第347話:研究所②
『魔人』計画の責任者、ダーバルド帝国の伯爵だというグラリオス・ケイファを倒した後、部屋を確認すると、いくつかこれまでの研究成果を纏めたものと思われるレポートが見つかった。
簡単に内容を確認したが、次々と描写される悪辣な実験の数々に気分が悪くなった。
それらの資料を念入りに燃やし、原資料と思われる報告書やメモの類いも処分していく。
実際に、『魔人』を生み出していた場所、設備自体はこの最初の大部屋の奥にあり、不快な魔力の出所もそこ。といっても、どうやら以前にレーベルが施設を破壊したことで、『魔人』の研究は大打撃を受けていたようで、資金も減らされていたよう。
そんな中、必死に復元した設備が奥の部屋にはあった。
手術台、というよりは解剖台? 金属製のベッドが3台設置されており、それぞれが不快な魔力の温床となっていたので、ホムラと2人でレーザー光線をあて、できる限り浄化しておいた。
『竜魔法』と同様、『龍魔法』にも浄化する効果があるらしい。
「これで最後みたいだね」
「ええ。実験の途中のようなものもありましたが、肝心の『魔人』はいませんでしたわね」
「うん。不快な魔力はあまり感じなくなったから、別の部屋にいるってこともなさそう。ジャームル王国の戦争に複数の『魔人』が投入されていたらしいし、前に襲撃したダーバルド帝国の町でも遭遇したから、完成した『魔人』はどんどん実戦投入されていたんだろうね」
「・・・先ほどの資料によれば、『魔人』を作り出すには土台となる者や融合に使われる魔獣の他に、多数の魔石や魔力を引き出すための奴隷が必要なようでしたから」
「うん。もう、作れない状態だったのかもね。奴隷がいなくて」
♢ ♢ ♢
その後も倉庫部屋などに入り、研究資料と思しき書類等を処分して回った。
遭遇した巡回中の兵士は倒し、倉庫部屋に押し込んである。
順調なら、マーカスたちが建物の出入口全てを封鎖しているころだし、そこまで気を遣わなくても大丈夫だろう。
そうして研究所内をそれなりに回った頃、ようやく召喚に関する研究を行っている場所を発見した。
扉を開け入った先は、石畳の敷かれた広い空間だった。
石畳の上には何やら複雑な模様が描かれており、全体として円形の魔方陣のように見える。
その魔方陣のいくつかの部分に、数人ずつローブを着た者たちが集まり、何やら紙束を片手に話し合っている。
部屋に入ったことには気づかれていないようで、咄嗟に柱の陰に身を潜める。
「コトハ様、この部屋」
ホムラが言いたいことはよく分かる。
この部屋、かなり魔素が濃い。
そのおかげか、『魔力感知』でこの部屋の構造はかなり詳細に把握できた。
私たちが入ってきた扉の他の出入口は右奥にある扉だけ。
うーん、どうするか。
こいつらには聞くべきこともあるんだよなぁ・・・
「よし、ホムラ。向こうの扉は私が塞ぐから、この扉封じといて。後は成り行きでって感じかな」
「畏まりましたわ」
表に出てみたけれど、全く気づかれない。
一応、扉の外に見張りはいたけど、この防犯意識で大丈夫なの?
「こんにちは」
挨拶。
本当に気づいていなかったようで、驚き、飛び退くローブ姿の男たち。
その間に、奥の扉は『土魔法』で完全に塞いでおく。うん、奥にも数名いるみたいだけど、奥の部屋から逃げる術はなさそうだね。
扉を塞ぐ壁は、ここの魔素が濃すぎて思ったよりも強固になってしまった。
「・・・だ、誰だ、お前は・・・うぐぅっ」
近くにいた男に誰何された瞬間、ホムラがその男を蹴り飛ばした。
・・・・・・いや、うん。
ホムラさん、怖ぁ・・・
恐怖を感じたのは私だけではない、というか私が感じたものとは比べものにならない恐怖を感じた様子の皆様は、若干のパニック状態。
そんな中でも、中央にいた男2人だけは、冷静な様子。
おおっ?
「あなたたちのどちらかが、ここの責任者?」
「私がそうだ」
ビンゴ。
ということは、確かユイハさんに聞いた名前だと・・・
「てことは、あなたがバトーラ伯爵?」
「・・・・・・いかにも。私がバトーラ伯爵家、当主ドーン・バトーラである。貴様らは何者だ?不法侵入に研究員への暴行、そして私へのその態度。許されるものではないぞ?」
不快さを隠そうともしない様子のバトーラ伯爵。
まあ、あっちの立場からすると当然だよね。
気にしないんだけどね。
「ん。召喚の研究は、この施設以外ではしてないの?」
「・・・・・・だったらどうなのだ?」
おお。
最終的に私たちを殺せるとでも考えているのか、積極的に話してくれて助かるね。
全部信じることはしないけど、まあ本当なんだろうね。
「ちょっと確認をね。あなたたちが、今まで実際に召喚実行したのは1回だけ?」
「・・・答えると思うのか?」
「さっきまでは素直に答えてくれたのに」
他に施設があるかどうかも、回答が真実かはさておき、それなりに機密情報だと思うんだけどなぁ・・・
本当はこの手段をとらずに必要なことを聞きたかったんだけど・・・
彼らが今日で終わることは決まっているわけだが、別に痛めつけたいわけでも・・・・・・ない?
