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ごめんなさいね、もう聖女やってられないんですよ   作者: まんぼうしおから
第三章・祖国没落

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112・抱き枕は誰だ

 確かに地味ですね。


 うん、これは紛れもなく地味です。


 数時間前のルミティスの活躍や、オレンティナ自身の使う攻撃魔法と比べたら、見栄えも迫力もなきに等しいです。

 けなしてるわけではありません。

 どこでも好きに歩けるだけのスキルなんですから、派手さを要求する方がおかしいんですよ。


「地味だねぇ」


「こらっ」


 言わずともよいことをギルハがほざきました。

 皆がわかってるからこそ黙ってたことをなぜ口に出したんですかあなた。


「いえ、言われ慣れてますし受け入れてますから、お気になさらず」


「そうですか……」


「いだだだ」


 ギルハの腕をひねりつつ、私はそれ以外言えませんでした。

 「ですよね」と言うのも茶化してるようですし。

 「そんなことはないですよ」も白々しい。

 「ある意味驚きでした」はどんな意味なのか私にもわかりません。

 ギルハの腕を曲げたら駄目な方向に曲げようとしながら、彼女の諦観をただ受け止めるしかなかったのです。



「もげるかと思ったぁ……」


「いらんこと言うからだ。迂闊すぎるぞ。後先考えろ」


「ひどい……」


 涙目で腕をさすってるギルハにリューヤが説教しています。

 偉そうなこと言ってますが、リューヤはリューヤでわりと口が滑ったりするんですがね。



 男性陣の軽口はともかく。

 二人のスキルはこれでわかりました。

 同時に、これまで二人がそれぞれ無事に一人旅できた、その理由も。

 悪党や魔物に襲われても、オレンティナは壁なり崖なり逃げれば追いつかれることはまずないでしょうし、ルミティスの場合は指一本触れられることなく返り討ちにできたはずです。

 どちらも使い勝手のいいスキルですよ、ホント。


 ……聖女になるための後押しには全くなりませんがね。


 今からでも遅くないし別の道に進めばいいかとも思いますが、まだ十四の少女なんだから好きにやらせてもいい気もして、心が板挟みになります。

 でも、これが人生の先輩であり導き手であるがゆえの悩みなんだなと思うと、こう、自分の立場に酔っちゃいますね。師匠はつらいよ。



「さっきのはたまたまだったのかしら」


 いい感じに曇って日の光を遮ってくれている、午後の空。

 休憩もオレンティナのスキル披露も終わり、我らポーション運送隊の行進は、そんな空の下で再開しました。

 一休みしてる最中に新手に襲われるかもと警戒していましたが、別段そんなこともなく、こうしてのんびり馬車と並んで歩いています。


 さっきの休憩中に聞いたのですが、このままいけば今夜は街道そばの宿場に泊まることになると、旅商リーダーは言っていました。

 高価な大荷物持ちですからね。

 頼れる護衛がいても夜営はできるだけしたくはないでしょう。泊まる場所があるなら泊まりたいに決まっています。危ない橋を渡るのは他にルートがないときのみにすべき。

 余計な道草食わず、さっさと宿に入りたいものです。

 でも、私達が食べたがってるわけではなく、魔物や野盗という種類の道草のほうから、ほら食えやれ食え食って食って時間を無駄にしろと迫ってくるのですがね。


「せめて実入りがよければいいのに……」


 我ながら無茶なことを呟いてしまいました。くふふっ。


 そこらをうろついてる魔物が、金やお宝など持ち合わせてるはずもなく。

 奪うことしか出来ない、山林などに巣くう食いつめ者の集まりにしてもそれは同様。

 いや、武具や道具の材料にも食料にもならないのですから、魔物より価値がありません。倒しても手に入るのは使い古しの武器と申し訳程度の防具、あとは死体だけです。マジいらん。

 しかも野ざらしにすると、熊や狼が食べて人の味を覚えたり、場合によってはアンデッドになったりしますからね。深く埋めるか燃やすかしないと、後々他の人に迷惑がかかります。

