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ごめんなさいね、もう聖女やってられないんですよ   作者: まんぼうしおから
第三章・祖国没落

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105/141

105・ふわっと張り巡らせてみました

「本当にこれで出来たらびっくりですね」


「だよな」


「え?」


 私のそばに立つ、黒目黒髪の少年リューヤ。

 そこそこ整った容姿なのに目つきの悪さで減点されて中の下くらいの評価にされてる、そんな少年から、耳を疑うような言葉が返ってきました。


「あなたがそれ言います?」


「だってなぁ……」


 悪びれることなく、頬をポリポリかきながら、リューヤは言葉を続けていきます。


「単に思いつきを述べただけだよ。現状を打開できるなんて一言も言ってないし、そんな確信もなければ予感もない。逆から攻めたらなんかいいかもねってくらいの気持ちさ。提案というより洒落だな」


「長い言い訳でしたね」


「素人考えだと最初に言ったはずだが?」


「転ばぬ先の杖を持つのがお上手だこと」


「これくらいの屁理屈こねる頭、もとい処世術はないと、ギルドや盗賊界隈でやってけねーよ」


「実力だけじゃどうにもならないのは、どこも同じですか」


「それが世渡りってもんだよ」


「歯がゆい話ですね」


 俗世と離れた人々の集う敬虔な場所──神殿ですら、神聖魔法の技量より、知恵とカネとコネが物を言いましたからね。

 私が嫌々聖女やってた頃にも、神官としての実力は二流だけど立ち回りの上手さは一流という、小賢しい人物がいたものです。

 ほとんど誰からも好意的に思われてなかった人物ですが、それなりに権威のある地位にいました。舌がよく動くというのは、時に、剣や魔法の腕よりも厄介なものなのです。

 どこの世界もそう簡単に力ずくで事を運ばせられないのは、腹立たしくも健全であり、回りくどくて手間のかかることでもあり、しかし理性的で良いことでもあり……。


 つまるところ、一長一短ですね。


「──とりあえず、浅めに張ってみましたが……どうでしょう?」


 世の中の面倒臭さについて思いを巡らせていると、半信半疑という様子のオレンティナさんが、声をかけてきました。


「ん、確かに、さっきより薄いですね」


 三回目となる『四霊障壁』。

 結界を構成している壁は一回目や二回目のときと違い、聖なる力の濃さが目に見えて弱まっています。

 このくらいなら解呪系の魔法やスキルでどうにかできそうな感じですね。もしくは強烈な精霊魔法で打ち破るか。


「言われた通りしてみましたが、これで長持ちするのでしょうか」


「……したらいいんですけどね……」


 発想の大元が、合法と非合法の狭間を行ったり来たりしてる盗賊小僧の戯れ言ですからね。期待できません。


「発端がそもそも、根拠の全くない一意見に過ぎませんもの。寝言に近いですね。なので、そう真摯に受け取らず、一種の気分転換みたいなものだと思えばいいんですよ」


「酷い言い草だな」


「フフッ、あなたが言われても仕方ない事ばかり喋るからでしょ」


 サロメの言う通りです。

 リューヤは少し自分の軽はずみな発言に気を付けるべきですね。


「だいたい、ふと思いついた洒落みたいなものだと、自分で言ってたじゃないですか。なら、雑に扱われて当たり前ではありません?」


「人に言われるのと自分から言うのとは違うんだよ」


「それは分からないでもないですね」


「だろ?」


「なら今度からはもっと自発的に卑下して下さいね」


「はっはっは」


 リューヤが笑いました。

 愉快さなど欠片も感じられない、乾いた笑い方でした。敵対者の笑いというやつです。





「……………………本当に長持ちしましたね、お師匠さま」


「そ、そうですね……」


 嘘から出た実とはこのことでしょうか。


 三回目となる結界魔法は、小一時間ほど持続していました。その間、オレンティナさん本人による結界の制御や維持などは一切なく、手放し状態です。


「これは成功と見なして、問題ないでしょうね」


「そう言ってもらえるのは有難いですが、僕としましては、結界の強度に不満アリなのですけど」


「そこはこれから修練して、おいおい慣れていけば、いずれは範囲も聖なる力の密度も立派なものになりますよ。地道な努力を積み重ねるのは苦手ではないでしょう?」


「別に得意というわけでもなく、単に才能が秀でてないから、そうせざるを得なかっただけといいますか……」


「修練を実行に移して、ずっと頑張って続けていられるのも、また才能のうちですよ?」


「そういうもの、でしょうか」


 どこか腑に落ちない様子のオレンティナさんでした。


ちょいちょい


「ん?」


 後ろから、肩をつつかれています。

 感触からしてたぶん人差し指でしょう。


「…………」


 気は進みませんが、仕方なく振り向きます。

 すると、何となく想像していたものが目に入ってきました。


「どうよ」


 リューヤがふんぞり返って顎を上げ、偉そうな顔で、見下すかのような視線をこちらへ向けていました。うぜえ……。


「何か俺に言うことはないか?」


「まぐれ当たりおめでとう。さて、オレンティナさん。一皮剥けましたね。完璧主義もいいですが、聖女を目指すのであれば、全てを包み込むやんわりとした姿勢こそ大事なのだと、これでわかったでしょう?」


「悪しきをはね除ける厳しさではなく、弱きを受け入れる慈しみ──ですね」


「その通り」


 理解の早さに嬉しくなり、オレンティナさんの頭をつい撫でてしまいました。

 「子供扱いしないでくれませんか」みたいな不満の声が上がるかもと(やってから)思いましたが、そんなこともなく、当のオレンティナさん本人も、


「えへへ」


 まんざらでもないようです。

 可愛がられることが今までろくになかったのかもしれませんね。大人びた性格と賢さの持ち主ですから。


「おい」


「あら、どうしましたのリューヤ? もしかして、あなたもナデナデを所望とか?」


「少しは言うことあるだろ」


「だからさっき言ったじゃないですか、少しだけ」


「俺の閃きを称賛する気はないのか」


「私のお尻ばかり気にする()()()()にしては、なかなかのものでしたね」


 さっき聞いた言葉をそのまま返してあげると、リューヤは「なんて感謝の言葉だ、まったくよ」と、苦い顔で地面へと吐き捨てるのでした。



 さて。

 オレンティナさんとルミティスさんですが……私の下で学ぶ必要はもうなくなったのではないでしょうか。

 二人ともわずか一日で苦手を克服し、護国の聖女という目標へと大きく前身しました。

 やること済んだし弟子入りやめて帰国しても問題ないと思いますが、そこはまあ、本人達に決めさせましょう。


 いったい二人は、どんな判断をすることやら。

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