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ごめんなさいね、もう聖女やってられないんですよ   作者: まんぼうしおから
第三章・祖国没落

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115/141

115・忌まわしき蒼の少女

「とんだ見かけ倒しでしたわ」


「それには同感かな。珍しく気が合うね」


 ルミティスとオレンティナ。

 どちらが主役かで揉めてはいましたが、連携そのものは見事でした。


「……言っておきますが、オーガセンチピードは他愛ない魔物ではありませんよ?」


 いやまあ、私の必殺『竜叩き』なら、あっという間に砕き散らせますけどね。

 でも並の冒険者はこんなのと対峙したら命がけです。

 新人にいたっては冒険者の道を選んだことを心底悔いながら失禁するでしょう。

 わりとあるんですよね。自分の身の丈よりずっと大きな魔物に出会って、恐怖のあまりオシッコ袋の抑えが死んじゃうこと。

 どう慰めても惨めな気持ちにさせてしまうので、こちらとしては見て見ぬふりをするしかできません。からかうのは絶対駄目です。ほぼ恨まれますよ。


「──にしても」


 分割されたクソデカムカデの無惨な死骸。

 それに対して、いくつかの疑問が浮かびます。


「どこから来たのか。なぜこちらに来たのか。偶然か、理由があるのか。知らなければなりませんね。今後の旅に差し支えるかもしれないので」


「あちらの方々が手がかりになればいいのですが」


 ルミティスの視線の先にいる、半円型の結界に守られた三人と一匹。

 一匹は聞き取りのやりようが無いので三人が目覚めたら根掘り葉掘り聞きましょう。


「どこまでわかってますかね」


 オレンティナが問いかけてきました。


「そればかりは、実際に聞いてみないとなんとも……」


「素直に教えてくれたらいいですけど」


「助けてあげた恩をチラつかせれば、よほど後ろめたいことでもない限り、良心が(とが)めて喋ってくれますよ」


「うぅ~ん……仮にも聖女を目指す身として、恩着せがましい事は……」


「そこは私がやりますよ。あなた方の師である、この暗黒騎士クリスティラにドンと任せなさい」


「僕とルミティスがそれを黙認することになりますよね……?」


「細かいことは気にしない!」


 右手親指立てて爽やかにそう言うとオレンティナも納得してくれたのか、困り顔のような笑みを見せただけで、それ以上食い下がりはしませんでした。

 わかってくれて何よりです。





「…………っ! お嬢様っ!? ……え、あの、あなたはどこの誰……魔物は!?」


「落ち着いて落ち着いて。大丈夫ですから。私は怪しい者ではありません」


「いやどう見ても怪しい……」


「怪しい者ではありません」


「でも……」


「ありません」


 活力の魔法で意識を取り戻させると、お世話係らしき女性は軽いパニックに陥ってしまいました。

 ガバッと勢いよく上半身を起きあがらせ、思いついた疑問を次々と口走っています。

 無理もありません。

 さっきまで生きるか死ぬかの瀬戸際に立たされていたのですから。

 なので、話を聞き出すよりも、まずは落ち着かせないといけません。あまり騒ぐようならビンタくれてやるところですが、説得の甲斐あって早めに冷静になってくれました。運が良かったですね。