ユイハたちがされたことを思うと微妙ではあるか。
まあ、いいや。
「ぐはぁ」
バトーラ伯爵の横にいた男の左腕を切り落とした。
同時に魔方陣の外周に沿って『土魔法』を発動させ、内側に向けて無数の鋭い棘を生み出す。
当然、この状態から棘を、順次発射することも可能だ。
「ベズル! 貴様ら、一体何を・・・」
左腕を失った男はベズルっていうのか。
さっきのとは違い執事って感じではないけど、側近なのは違いないだろう。
「それで? 召喚したのは1回だけなの? ああ、別に周りの皆さんが答えてくれてもいいよ。そうじゃないと・・・」
棘を1つ飛ばしてみたが、かなりのスピードで進み、反対の壁に突き刺さった。
石造りの建物の壁に突き刺さるってことは、それなりの威力はありそう。
そして、そのことは十分に伝わった様子。
「・・・1回だけです。半年ほど前に。今は奴隷の数が足りず」
棘が突き刺さった壁の方向で震えていた1人が答えてくれた。
半年前っていうと・・・、うん、ユイハさんたちが召喚された時期と概ね合致するね。
「奴隷の数が足りないってのは?」
「おい!」
バトーラ伯爵が叫んでいるが、睨み付けて黙らし、続きを促す。
「は、はい。その、ええっと・・・、はい。召喚魔法の発動に多くの奴隷を用いるのですが、確保できているのが、その、後1回するのに足りるかどうか、で。前回の魔法ではまだ不備というか、解析できていないところが多いので、それが完了してから」
「・・・今はその作業中?」
「はい」
魔方陣を完璧にしてから再度発動するために、今は解析をしていると。
最初からそうすればいいのにとも思うが、いいか。
その後も脅しつつ聞いてみたところによれば、そもそも召喚魔法は、ダーバルド帝国が昔滅ぼしたエルフの国から奪った書物に記載があったものを偶然発見したらしい。
魔法自体を発動するまでには解析が進んだが、それ以上の部分、具体的には召喚に際して大量の魔力を浴びた状態を利用し、被召喚者の能力として定着させるための構造を盛り込むことに苦労していると。
そのため、最初の召喚では召喚されたユイハさんたちに彼らが求める能力、高い戦闘能力が備わっているかが分からず、テストを行ったんだね。
「他に話せることはないの?」
順に聞いてみたが、もうなさそう。
バトーラ伯爵は、さすがは貴族なのか、私よりも怖いものがあるのか、一向に口を開いてはくれないが、とりあえず聞きたいことは概ね聞けた。
それに、まだ奴隷がいるとの情報も。既にマーカスたちが発見しているかもしれないが、大事な情報だ。
「そのエルフの王国から奪ったっていう書物は? あなたが持ってるやつ?」
ローブ姿の男たち、研究員が手にしているのはそれを写したものだろう。
バトーラ伯爵が目線をそらした様子からするに、そうみたい。
「うっ」
ホムラに合図し取ってきてもらおうとしたところ、ホムラが伯爵の鳩尾に膝蹴りをかました。
その反動で本が落ちたので、それを拾って優雅に歩くホムラ。
本当に怖いって・・・
「同じように膝蹴りされたくなかったら、手に持っているのを地面に置いてくれる?」
研究員たちは素直になっている。
地面に置かれた紙束に漏らすことなく火を付けて、燃やしておくとしよう。
伯爵が何か叫んでいるが聞こえない。
この本はどうしようか。
本来ならエルフの国に返すのが筋なのかもしれないが、あいにく既に国がない。
それに、召喚魔法自体を消し去る方がいいと思うのだが・・・
あ、大事なことを忘れてた。
「召喚魔法って、言わば拉致なわけだけど。元の世界に戻すことは研究しているの?」
「ふんっ。研究などしておらぬわ。そもそも『異世界人』どもは人に非ず。何を気にする必要があるというのだ」
・・・・・・そっか。
やはりこの本は持ち帰り、その部分は調査だな。レーベルに頼むとしよう。
「もういいや。私は優しいから、あなたたちが彼らにどんな苦痛を与えていたのだとしても、長々と同じ苦痛を与えていたぶるようなことはしない。すぐに終わるよ」
言い終わるのと同時、ホムラと一緒に棘の範囲から避難し、魔方陣の内側めがけて全ての棘を発射した。
棘が飛び交い舞った土煙が晴れると、魔方陣の上には肉片が散らばっていた。
・・・・・・これ、瞬殺はできずに結構痛い思いさせてたかも?




