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ごめんなさいね、もう聖女やってられないんですよ   作者: まんぼうしおから
第三章・祖国没落

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116・さらなる追撃

「私が魔物の餌食になったことにして、どこか──コルスタナ家の目と手の届かない、遠いところへ連れていってもらえないかしら?」


「連れていくのは構いませんが、どうやって生きていくのです? 失礼ですが、アテなどないようにお見受けしますが……」


「そ、そうですよお嬢様。この危険そうな方の言う通りです」


「……怪しげとか危険とかさっきから……いや、私は暗黒騎士なんだから、むしろ……妥当? 肯定すべき? しかし……スローライフを目指す上で、そう思われるのはマイナスにしか……ですが……」


「どうなさったのですかお師匠さま?」


「……え? ああ、何でもありませんよ。理想と現実のすり合わせをね」


「?」


「それはともかく、お付きの方も私に同意してるみたいですよ?」


「ではこのまま帰って、座して死を待てと?」


「そこまで言うつもりはありませんが……」


「言ってるのと変わりませんよ」


「見ず知らずの者しかいない土地に放り出すのも似たようなものでは?」


「まだそのほうが助かる目はあります」


「どうでしょうね」


 どこまでも頑なプリシラお嬢様。

 ですがこの子の言い分にも、一応、利があります。

 魔物が潜む場所へと遠回しに誘導させられたのなら、それを凌いでも次はもっと直接的にやってくるのは自明でしょう。

 犯人が己の非道な行いを恥じて思い直す……。

 ないですね。

 そこで改心するくらいなら最初からやりませんよ。


 では、陰謀ではなく、ただの不幸な偶然の可能性はどうでしょうか。

 一見ないこともないですよね。このプリシラという少女が被害妄想をこじらせただけかもしれませんし。

 ……が、偶然にしては、殺しのお膳立てが整いすぎてます。

 珍しいちょうちょさんが生息してる花畑かと思ったらオーガセンチピードさんの縄張りでした。

 無理がありますね。

 何をどう血迷ったらそんなふざけた間違いをしたのだと、言い出しっぺを小一時間問い詰めたくなります。

 この子が食いつきそうな噂を故意に流した……そう考えるのが自然でしょう。だとすると、やはりこの子の身内が裏で糸を引いていたことになります。残酷な話ですね。



「連れていくかどうかは後で決めるとして、まず出発しましょう。先に進ませておいた私の仲間達も心配してるでしょうから」


 その落としどころでプリシラ嬢も納得してくれて、ようやく我々はリューヤ達と合流するために動き出しました。


 幸いなことに、天井の穴こそどうにもなりませんでしたが、車輪を再びはめ込むと馬車は動くようになりました。

 厳密にはそれだけではありません。

 ルミティスが『修復』の魔法を使えたおかげです。

 私やオレンティナには使えない魔法です。神聖魔法の枠内には存在しない魔法なので。

 これもまた、魔術師が用いる魔法──論理魔法を神聖魔法としてアレンジしたものだとか。


「才能凄いですね」


「そ、それほどでもありませんわ」


 ちょっと褒めただけなのに赤ら顔で喜ぶルミティスでした。



 結論を先延ばしにして、現役復帰した馬車と共に街道をひたすらエターニア方面へしばらく進んでいると、


「あら?」


 プリシラ嬢達が逃げてきた方角から別の馬車が来ました。

 明らかにこちらに向かってきています。



「探したぜ。いやぁ、驚いたよ。まさかあのムカデから逃げおおせるとはなぁ……」


 真意が掴めないので、行進を止め、警戒しながら待っていると。

 こちらに来た馬車から降りてきた男達の一人が、そう言って、街道の石畳に唾を吐き捨てました。

 はい、友好的ではないですね。


「あなた方は……!」