 生きてても死んでても、誰かの害にしかならない。

 それが野盗です。


(でも、対人戦のいい訓練になるとリューヤが言ってたことありますね)


 えげつない事を言うものです。

 訓練といえばまだ聞こえはいいですが、つまりは、生きた人間を用いて殺しの練習や実験をやると、そういうことです。


(やっぱり盗賊じゃなくて暗殺者なんじゃないですかね、リューヤ。……まあ、どっちでもいいですけど)


 どっちだろうと信頼が揺らぐことは今更ないですからね。

 最近は立て続けに様々な仕事が舞い込んできてるので深酒も控えてるようですし、あとはあの減らず口さえ少なくなれば文句無しです。ならないでしょうが。





「……いきなりあれでしたからね。今回の旅の雲行きが怪しいかとヒヤヒヤしていましたが、何事もなく着けてよかったよかった」


「あの一回はたまたまだったんですよ」


「らしいですなぁ。はっはっは」


 安堵してリーダーさんは笑いました。


 石を敷き詰められた長い道を淡々と進み、夕方、私達は宿場へと到着しました。

 魔物に出会ったのは、あの一回──シルバービートル三匹のみです。

 盗賊山賊に至っては影も形もありません。

 行く手を阻まれることもなく、災害にさらされることもなく、至極穏やかな道中でした。



 運送メンバーと護衛メンバー、全員食堂に勢揃いして、それなりの夕食をたいらげた後。

 私達護衛メンバーは、女だけの三人部屋のほうに集まっていました。


「この辺は、よその地域と比べても平和な部類らしいですね」


 道中、リーダーさんから聞いた話を皆に伝えます。

 情報の共有は大事。基本です。


「だろうな。荒れてる感じがまるでない」


 リューヤが言うように、街道は綺麗なものでした。

 酷いところになると獣の骨だの人の骨だの普通に転がってますからね。


「だからこそ、いきなり大顎が何匹もお出ましになって、びっくりしたんでしょうね。いつもと違うと」


「でも、それからは何もなかったね。拍子抜けだよ」


 針を(もてあそ)びながら、ギルハが残念そうに言いました。


「もしかすると、私の強さに恐れをなしたのかもしれませんわね」


「ないよ」


 瞬時にオレンティナが否定します。

 二人の間の空間が、少しピリついたようにも思えました。


「揉めるのは無しですよー」


 荒れそうになる前に芽を摘み取っておきましょう。

 ゆっくり休んで明日への活力を得なければならないのに一戦交えさせたりはしません。これが、できる師匠の振る舞いです。


「もう話すことも無さげだし、寝るか」


「じゃーねー」


 巻き込まれるのは面倒だとばかりに、男衆はそそくさと隣の部屋へ戻っていきました。

 リューヤの手に、赤い液体のつまった酒瓶が握られていたのが気になりますが……ほどほどにしてくださいよ、もう。


「さ、私達も明日にそなえて、寝ましょうか」


「ええ、そうですわね」


「お休みなさい」


 こうして一日目の夜は終わりを迎えました。



 ──翌日の朝。



「ん……んん?」


「んっふふ、お姉様ぁ……ぐふふ…………」


 気持ちよくまどろんでいたら、妙な感触を覚えました。

 何かが、乗っかっています。私の上に。


 人?

 誰?


 次第に、次第にじわじわと、意識がハッキリしていきます。

 完全に意識を取り戻し、私の上にいる何者かを視界に収めました。


「い、いつの間に……」


 私の胸の谷間に顔を半ばうずめるような形で、ルミティスが寝言をこぼしていたのです。


「んっ…………ふぁああぁ~」


 オレンティナが上半身を起こし、伸びをしました。


「……おはようごさ──」


 私を抱き枕にして、いまだ夢の中にいるルミティスを見たのでしょう。

 朝の挨拶がピタリと止まりました。


「……なにやってんだ君は」


「べぶっ!?」


 オレンティナは、裸足のまま、つかつかとこちらのベッドに来るや否や、幸せそうに眠るルミティスの頭にチョップをかましたのでした。

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