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ごめんなさいね、もう聖女やってられないんですよ   作者: まんぼうしおから
第三章・祖国没落

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114/141

114・聖(なる力で敵をぶっ殺す)女たち

「あの馬車、ムカデなんてどこで拾ったのかしらね」


 ここは国境付近の緩衝地域やどこにも属さぬ無法地帯ではありません。コロッセイアの領地でも内側にあたる地域です。

 比較的安全な一帯でこのレベルの魔物がいるとなれば、大騒ぎは避けられません。冒険者ギルドでも討伐依頼が(できるかできないかは置いといて)出ているはずです。

 地方領主が兵を動かすことすらありえます。

 でも、そこまでの事態だとしたら、事前にあれこれ調べていたリューヤの耳に入らないわけがありません。

 突発的なものでしょう。


「エターニアに行かず、こちらに流れてきた……それが妥当でしょうね。たまたま来ただけならいいのですが……」


 なにかに追い出された、もしくは逃げてきたなら、まずいことになります。

 オーガセンチピードが恐れおののくほどの化け物が、これから向かう先にいるかもしれないのです。

 それは、絶対ではありませんが、無いともいえません。

 旅路に暗雲が立ちこめてきました。

 でも今は走るのみ。



「ふぅ……」


 たいした距離でもないのですぐ到着。目視できるほどしか離れてませんからね。


「お昼寝ですか?」


 草むらに横になっている馬車。

 そばには気絶した御者や馬が仲良く寝転んでいます。


「……笑えない冗談はさておき、中にいる方は無事でしょうかね」


 全く出てくる気配がないです。

 怪我をして動けないか、気を失ってるか。打ちどころが悪くて、首の骨でも折れてお亡くなり……も、ないとはいえません。

 馬車によじ登り、真上を向いている扉を開けます。

 ノックしてる暇はありません。乗客は一刻を争う重傷かもしれませんし、なによりすぐそこで弟子達が戦っています。

 彼女らが不覚をとるようなことがあれば助けなければいけないのです。こちらにばかり構っていられません。優先順位はこっちではなく弟子達のほうが上です。


 返事や反応を待たず中へ。


 中にいたのは二人。

 いかにも生意気そうなお嬢様と、そのお嬢様を抱きかかえて守っている女性。

 どちらも気を失ってる様子です。

 お嬢様はオレンティナやルミティス、お留守番の双子と同じくらいの年頃に見えます。この女性は──お世話係さんでしょうか──見た感じ私と同じくらいだと思いますね。

 覆い被さってお嬢様を守ったときにぶつけたのか、女性の頭からは血が流れていました。献身的ですね。


「まず外に出しますか」


 左右の脇に一人ずつ抱えてから天井部分を蹴り飛ばし、そこから外へ。

 荒っぽすぎるかもしれませんが時間が惜しいのです。

 横転の衝撃のせいか、車輪が片方外れてましたし、ここからさらに多少壊しても別に怒られないでしょ。

 なんか言われたらしらばっくれるまでです。


「──これでよし、と」


 ボウルを逆さまにして地面に置いたような、半円型の光る壁の中心に三人と一匹がいます。

 お世話係さんだけでなく、念のためお嬢様や業者のおじさん、それに馬にも治癒魔法をかけてから、守りの結界で包み込んだのです。

 これで治療も済みましたしムカデの餌になることもありません。後は決着つけるのみ。

 今度はあちらに向かいましょう。


 二人と一匹の戦いは、まだ続いていました。

 さっき始まったばかりですからね。

 オレンティナもルミティスもまだ無事なようです。怪我をしてるようには見えません。

 まあルミティスには感覚を狂わせるあのスキルがありますし、オレンティナはそもそも接近戦してないのでね。


「くらいなさい!」


 オレンティナの手元からいくつもの光る球がムカデへと飛び、命中して派手に爆発します。

 神聖魔法『聖弾』です。

 全部当たりました。

 やっぱり的が馬鹿みたいに大きいと当てやすくていいですね。外すほうが難しいです。


「ギギギギギィ!」


 胴体や頭は焦げ付いたくらいですが、足が数本弾け飛びました。

 なかなかの破壊力です。


「このような堅い手当いは、まんべんなく当てるよりも一点狙いのほうが効きますよ」


 後衛役になってるオレンティナのそばに行き、師匠らしく堂々と助言してみます。思いつきですが。


「なるほど。では早速!」


 再びオレンティナが『聖弾』を使いました。

 しかしさっきとは違います。

 頭部に集中攻撃をしかけたのです。


「ギギャアァ!」


「効いてる効いてる。効いてますよ!」


「はい、痛手を負わせられました。流石は我が師、冷静な判断力です。僕がその域に至るにはまだまだ精進が足りませんね」


 砕けた右の角。

 頭部の損傷から撒き散らす緑の体液。

 痛烈な集中攻撃をくらい、ムカデが苦しそうに吼えています。

 よく見たら右目からも体液が流れ落ちてますね。視界を片方奪えたようです。これは有利になりました。


 私の助言は適切だったみたいです。よかった。

 防御魔法で叩くことしかしてこなかったから、応用とか小技とかよくわからないもん。


「よい援護ですわ! 褒めてあげましょう!」


「なっ……君の引き立て役になったつもりはないよ!」


 援護呼ばわりがムカついたのか珍しく大声で反論するオレンティナ。

 そんな反論を無視してルミティスが攻勢に出ました。


「鎧や殻は隙間をね……っと!」


 レイピアに宿らせている聖なる力がより一層強く濃くなりました。いよいよ本気ですね。

 もはやレイピアではなく光るロングソードを持ってるように見えます。


 さっきまでルミティスは防戦気味に戦っていました。

 距離感を狂わせているとはいえ、この大きさです。大雑把に暴れまくられたらまぐれ当たりが起きかねませんからね。

 だからルミティスも消極的に足狙いしていたのですが、ムカデの片方の視界が失われたのを、好機と見なしたのでしょう。

 見えなくなった右側から距離を詰め、長く太い胴へと神聖レイピアを──


「グギギャアアァ!」


 一太刀。

 たった一太刀で、オーガセンチピードの堅い外殻に覆われた胴が半分くらい斬れました。これはすごい。

 しかもレイピアの聖なる光は衰えていません。一発限りの大技ではなく継続できるようです。

 スキル『軽挙迷妄』に加え、この威力の攻撃。

 なるほど、これだけ兼ね備えていれば接近戦を好むわけです。隙間を狙ったのが外れたのは見なかったことにしましょう。斬れたからヨシ。


 ルミティスがさらにムカデに追撃しようとした、その瞬間。

 すかさず。

 深く切り裂かれた胴体の傷口に、オレンティナの放った光球が吸い込まれていきます。


 爆発。

 そして破裂。

 耐えきれず胴が千切れ、ムカデの長さが半分以下になりました。

 サイズの大きさが一番の脅威だっただけに、これはかなりの弱体化です。

 虫系魔物だけにとてもしぶとく、まだ元気ですが、悪い偶然が続発でもしない限りこちらの負けはもうないですね。


「いいアシストだったよ、ルミティス!」


「何ですってぇ!」


 さっきと立場が逆転しました。

 やはりこの世の中、やったらやり返されるんですね。因果応報。



 ……そこから先は、クソデカからデカへと格下げされたムカデに逆転の目などなく。

 競うように戦う二人によって斬ったり弾け飛ばされたりされまくって、デカから普通に、ショートへとどんどん縮小。

 最後に残った頭部を滅多斬りの滅多爆破で、完膚なきまでに息の根を止められましたとさ。めでたしめでたし。

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