「魔物は退治しました。あなたが抱きかかえていた女性も無事だし御者や馬も元気です。そして私は怪しくありません」


 馬車だけはどうにもなりませんでしたがね、と付け加えておきました。天井の破壊もあのムカデに押し付けておきます。


「そう、ですか……」


 脅威が去ったことを知り、緊張の糸がぷつりと切れたのでしょう。

 うなだれ、両手を力なくだらりと垂れ、長く息を吸うと、吐き出しました。心中の様々な思いが込められたであろう、重い溜め息でした。


「……うぅ、ここは……?」


 その隣に寝させられていた、お嬢様とおぼしき女の子も意識を取り戻したようです。

 こちらは魔法の助力なしに自力で目覚めました。元気一杯の年頃ですからね。


「プ、プリシラ様! お怪我はありませんか!」


 すぐ横にお嬢様がいたことにようやく気づいたのでしょう。

 女性はさっきまでの脱力が嘘のように、素早く、すがりつくようにその子の手を取りました。


「あれ? 魔物は? 私達どうなったのミラ? もしかして天国? そんなに良い行いしてたかしら」


「違います違います、そうではありません! プリシラ様、私達助かったのですよ! 生きのびました! よかったぁ!」


 半泣きになりながらミラと呼ばれた女性が、プリシラと呼ばれた女の子に、自分達が助かったことを興奮しながら伝えました。

 説明しながら喜んでいます。

 まあ気持ちはお察ししますよ。あんなのに追われたら、そりゃ死を覚悟しますよね。


「そう。それは残念ね。天国だったら良かったのに」


 しかし返ってきたのは、驚くことに、喜びの同意ではなく不満の声。

 これにはミラさんもびっくり。

 びっくりしすぎて涙が一瞬で止まり、そして声を荒げました。


「何をおっしゃるのですか……!」


「言わなくてもわかってるでしょ? どういう意味なのか、私のお付きであるあなたなら百も承知よね?」


「…………」


「──蒼が含まれている髪色は不吉のしるし。コルスタナ家に災いと死をもたらす。つまらない言い伝え」


 蒼ですか。

 ああ、確かに。

 腰まである金髪ストレート、そのところどころに蒼いの混じってますね。


「…………」


「家族は本気で信じてる。私が産まれた翌年、流行り病が領地を襲ったせいでね。やはり言い伝えは正しかったと、そうなった。あなたも聞かされてるでしょ」


「……信じてませんよ」


「でしょうね。でなきゃ私のお付きなんて不吉で恐ろしい仕事、引き受けるはずがないわ」


 プリシラ嬢は私達のことなどまるで気にせず、ミラさん相手に話を続けます。


「珍しい蝶がいる花畑がある──そんな話を私の耳に入るように仕向け、あの大きな魔物の縄張りに踏み込ませる……あとは魔物に任せれば全て済む。自分達の手は汚れない。いい考えね。誰の仕業かしら? お父様かお母様? お爺様? それとも妹のプリメーラ?」


「……それは、私には何も言えません。断言ではなく推測だろうと、不敬に当たります」


「律儀ね。まあいいわ」


 プリシラ嬢はクスリと笑いました。


「このまま帰ったところで、次はいずれ毒杯よ。どのみち私に未来は無いわ。家族は私の殺害に舵を切ったのだから。少し命が長引いただけ」


「そんな……!」



 ……なんか…………えらい深刻なことになってますね……。

 口を挟むのを躊躇(ためら)ってしまいます。

 さっさと話を聞くだけ聞いて、リューヤやギルハ、旅商の方々と合流したいのですが、少女の自虐的で悲劇的な自分語りがそれを許さない空気を作り出しています。


 でものんびりしてられないのでそろそろ切り出しますか。いつまでも傍観してられないのです。仕事中なので。


「お話が盛り上がってるところすいません。ちょっとよろしいでしょうか」


「あなた、誰?」


 気の強そうな瞳が、私の顔を睨むように見つめました。


「あなた方の命の恩人です」


「……そうだったの。なら無視するわけにもいかないわね。怪しげな見た目には目をつぶるわ」


「話の腰を折ってすいませんね。こちらも先を急ぐ身の上でして。あと私は怪しくありませんよ?」


「で、何の用かしら」


「これも何かの縁です。もしよければ、私達の仲間と共に、宿場まで同行しませんか?」


「それは素敵な提案ね。そうしてもらえたら助かるけど……」


「何か不満でも?」


「なぜ、赤の他人である私達に、そこまで親身にしてくれるの?」


 あなたの長話に付き合いきれないからですよ。

 とりあえず窮地を救ってあげたんだから後は放置したいんですけど、それをやると、我が愛弟子達から色々言われそうですからね。

 さっさと安全な場所に送ってあげるから、そこで好きなだけ会話に花を咲かせて下さいと、そういう事です。


「人助けに理由などいりますか?」


 本音を言うわけにもいかないので美しい言葉で誤魔化しました。


「お人好しね」


「よく言われます」


 これも嘘です。


「なら、厚かましいのを承知で、さらに一つ、頼み事をしたいのだけど……」


「出来る範囲でよければ」


 あまり無茶な要求なら飲みません。そこはハッキリ言っておきます。



「……私を、ここで死んだことにして、どこかに連れて行ってもらえないかしら?」

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― 新着の感想 ―
随分無茶な要求来たな。
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