ちできるまで親身に構ってられませんよ?

 本当にあなたを置き去りにしてお別れしますよ?


 これが私の本音です。

 まあ、一度助けておいて放り捨てるってのも弟子達の教育にも悪いし後味も悪いですが……ずっと後押しやり続けるのなんか、お断りです。

 しかし、実家に帰したとて、プリシラ嬢を待ち構えているのは死の手筈のみ。死んでこいと言うに等しい。

 なので私としては、どこかキリのいい場所でそれなりのお金渡してサヨナラしようかなと考えてる次第です。金なら余裕ありますからね。



 やるべき事や面倒な事は色々ありますが、今はまず旅を続けましょう。

 先を急がねば。


 たぶん、リューヤ達はある程度進んだところで、休憩を兼ねて立ち止まり、我々が合流するのを待っているはずです。

 思いがけない曰く付きのお荷物がくっついてきましたが、それは今に始まったことでもありません。

 私にとって、知り合いが増えるのとトラブルが増えるのは、もはや切っても切り離せないコインの裏表。何かが起きれば新たな友人ができて、誰かが現れれば新たな問題が発生する。なにこの因果。

 いったい天はどういう運命の帳尻合わせしてるのでしょうか。


 やはり天より地。

 大いなる奈落よ、暗黒騎士たる私にどうか闇の救いを与えたまえ。安楽の道を進ませたまえ。


 リューヤはかつて「魚の頭でも信仰したらいいこと起きる」みたいなことを言ってました。

 信仰というものを舐め腐っている発言だとそのときは思いましたが、逆に言えば信仰の力がそれだけ凄いのだともいえます。

 ならば、たとえ仮に書物の中だけにおわす架空の存在であろうと、こんだけ祈ってればいつかご利益出そうなものですが、果たして。





「……また厄介事を拾ってきたのか」


 特に魔物や野盗に襲われることもなく。

 街道横の草むらで休んでいた旅商一同を視界に捕え、合流後。

 事情をあらかた聞き終えたリューヤの第一声がこれでした。わかってました。


「いつものことでしょう? そんな言い方しなくても」


「いつものことだから、こういう言い方になるんだろ」


 それはそう。


「ところで」


 私の視線が、リューヤから、その隣にいる誰かに注がれました。


「どちら様ですか?」


「行き倒れだ。いや、行き倒れだったというべきか」


 その、元行き倒れという人物は、細身の片手剣を腰からぶら下げた女性でした。


 容姿は黒髪黒目の野性味ある美人。

 鋭い眼をしており、乱雑に伸ばした髪はポニーテール風にヒモで縛っています。

 ただでさえ威圧感のある雰囲気なのに、顔を斜めに走る刀傷が迫力をさらに底上げしており、いかにも歴戦の強者という風情です。

 衣服は軽装。これまで見たことのない、独特な、異国情緒溢れる格好です。

 一見、美形の男性に見えなくもないですが、薄汚れたコートらしき上着の下から主張する豊満な二つの膨らみが、それを断固として否定していました。


「そこの茂みで腹の虫を鳴らしていた。ほっといて飯にするのも気が引けてさ」


「それで分け与えたと」


「食い物に困ってなかったからな」


「重ね重ね礼を言う。リューヤとやら、おかげで助かった。やはり、持つべきものは同郷の者だな」


 良く通る、すっきりとした低めの声。

 見た目から想像していた通りの声です。


「だから違うって言ってんだろ」


「しかし、その髪にその瞳、その顔つき。どう見てもヒノモトの生まれだろう? 他にいるはずもない」


「いや、そう言われたらそうではあるんだが……まあ、あまり触れないでくれ」


「そうか、なるほどな……つまり事情(ワケ)ありか。わかった。この話はここまでにしておこう」


 そう言って一人で納得して一区切りつけると、ヒノモトの女剣士さんは、今度は私へ話しかけてきました。

 ……これはきっと、自分のペースで喋るたぐいの人間ですね。

 会話の協調性を持ち合わせてないんじゃないかしら。


「お主、この者の相棒らしいな」


「そうですよ」


「俺は火乱(カラン)。東の東、ヒノモトの生まれ。あてもなく大陸をぶらつき、武者修行している」


 なんか自己紹介始まりました。

 このタイミングで、この名乗り……それはつまり……。


「運悪く、水も食料も底をつき、もはや朽ちて野晒しになるしかないと腹をくくっていたのだが、この少年に救ってもらった。まことにかたじけない」


 ん?

 運悪く?

 それはどうなの?

 運よりオツムの悪さの問題ではありません?


 そんな疑問が次々湧いてきます。

 旅のさなかに食べるものも飲むものも無くなるとか、控え目に言ってもアホでしょ。食料管理は旅人の基礎ですよ。配分気にせず食べてたら無くなるに決まってます。

 そんなやり方で、よくここまで来れましたね。むしろ幸運に恵まれてるほうですよ。


 私の中でこの女性の評価が強者からポンコツへとガタ落ちしていきます。戦うのが得意な人から、戦うことしかできない人へと。


「リューヤ少年は気にするなと言ってくれたが、しかしこのまま別れるのは……恩知らずにも程がある」


 まさか。


「聞けば、エターニアという名の隣国へと癒しの水を運んでいる途中だという」


 癒しの水。

 ポーションのことでしょうか。


「ならば、この『灼刀(しゃくとう)』の火乱、恩返しとして、旅が終わるまでお主らを守り抜こうではないか」


 嫌な予感が的中しました。

 要は護衛するからその間メシ食わしてくれってことだろコラ。恩返しにかこつけて寄生してるだけじゃん。


「間に合ってますって何回断っても、食い下がるんだよ……」


 ギルハが珍しく、ジト目で腹ペコ女剣士を見ています。


「そう遠慮するな。私は腕が立つ。決して損はさせない。食べる分の働きはする」


「…………すまん」


 でかい胸を張って自信げに語る火乱さんの横で、リューヤは珍しく申し訳なさそうにぼそりと一言言いました。

 珍しいものばかり見ますね今日は。


「謝ることはない。それぐらいやらせてくれ。タダ飯食らいなどヒノモトの恥、剣士として情けないことだからな。アッハッハ!」


 『変なもの拾ってすまん』という、私に対してのリューヤの詫びを、火乱さんは自分へのものだと勘違いして一人高笑いしていました。あーもうめちゃくちゃですよ。

金食い虫と飯食い虫が増えました。

クリスティラ「ハァ~~~~」(クソデカ溜め息)

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