 プリシラ嬢の関係者かもしれないので、ミラさんにも外にいてもらったのですが。

 そのミラさんが、憎々しげに睨んでいます。


「お知り合い?」


「今回付いてきたお嬢様の護衛役です。といっても、いつの間にかいなくなってた給金泥棒ですけど」


「そりゃそうさ。巻き添え食らうのは御免だからな」


「その口振り……もしや、知っていたのですか?」


「おうよ」


 護衛のまとめ役らしき男と、その後ろにいる三人の仲間が、ニヤニヤ笑っています。

 不快な笑みです。とても。


「流石におたくだけなら不安だろうが、俺達が付いていけば、あのお嬢様も安心して例の場所に向かうだろ?」


「着いたら、向かった先で魔物寄せの効果がある臭い袋をぶちまければいい。後はあのバカでかいムカデにおまかせさ! ヒャヒャッ!」


 まとめ役の後ろにいた三人の内、一番人相の悪い痩せ気味の男が、説明を引き継いでから下品に笑いました。


「そうですか、あなた方もグルだったのですね」


「誰だあんた? いかれたカッコしてる割には、若い女の声だな。そこのガキらも見ない顔だ」


「たまたま遭遇しましてね」


「そうかい。そりゃ運がないな」


 護衛役の皮をかぶっていた、始末役の男達。

 その各々が武器を抜きました。

 何のためにかは、どんな鈍い人でも察することができるでしょう。


「大人しくしてりゃ殺しはしねえよ。死んでもらいたいのはお嬢様だけなんでな。ま、その代わり、奴隷商にでも売り払われることになるがね。ここで殺されるよりはマシだろ?」


 男達のまとめ役が、曲刀の刃をこちらに突きつけました。

 さっきのムカデに比べたら何の迫力もありませんね。ちっさ。


「そうですか。では、やれるものならどうぞ」


「そうそう、そうやって大人しく──なぁにぃ?」


 まさか二つ返事でお断りするとは思わなかったのでしょう。

 まとめ役は小さく何度も頷いて満足しながら、途中で拒絶されたことに気づいて、間の抜けた声を出しました。


「ヒュウ~、こいつは驚きだ。あのヤバい格好の姉ちゃん、やる気満々だぜ」


 バンダナ巻いた若い男が、槍で自分の肩をトントン叩きながらそう言いました。


「あーあ、マジかい。いらねえ手間を取らせてくれるな、全くよ……」


 私達が歯向かうとわかり、まとめ役の男が、呆れたようなため息をひとつつきました。


「──おい、おめえら」


「はいはい。わかってんよ、大将」


「売り物になる程度に懲らしめればいいんだろ? んなことくらい言われなくてもわかるっつーの」


「ちげえねえや、ヒャハハッ!」


 楽しそうですね。

 これから地獄を見ることになるのに。


(あの、我が師よ)


 密やかに私に語りかけてくる、小声。

 オレンティナの声です。


(どうかして?)


(この連中、やけに強気ではないですか? 僕らがオーガセンチピードを倒したというのに……)


(知らないからですよ)


 先にあのクソデカムカデの死骸を見つけていたら、恐れをなして即バックレてたでしょうがね。

 私達を先に見つけてしまったのが運のつきです。


(逃げおおせるなんて……みたいなことを言ってましたわね)


 ルミティスも会話に入ってきました。


(無事だからそう判断したんでしょうね。私達があのムカデを仕留めたなんて、一欠片も思ってませんよ)


「……オイ、何をヒソヒソと話してんだ? この状況わかってんのか?」


 こっちの台詞ですよ。


「ええ、わかってますよ。ご心配なく」


「いけすかねえ不気味な女だぜ。ケッ、何なんだよその余裕は……」


 始末役のリーダーが苛立ち始め、その瞳が危険な光を宿しました。殺意の光です。


「もういいもういい。付き合うだけ時間の無駄だ。──やっちまえ」



 心底面倒臭そうなその言葉が、やる前から結末が分かりきってる戦闘開始の合図となりました。

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